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Jリーグ そこに「カズ魂」はあるか~三浦知良が示すもの

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

ネイマールのシュートを何度も見て

コンフェデレーションズ杯グループリーグ3連敗で意気消沈する日本サッカー界の目を覚まさせるような一撃だった。

7月3日のJ2第22節・横浜FC対栃木SC戦。今季4度目となる先発出場を果たした「キング・カズ」こと三浦知良は、キックオフからわずか16秒でゴールを決め、「Jリーグ最年長先発」による「最年長得点」の記録を更新した。

国際サッカー連盟(FIFA)の公式サイトに「Evergreen Miura extends his own record(色褪せることのない三浦が自身の記録を更新)」と取り上げられたことも、大会の舞台がJ2であることを考えればまさに“快挙”だ。

ゴール正面左側からの左足シュートは、6月30日に行われたコンフェデ杯決勝ブラジル対スペイン戦で、ネイマールが決めたシュートのイメージだという。4日のスポーツ新聞各紙には「左足はネイマールのイメージだった」とのコメントが大きく載っている。「何度もビデオを見てイメージを作っていた」とのコメントもあった。

衰えぬ進取の気象

コンフェデ杯決勝のネイマールの得点シーンがいまだ目に焼き付いている筆者にとっては、46歳(4カ月7日!)の三浦が21歳の天童のプレーに触発され、さらなる前進を遂げたことに感動を覚える。

あの試合のネイマールのゴールに至るまでの動きとシュート技術は本当に絶品で、コンフェデ杯に於ける彼は、日本戦を含めて準決勝までに見せてきた素晴らしい3得点の後に「とどめ弾」としてあのゴールを入れ、次なるサッカー界の顔としての印象を決定づけたのだ。

ネイマールが6月まで所属していたサントスFCは、15歳でブラジルに単身で渡った三浦が、20歳で初めてプロ契約を勝ち取ったクラブでもある。思い出の古巣から飛び出してきたニューヒーローのプレーを、胸を躍らせながら見入っている三浦。46歳になってなお衰えぬ進取の気象には、驚かされるばかりである。

僕ら選手はグラウンドでベストを尽くす。それしかない

常に前進し続けている三浦の胸に、一本の芯として存在する思いが何であるかを改めて知ったのは、5月17日に東京都内のホテルで行われたJリーグ20周年記念パーティーでのことだった。

『Jリーグクロニクル ベストイレブン』に最高得票数で選ばれた三浦は、囲み取材の席で「20年はどのような時間だったか?」と聞かれ、「26歳の時に開幕して、46歳まで本当にあっという間だった」と、セレモニーの場にふさわしい壮麗なムードを醸しながらも淡々と言った。

「Jリーグが世界に誇れるところは何であると思うか?」との問いには「この20年で底辺が広がり、チーム数は(10チームから)40チームになった。組織だった運営は世界トップレベルだと思う。J1もJ2もレベルが上がってきている。20年の積み重ねと実績は、世界に誇れると思う」と答えている。

そして、「Jリーグは今後どうなっていくべきか?」と聞かれると、言葉に力を込めながらこう言った。

「世界ではトップレベルの国でも今なお努力をしている。日本はそれ以上に努力しないと世界のトップにはなれない。それには、僕ら選手はグラウンドでベストを尽くす。それしかない。僕はこれからも今までと同じように情熱を持って、全力を尽くしてやっていきたい」

三浦の取材時間が終わりに近づいたタイミングで、ゲストとしてパーティーに出席していたジーコが取材エリアにやってきた。姿を見て、互いに挨拶をする2人。自然と「2ショット」での取材タイムになる。

ジーコは三浦について聞かれると、よどみない口調で言った。

「あえて『カズー』と呼ばせてもらう。カズーはJリーグ創設当初から今までずっと日本サッカーを引っ張ってきている。日本の進化はカズーから始まったといっても過言ではない。パイオニアとして、(サッカー界での)日本人の価値を高めたのは彼だ。サッカーに対する執念、情熱を今まで継続しつづけることができるのはカズーしかいない

神様からキングへ送られた最大の賛辞。親しみと敬意のこもった言葉遣いが三浦を温かく包み込んでいた。

何人のJリーガーが共有できるか

筆者の耳の奥では、あのとき三浦があらためて周知するかのように発した「僕ら選手はグラウンドでベストを尽くす。それしかない」という硬質な響きが、今なお重みを持って転がり続けている。

日本代表の大半が海外組になっても、日本サッカーの強化のベースはやはりJリーグだから。サッカーが醸成する、地域の人々の幸せのベースはJリーグであるから。

コンフェデ杯のため、約1カ月間中断していたJリーグは6日(土)に再開する。

見たいのはピッチで全力を尽くすJリーガーの姿。熱く、クールに、妥協することなく90分間を駆け抜ける姿。三浦が今なお追求する思いを、何人のJリーガーが共有し、体現できるか。日本サッカーの未来はここに懸かっている。

FIFA.com 三浦の記事

http://www.fifa.com/worldfootball/clubfootball/news/newsid=2131854.html

Jリーグ20周年記念クロニクルベスト

http://www.j-league.or.jp/release/000/00005072.html

強烈なインパクトのネイマール

http://web.gekisaka.jp/397213_121055_fl

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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