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『トップ下・香川』を生かせ!カナダ戦を終え、岡崎が長谷部が“提言”

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

トップ下。それは、香川真司を名門マンチェスター・ユナイテッドに招き入れた黄金の鍵である。

勝てば5大会連続のW杯出場が決まるヨルダン戦を4日後に控えた22日、練習試合の意味合いで行われた日本代表対カナダ戦(カタール・ドーハ)。本田圭佑が不在のこの試合で、香川は12年2月29日のW杯アジア3次予選・ウズベキスタン戦以来1年1カ月ぶりとなるトップ下での先発を果たした。

今年2月のラトビア戦後は、一貫して「トップ下にはこだわらない。左サイドで自分の形を確立したいし、どちらのポジションで出てもチームの勝利のために全力を尽くす」と語っていた香川だが、トップ下での先発には、やはり胸の躍る思いがあったに違いない。それはカナダ戦後の「アピールしたいという気持ちは僕にもあった」という発言からも見て取れる。

ところが結果は、自他共に認める不完全燃焼だった。9分の岡崎慎司の先制シーンは香川の飛び出しが相手のミスを誘ってのものだったし、74分のハーフナー・マイクの決勝点も、酒井高徳の左クロスにニアでつぶれてお膳立てをしているが、この程度の“点への絡み方”では満足できるレベルではないということ。自身からも周囲からも、とてつもなく高いレベルの要求がある。それが香川なのだ。

岡崎「考えすぎているように思う」

カナダ戦でトップ下でのプレーがうまくいかなかったのはなぜか。要因の一つとして考えられることを、トップ下の香川の右隣、右サイドハーフで先発した岡崎慎司(シュツットガルト)がこう説明する。

「(香川)真司は、僕がサイドに行ったときに近寄るなと監督に言われているので、それで自由に動き切れなかったんじゃないかな。考えすぎているように思う

この点については香川自身も岡崎の指摘に首肯するようなコメントをしている。

「監督に言われたことにプラスアルファして、流れを見ながらやっていかないといけないですけどね。でも、それが日本人の良くないところでもあるし、いいところでもあるんでね…」

指示されたことにとらわれがちな日本人の気質を自身の中に見つけて、戸惑っている様子が窺える。

岡崎はまた、香川のところでポジションチェンジが少なかった理由についても言及している。

「いつもやっているのではなく、たまに入ったところでポジションチェンジをすると、“なんでやるんだ!”ということになる(のでやりづらい)。自信というのは何試合も繰り返すことによって出てくるので、1回では難しい」

確かに、本田がトップ下にいて自身が左サイドにいるときの香川は自在なポジションチェンジを見せていた。本田とは常に近い距離感を保ち、また、ポジションチェンジの回数も頻繁だ。中と左、前と後ろ。流動的でアイデアに溢れるポジションチェンジは守備の的を絞りにくくさせ、多くのチャンスを生み出してきた。岡崎の見解によれば、ザックジャパンではトップ下でのプレー回数が少ないために、その域まで達していないというのだ。

香川の良さを仲間の共同作業で引き出したい

また、ボランチの長谷部誠(ボルフスブルク)は周囲の理解と協力が必要な段階に来ていることを指摘する。

「真司の一番はゴール前でのプレー。今日、トップ下で出ているときも、前を向いてプレーしているときは良いところを出せていたし、逆に相手を背負ったときには簡単にボールを失うこともあった。トップ下でプレーしているときの彼の良さを引き出してやるような周りの気遣いも大事なのかと思う」

ザックジャパンではまだ未開の“トップ下・香川”。その計り知れないポテンシャルを仲間の相互理解によって引き出していけば、このチームはとてつもない高みに足を踏み入れられるはず。それはザックジャパンのメンバー全員の一致した見解だろう。セカンドボールの処理や選手の距離感など、ヨルダン戦に向けての課題が浮かび上がったカナダ戦は、一方で、チームをさらにランクアップさせるための鍵となる課題を浮かび上がらせる試合でもあった。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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