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【体操】豪州代表 塚原直也がつり輪の新技「ツカハラ」に挑戦

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
13年7月オーストラリア選手権で優勝した塚原直也(本人提供)

■E難度「李寧(リネイ)からの脚上挙(きゃくじょうきょ)十字懸垂」

体操ニッポンのアテネ五輪金メダリストで、今年4月にオーストラリア国籍を取得した塚原直也(朝日生命)が、オーストラリア代表として出場する今秋の世界選手権(9月30日~10月6日=ベルギー)で、つり輪の新技に挑むことが分かった。

「李寧(リネイ)からの脚上挙(きゃくじょうきょ)十字懸垂」(E難度)で、世界選手権で成功すれば新技として「ツカハラ」の名が付くことになる。

■父の光男氏はムーンサルトを開発

飽くなき向上心は36歳になってもなお健在だった。塚原が、日本代表として出場した06年大会以来7年ぶりとなる、そしてオーストラリア代表として初となる世界選手権で、新技に挑戦することを明らかにした。

「久々の世界舞台になる。演技価値点を上げたいと思い、この技をやろうと決めた。これは力技の組み合わせ技。『李寧』は肩が(後方に)半返しになるので、肩の硬い人は痛くてできないが、僕は柔らかいので大丈夫。本番でもミスなくできると思う」

体操は技によって難度や価値点が決まっている。新技に関しては大会前に申請することになっており、世界選手権か五輪で成功すれば、その選手の名前が付く。

通常は姓が付けられるが、塚原の場合は、ムーンサルト(月面宙返り=後方かかえ込み2回宙返り1回ひねり)を編み出した父の光男氏が、鉄棒と跳馬ですでに「ツカハラ」の技を持っているという事情がある。ムーンサルトは国際体操連盟の登録上は「ツカハラ」という名がついているのだ。

そのため、今回の新技は「ナオヤ ツカハラ」とフルネームになるか、あるいは父子ということで「ツカハラ・ジュニア」と名付けられることも予想される。

日本体操協会副会長を務める光男氏によると、「親子で技に名前がつけば世界でも初のケースになるのではないか」とのこと。04年アテネ五輪の際に史上初として話題になった「父子金メダル」に続く快挙だ。

塚原は08年北京五輪の国内選考会で8位に終わり、4度連続五輪出場の夢を絶たれたが、09年に一念発起してオーストラリアに体操留学。同国代表としてロンドン五輪に出場することを目指した。

滞在日数不足のためにロンドン五輪前の国籍取得は叶わなかったが、このほど4月21日にオーストラリア国籍を取得。7月のオーストラリア選手権で個人総合優勝を飾って今秋の世界選手権代表に選出され、種目別ではつり輪、あん馬、平行棒の3種目の出場権を獲得した。

体操ニッポンでは17歳の高校2年生、白井健三(神奈川県岸根高校)が、日本男子として史上最年少で世界選手権代表の座を射止め、跳馬で新技の「伸身ユルチェンコ3回ひねり」に挑むことを表明している。こちらも世界選手権で成功すれば「シライ」の名前が付く。

白井はゆかでも4回ひねりの大技を入れたD得点7.4の構成を余裕を持ってこなす金メダル有力候補だが、36歳の塚原の底知れぬチャレンジャー精神にも金メダル級の価値がある。

■8月20日に長男が誕生。リオ五輪へ弾み

新技への挑戦を後押しするうれしい出来事もある。昨年11月に結婚した新妻の瑛里さんが、8月20日に2862グラムの長男・綾人(あやと)くんとを出産。出産に立ち会ったという塚原は、「母子ともに健康。目がぱっちりしている」と相好を崩しながら、「オッサンなので大変だけど、これからは子どもの存在もモチベーションになる。頑張る」と意気込んでいる。

今回、7年ぶりに世界選手権に出ることは、16年リオデジャネイロ五輪出場を現実的なターゲットとして掲げていくための再スタートとなる。自身の名の付く新技を成功させれば、世界へのアピールにもつながる。

「目標はリオ五輪にオーストラリアの団体で出ること。そのためには若手選手がもっと成長してもらわないと。僕は話すことは得意ではないので、演技を見せることで引っ張っていければいいと思う」

7年の時を経て、新生・塚原が世界で再び輝きを見せるときが来た。

※塚原直也は1977年6月25日生まれ。父は68年メキシコ五輪、72年ミュンヘン五輪と76年モントリオール五輪で計5つの金メダルを獲得した塚原光男。母・千恵子(旧姓小田)もメキシコ五輪に出場した元体操選手。

朝日生命体操クラブで小5から体操を始め、96年アトランタ五輪、00年シドニー五輪、04年アテネ五輪に日本代表として出場し、アテネ五輪で団体金メダルを獲得。全日本選手権では96年から00年まで5連覇を達成した。09年からオーストラリアに体操留学し、13年4月21日に同国国籍を取得した。

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サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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