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香川真司を、仲間を、2倍輝かせる本田圭佑

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

3大会連続の世界最速W杯切符を懸けて

5大会連続5度目のW杯出場権獲得を懸けたW杯ブラジル大会アジア最終予選・オーストラリア戦はいよいよ今日6月4日(火)19時30分より、埼玉スタジアムで行われる。

引き分け以上で出場権を獲得できるこの試合は、日本代表にとって史上初めてホームで歓喜の瞬間を味わうことのできる重要な一戦だ。ジーコジャパン、岡田ジャパンに続く、3大会連続での世界最速W杯切符獲得も懸かっている。

舞台となる埼玉スタジアムは、10年秋にザッケローニ監督が就任して以来4試合を行っており、成績は5戦全勝。しかも5試合とも無失点で勝利を収めている。

“最強ホーム”での戦いを翌日に控えた3日、ザックジャパンにチームの最重要人物が合流した。ピッチのどこにいても目立つ金髪。ケガによる戦線離脱から戻るたびに存在感を増してきた男。本田圭佑(CSKAモスクワ)だ。

不思議なほどのデジャビュ

ちょうど1年前の12年6月3日、本田は今回とそっくりなシチュエーションで埼スタのピッチに立っていた。W杯アジア最終予選第1戦、オマーンとの試合だった。

本田は右ひざの負傷で11年8月から長い間、代表の戦列を離脱。しかし、オマーン戦に向けての強化試合だった12年5月23日の親善試合アゼルバイジャン戦で日本代表として9カ月ぶりにピッチに立つと、抜群のボールキープ力と統率力でチームをけん引した。

前半42分には香川真司(マンチェスタ-・ユナイテッド)の先制ゴールの起点となり、後半13分には岡崎慎司(シュツットガルト)の追加点をアシスト。チームを2-0での勝利に導いた。

故障で4カ月ぶりの代表復帰となった今回と酷似しているのは、本田を欠いて戦ったアゼルバイジャン戦前のザックジャパンが、すでに突破を決めていたアジア3次予選の最後の2試合をいずれも無得点で連敗し、締まりのない姿をさらしていたことである。

前回、そのようなタイミングで代表に復帰した本田は、暗雲の漂いかけていたチームを一変させるハイレベルなプレーを連発。本田の復帰後、チームはアゼルバイジャン戦を2-0で制すると、埼スタでのオマーン戦で3-0、ヨルダン戦で6-0と、面白いように得点力を上げてった。

強靱な体を生かしてボールをキープし、パスを差配し、チャンスを生み出していく本田がいればこその決定力アップだった。

香川と本田が近くにいれば何かが起こる

日本代表の攻撃陣には、細かく正確にボールを扱うテクニックや、スピード、敏捷性を持った選手がそろっており、中でも香川の攻撃センスは抜群のものがある。それは名門のマンUに認められて移籍し、主力の1人としてチームをプレミアリーグ優勝へ導いたことからも明らかだ。アタッキングサードで前を向いたときのクオリティーの高さは群を抜いている。

ただ、香川の場合、ドリブルによる独力突破や、ミドルシュートなどパワーの必要なプレーはさほど得意ではなく、基本的にはコンビネーションプレーの相棒が必要なタイプである。

一方で本田の持つ凄味は、彼が入ることによって他の選手のプレーが確実にアップグレードしていくこと。とりわけ本田と近い距離にいるときの香川は、2倍も3倍も相手の脅威になりうる。

日本はオーストラリアがロングボールを多用してくると読んでいる。また、ロングボールを蹴られて日本の最終ラインが下がればミドルシュートを打ってくるのはもちろんのこと、CKやFKを取るような仕掛けもしてくるだろう。

日本はこのところ3試合連続でセットプレーから失点しており、だからこそ相当な修正を施しているのは間違いないが、オーストラリア戦の場合は、マンマークの相手と常にミスマッチになってしまうし、それは身長差を見れば避けようがない。

初めてホームで決めるW杯…歓喜のシーンが目に浮かぶ

オーストラリアで最も空中戦に強いのは178センチと決して大きくないケーヒル。バスケットのダブルクラッチのように、空中で止まって見えるほどのジャンプ力があり、過去の日本戦で多くのゴールを決めてきた選手だ。

ケーヒル以外の要注意選手は軒並み長身だ。先発するかは微妙だが、09年から名古屋グランパスでプレーしている194センチのケネディは10、11年Jリーグ得点王。彼を含め、チームに190センチ以上が7人もいるような長身チームなのだから、守るのが簡単であるはずがない。

耐える時間が長くなれば、90分を無失点で終わろうというのは難しい。そこで大事になってくるのが攻撃陣の役割だ。ボールを保持する時間を長くしてピンチの回数を極力少なくし、じっくり攻めていく中で先に得点を取りたい。先制点が入れば優位に試合を進められる。

そういった中、一つ気になることはある。選手たちが本田に対して信頼感を持ち過ぎではないか、言い換えれば依存してはいまいかということだ。

チーム内ではここ数日、本田の合流を待ち望む声が多くなっていた。1年前に本田が見せた“カンフル効果”を期待しているのか、2連敗という悪い流れで強豪オーストラリア戦を迎える今、選手達の胸の中で、個々の能力を引き出してくれさえする本田の存在が膨らんでいるようなのだ。ザッケローニ監督も「ヨルダン戦はチャンスはあったが決定力がなかった。本田が入れば決定力が上がる」と大きな期待を寄せる。

だが、ザックジャパンの戦士にはそのようなメンタルの持ち主はいないはずだ。見たいのは本田の雄叫び。香川の満面の笑み。岡崎の泥臭さ、前田の爆発。清武や乾の躍動。チームメートを2倍も3倍も輝かせる本田が戻ってきたのだから、その期待を持つのは自然だ。

埼スタを舞台に、ホームで初めて味わうW杯決定の歓喜。永遠保存版となるその瞬間の姿は、すでにすべてのサッカーファンの胸にある。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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