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J2ただ一人のハリルジャパン 山口蛍が胸に秘める「自信」と「決意」

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
ザックジャパン時代のベルギー遠征での山口蛍(中列右から2人目)

日本代表のバヒド・ハリルホジッチ新監督が3月19日に発表した初陣メンバー31人(+サブメンバー12人)の中でただ一人、J2から選出されたのがMF山口蛍(セレッソ大阪)だ。

ベスト4に進出した12年ロンドン五輪で頭角を現すと、アルベルト・ザッケローニ元監督に抜擢された13年の東アジア杯ではMVPに輝く大活躍。14年ブラジルW杯でもメンバー入りし、グループリーグ全3試合に出場した。

ところがW杯後の昨年8月に右膝を負傷。自身は後半戦を棒に振り、キャプテンを失ったチームはJ2に降格した。7カ月ぶり復帰を果たした今季は、開幕から3試合連続フル出場しているものの、本人としては「選ばれないかもと思っていた」というサプライズ選出だけに、「素直にうれしい」。クールな口調の向こうには、「自信」と「決意」が潜んでいる。

「J2から選ばれるのはかなり厳しい」と語っていた2週間前

今季のJ2開幕戦となった3月8日の東京ヴェルディ戦(味スタ)。昨年8月9日に右膝外側半月板を損傷して以来、7カ月ぶりに公式戦のピッチに立った山口蛍は、日本サッカー協会の霜田正浩技術委員長が視察に来ていたことを知らされ、代表入りへの意欲を聞かれると、「それは僕の中ではほとんど考えていないですね」と即答しながら、訥々とした口調で言葉を継いでいった。

「代表への思いはもちろん、なくはないですが、J2はやはり見てもらえる機会が少ないと思いますから。(遠藤)ヤットさんや今野(泰幸)さんの場合は、ザックさんのときに主力としてずっと呼び続けられていたというのがあったからJ2でも呼ばれた。一つ、例外的だったと思います。

今回は監督が替わって、しかもJ2から呼ばれるというのはかなり厳しい道のりだと思います。もちろん、それに逃げるわけではないですけど」

実際、開幕戦では、「練習試合では90分間やってきたけど、公式戦はやっぱり違う。出て、すぐにケガをしてしまったらイヤやなと思って、やる前は心配だった」と話していたように、まずは自分とチームのことで頭がいっぱいだったのだろう。

しかし、それから2週間。新生ハリルジャパンの初陣メンバーとして名を連ねた山口は、2週間前はもとより、ブラジルW杯のころと比べても雰囲気はかなり違っていた。

それは「自信」、あるいは「自覚」だろう。3月21日、岡山のシティライトスタジアムで行われたJ2第3節ファジアーノ岡山戦。開幕戦から3試合連続フル出場を果たした山口は、「自分が思っていたより良いかなと思う」と、フィジカルコンディションに手応えを感じていた。

もちろん、それだけではない。セレッソのキャプテンとして2シーズン目を迎え、中心選手との自覚は確実に増している。J1復帰という特命もある。そしてこの日、さらに感じさせられたのは、文字通り「自分を信じる」ことによって醸し出される「自信」を身につけていることだった。

試合後の取材エリア。岡山のFW押谷祐樹との接触シーンでファウルと判定され、痛恨のPKを献上したシーンについて振り返ったときのことだ。山口は、「レフェリーの判断に文句を言うつもりはないのだけど」という前提付きで、持論を展開した。

「俺は(ボールを)取れると思って行って、足を出しているところに、相手が足でブロックしに来た。だから、ファウルというジャッジはどうなのかなと思う」

山口によれば、Jリーグ開幕前にJFA審判委員会が各クラブで行ったルール講習会で用いられたビデオに、同類のシーンがあり、「俺はそれを確認していた」という。つまり、ファウルとは判定されていなかったということだ。球際での厳しさで世界基準を求めていこうという流れは、自身の信念と合致する。

「レフェリーの判断に文句を言うつもりはないけど、俺は次に同じシーンがあったら、また行く。俺の中では変える必要はないと思っている。あそこは自信を持ってあのプレーに行った。そこには後悔はない」

逆から言えば、球際で激しくいくという持ち味が代表入りにつながる評価を得ているという自負もあるはず。1点リードから追いつかれてドローという結果につながったのはもちろん痛恨だが、山口は試合後もうなだれることはなかった。

ロンドン五輪メンバーがブラジルで誓ったこと

2013年7月、韓国での東アジア杯での練習日の様子
2013年7月、韓国での東アジア杯での練習日の様子

見せ場すらなく、グループリーグ敗退という惨敗を喫したブラジルW杯。コロンビアとの試合に敗れてあっけない終演を迎えた日本代表の多くは、キャンプ地のイトゥに戻っても顔を上げることをできずにいた。誰もが打ちひしがれていた。

そんな中、もう使うことのない練習グラウンドに6人の若手が姿を現したという。失意を抱えながらも、4年後のロシアW杯を見据え、じっとしてはいられなかった。

音頭を取ったのは山口だった。「やるっしょ!」というひと声でグラウンドに出たのは、清武弘嗣、斎藤学、酒井高徳、酒井宏樹、権田修一。ロンドン五輪のメンバーたちだった。「4年後は俺たちが中心メンバーとして日本を引っ張っていこう」。そう誓った。

新生ハリルジャパンには、帰国間際にボールを蹴った6人のうち5人が選ばれた。山口は「人数が多いし、もちろん競争は厳しくなってくると思いますけど、俺の中のスタンスでは、アピールするというより、自分の出せる範囲のことをしっかり出すことが、大事だと思っている。それができれば自然とアピールになっていると思うから、まず俺は、自分のできることを、監督に求められることをしっかりやっていこうという思いです」と言葉に力を込めた。

大きく見せようとしない。しかし、余さずに見せる。そして、監督の要求に全力で応える。それが山口のスタンスだ。

「代表合宿はW杯以来なのでかなり久々だけど、イトゥで感じた思いは今もなくはないと思う。でも、合宿に行ってみないと実感はわかないですね」。そう言って、9カ月ぶりの代表合宿を待ち遠しそうにしていた。

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サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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