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『ドラゴンボール』のかめはめ波。自分にも撃てそうな気がするけど、本当はどうなのか!?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

かめはめ波を撃ちたい!

そう思っている人はメチャクチャ多いだろう。もちろん筆者も、その一人だ。

しかも、すごい威力のワザなのに、うっすらと「オレも撃てるのでは……」という気がしてしまう。

それは『ドラゴンボール』において、かめはめ波は「気」のエネルギーを溜めて、一気に打ち出す技、と説明されていたからだろう。

やる気や元気や弱気など、「気」は誰もが持っているから、体力や技術はなくても、精神力でなんとかなる……と思うのかもしれない。

とはいえ、「気」というものは科学的に未解明の概念で、定義が明確なわけでもない。そこで本稿では「気」とは「体内のエネルギー」の総称と考えて話を進めたい。

その場合、われわれ一般人は、どうすればかめはめ波を撃つことができるのか?

◆意外とすごい人間の体内エネルギー

ここでは、天下一武道会の決勝戦で、孫悟空がピッコロ大魔王に撃ったかめはめ波を例に考えてみよう。

悟空はかめはめ波を空中から放ち、岩でできた武舞場を破壊して、直径10m、深さ3mほどのクレーターを作った。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

岩の破壊の様子から、このときのかめはめ波は、爆薬26kg=ダイナマイト130本分のエネルギーを持っていた計算になる。そんなエネルギーが人間の体内にあるのだろうか?

ある!

爆薬26kgとは2万6千kcal。このくらいのエネルギーは、われわれも体のなかに持っている。

たとえば体重50kg、体脂肪率20%の人の体には、10kgの体脂肪がある。

脂肪1gには9kcalのエネルギーが含まれるから、10kgなら9万kcal。人間は誰でもダイナマイト450本分ほどのエネルギーを持っているのだ。

単純計算すれば、前述のかめはめ波なら3発は放てることになる。

問題は、どうすればそのエネルギーを武器にできるか、だ。

かめはめ波は両手のあいだに気を溜めて、相手にぶつける。つまり、まずは手のひらのあいだに、体内のエネルギーを溜める必要があるのだ。

悟空はこれを「か~め~は~め~」と言いながら、わずか5秒くらいのあいだにやっている。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

われわれの体からは、常にエネルギーが放出されている。

人間は、1日に2千kcalほどのエネルギーを食べものから摂る。その半分は生きるのに使われ、残り半分の1千kcalが熱となり、体の外に出される。

常に放出されているエネルギーとは、この1千kcalの熱のことだ。手のひらの面積は、両手で体の表面積の50分の1ほどだから、左右の手のひらからは1日に合計20kcalの熱が出ている計算になる。

だったら、話は簡単だ。両手を丸くしてぴったり合わせ、この熱を手のひらのあいだの空気に溜めればいい!

目標は2万6千kcalだから、1日に20kcalずつ溜めていくと……、ええっ、1300日=3年7ヵ月もかかる!? 悟空は5秒でできるのに!?

うむむむ、これはなかなか長い。

高校3年間のすべてを捧げ、卒業してもまだ溜め終わらない。

そのあいだ、学校でも家でも、ず~っと手のひらを向かい合わせにしたまま。鉛筆も持てないので、宿題も部活もできないし、学校の試験も受けられるかどうか……。

◆3年7ヵ月のガマンの成果は!?

でもそこまで頑張れば、3年7ヵ月後、念願のかめはめ波を撃つことができて、直径10m、深さ3mものクレーターを作れるのか!?

実は、話はそう簡単ではない。

前述の「20kcal×1300日」とは「それだけのエネルギーを蓄積できるなら」という仮定の話であり、現実的にはこれが意外と難しいのだ。ぬか喜びさせて、すみません。

熱のエネルギーは「自然のままでは」温度の低いほうから高いほうへは移らない。

両手を合わせてかめはめ波のエネルギーを溜める場合も、手のひらのあいだの空気は、初めのうちは温度が上がっていくが、体温と同じになったら、それ以上には上がらなくなる。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

こうして作ったかめはめ波の威力は、悲しいまでに小さい。

手のひらのあいだの空気が直径10cmの球なら、溜められるエネルギーは、2cal。1gの水の温度を2度上げるエネルギーでしかない。

3年7ヵ月の苦行に耐え、いよいよ敵に「か~め~は~め~波ッ!」とぶつけたところで、相手はホワッとかすかな温かみを感じるだけ。

寒い季節だったら、むしろ喜ばれるだろう。青春を捧げてこの結果とは、あまりに無念である。

では、どうすればいいのか。

「人工的に」熱を温度の低いほうから高いほうに移せばよいのだ。

これは、たとえばエアコンが実現している。この機械が室内を涼しくしてくれるのは、電力を使って、温度の低い室内から、温度の高い屋外に、熱を移動させているから。このような装置が「ヒートポンプ」で、冷蔵庫にも温水器にも使われている。

現在はまだ作られていないが、性能のいいヒートポンプのついた手袋などが開発されれば、温度の低い手のひらから、温度の高い空気に熱を移すことができるだろう。

それすなわち、かめはめ波が撃てるということだ!

◆実践するときの危険性

しかし、悟空はヒートポンプつき手袋など使わずに、すごい威力のかめはめ波を撃っている。これは本当にすごい。

科学的に考えれば、かめはめ波の実践には、さらなるキケンがつきまとう。

手のひらのあいだに2万6千kcalもの熱を溜めると、空気の温度は2億4千万度にも上がる。その空気は膨張し、押さえ込むのに6万7千tもの力を要する。

しかも、それほどすごいエネルギーを「かめはめ波!」と開放した瞬間、6万7千tの力で圧縮されていた空気は、爆発的に大膨張。つまり自分の手元で大爆発が起こる。

その爆風は衝撃波となって全方位に広がるから、敵もやられるが、自分もただでは済まない……。

われら並の人間が扱うと、大惨事さえ予想されるかめはめ波を、悟空は涼しい顔で操っているのだ。

それこそ恐らく修行の成果。

どうしてもかめはめ波を撃ちたいわれわれは、熱を溜められるヒートポンプ手袋の開発を急ぐと同時に、キビシイ修行に明け暮れて、悟空のようにエネルギーを自在に操れるようになっておかねばならない。

さあ、修行だ修行!

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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