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W杯下克上枠は2~3? 柿谷、柴崎、原口らJリーガーは狭き門をこじ開けられるか

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

コンフェデ杯メンバーは4人だけ。“ロンドン五輪世代”は10人

日本サッカー協会が15日に発表した東アジア杯(20~28日=韓国)の日本代表メンバー23人に、FW柿谷曜一朗(C大阪)、FW原口元気(浦和)、FW豊田陽平(鳥栖)、MF柴崎岳(鹿島)らが選ばれた。

今回は欧州組に加えて、ザックジャパン常連組のFW前田遼一(磐田)、MF遠藤保仁(G大阪)、DF今野泰幸(G大阪)らの招集が見送られ、Jリーグの若手中心のメンバー構成となっている。また、3戦全敗だったコンフェデ杯メンバーから選ばれたのがDF栗原勇蔵(横浜FM)ら4人であるのに対し、初選出は柿谷ら10人。10代の選手こそいないものの、“ロンドン五輪世代”も10人含まれており、閉塞感の漂うザックジャパンにとって、新鮮な顔ぶれとなった。

目的は「個のテスト」

若く、フレッシュなメンバー構成で臨む今回の東アジア杯の“真の位置づけ”とはどのようなものか。それは「個人のテスト」だ。

アルベルト・ザッケローニ監督は、「もちろん勝つために戦うが、勝ちにこだわってワールドクラスの才能を見つけなくても良いのか、結果は出なくても代表チームに入ってくる素材を見つけることができると良いのかと問われれば、後者を選ぶ」と答えている。「選手にはできることを思い切りやって欲しいし、自分のできることがJリーグにとどまらず、国際レベルでもできるというのを見せる良いチャンスだ」とも話している。その言葉が意味するものは、指揮官が数日前に語った「個人のテスト」に他ならない。

となれば気になるのは、W杯まで1年を切った今、実際に「個のテスト」で何人の選手が合格し、新たに代表メンバーに割って入れるのかということだ。

「石橋を叩いても渡らない」とさえ言われるほど慎重な性格で知られるザッケローニ監督であるが、現時点の23人全員が11ヶ月後のW杯でメンバーに残っていることは現実的には考えられない。だが一方で指揮官は「チーム内にバランスやパーソナリティーを確保しておかなければいけない」ということを強調しており、入れ替え枠数の予想は難しい。

歴史が教えてくれるヒント

そんな中、日本が過去に出場した4度のW杯のメンバーと本大会1年前のメンバーを比較してみると、W杯本番で新たにメンバーに割って入るためのいくつかの条件があぶり出されてくる。

以下はW杯過去4大会の日本代表のメンバー構成である。オレンジ色に色づけされた選手は、W杯1年前の予選突破時、またはコンフェデ杯でメンバーに入っていなかった選手だ。

W杯1年前とW杯本大会のメンバー比較(97~02年)
W杯1年前とW杯本大会のメンバー比較(97~02年)
(05~13年)
(05~13年)

ここで分かるのは、W杯予選を戦わずに本大会を迎えたトルシエジャパン(98~02年)を除けば、W杯1年前と本大会ではわずか2,3人程度しか選手の入れ替えを行っていないということだ。つまり代表チームとは、W杯予選を戦いながらチームのベースを構築し、選手個々の力を向上していくものであるということ。予選突破時の構成をベースとし、残りの期間は全体のブラッシュアップとウィークポイントの補強に充てるというわけだ。

ポスト遠藤&長谷部探しに本腰?

コンフェデ杯を「足りない部分が何であるかを見極める」ための大会であると語っていたザッケローニ監督が、現時点でどのような補強プランを持っているかは完全には詳らかではないが、一つ言えるのは、1トップのポジションがウィークポイントであると思っていることだ。現在は前田遼一とハーフナー・マイク(フィテッセ)が請け負っているこのポジションには今回、豊田陽平、大迫勇也(鹿島)らが選ばれている。

もう一つ、興味深いのはボランチの争いだ。今回選ばれたMF登録の選手はほとんどがボランチが本職。強烈なミドルシュートを持つ青山敏弘(広島)、鹿島で堂々としたパフォーマンスを見せている柴崎、2列目もこなす山口蛍(C大阪)らが、ザックジャパン常連ながらこれまで出場機会の少なかった高橋秀人と「ポスト遠藤&長谷部」の座を争うことになる。

そして、さらに付け加えたいのが、02年W杯の秋田豊(当時鹿島)、10年W杯の川口能活(磐田)のようなベテランの力が、最後の最後に必要とされる可能性が残されているということだ。

ザッケローニ監督は「タフな戦いになるW杯では、攻撃だけ、守備だけという選手はこのチームには入ってこない」というが、「精神的支柱」となる選手ならば「攻撃だけでも守備だけでもない」選手としての付加価値が評価されるかもしれない。

現時点で、指揮官が現在のチームにかなりの満足感を持ち、今後に向けても相当の自信を見せているのは間違いない。それを踏まえれば、W杯での入れ替え枠は岡田ジャパンやジーコジャパン並みの2,3人であることが予想されるが、一方で選手たちは指揮官以上に「閉塞感」を危惧している。

選手サイドは指揮官以上に閉塞感を危惧している

14日にドイツへ出発した長谷部は、成田空港で新聞各紙の取材に応じ、東アジア杯での国内若手の台頭を歓迎するコメントを出した。

「新しい選手が入ってくるのは大事。すべてのポジションで競争しないといけない。(本田)圭佑も予選ではなく本大会で中心選手になった。今は代表で控えでも来年はレギュラーになる選手もいる」

長谷部が吐露した考えは、もしかするとザッケローニ監督の本音を代弁しているのかも知れない。いずれにせよ、東アジア杯は下克上組の勝負の場。指揮官の期待通り、Jリーグで通用していることがアジアのW杯出場国が軒並み集うこの大会でも通用することを見せつけてほしい。柿谷のトラップからシュートに至るまでの技術、原口の最後まであきらめないストライカー魂、柴崎の堂々とピッチを俯瞰する戦術眼……そして選ばれし全員が自分の良さを出す姿を見たい。

W杯までの入れ替え枠はおそらく少ない。だからこそ、ハイレベルな争いを繰り広げて生き残り、11か月後の日本代表の力となってほしい。

長谷部が下克上歓迎(日刊スポーツ)

東アジア杯メンバー23人に柿谷ら選出(ゲキサカ)

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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