こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

『ドラゴンボール』の終盤に暴れまわった魔人ブウを覚えていますか。

数百万年前に魔導師ビビディが生み出したともいわれる怪物。長く封印されていたが、ビビディの息子・バビディの手でよみがえった。

まことに恐ろしいヤツで、人間をお菓子に変えて食べてしまい、口から吐く光で、見渡す限りを焼け野原にする。

しまいには、あろうことか地球人を全滅させ、地球を消滅させてしまった……!

こういう事態に立ち至ったのは、ブウが常識では考えられない再生能力を持っていたからだ。

槍で刺されても、バズーカで撃たれても、たちまち傷が修復する。体がバラバラになっても、その破片の1つ1つを焼かれても、平然と復活。猛毒を盛られてもケロリとしていた。

悟空たちは、地球消滅の寸前に界王神界へ退避し、ドラゴンボールで地球と地球人をよみがえらせ、みんなから分けてもらった元気で、特大の「元気玉」を作って、ようやくブウを倒した。

戦いは、このナレーションで幕を閉じた。

「ついに魔人ブウは消え去った……それは文字通り細胞ひとつ残さず完全に消え去ったのである……」。

なんとか倒せてよかったが、細胞ひとつ残さず完全に消え去った!? それはいったい、どんな倒し方なのか!?

◆なぜブウは不死身なのか?

『ドラゴンボール』の世界では、生死の垣根がまことに低い。

悟空もベジータも一度は死んでいて、時間限定でこの世に戻って戦った。ナメック星人のデンデは、死んだ人に手を触れるだけで生き返らせる。また前述のように、ドラゴンボールの力で、全滅した地球人が全員復活するという大量生き返りも発生した。

そうした世界観を思えば、魔人ブウは立派である。

何をされても死なない。つまり、生死の境を決して越えず、ただ一人、おのれの「生」を守り抜いているのだ。

この人だけ、なぜそんなことが可能なのか?

多細胞生物の場合、同じ種類の細胞が集まって組織を作り、組織が組み合わさって、消化器や循環器などの器官を作る。

器官は高度に専門化されているため、脳や心臓といった重要な臓器を破壊されると、個体は死んでしまう。

だが、魔人ブウにこうした常識は通用しないようだ。

胸に大きな穴をあけられても、すぐに元どおりになる。これはもう、体が器官に分かれていないか、分かれていても猛スピードで細胞⇒組織⇒器官という再生を果たすのだと思われる。

そういう生物は、細胞が1個でも生きていれば、何事もなかったように復活するに違いない。まことに厄介な敵であり、作中のナレーションが言うように、魔人ブウを倒す方法は「細胞ひとつ残らず消し去る」しかないのだろう。

細胞を消し去る方法は、通常の生物なら簡単だ。

炎や熱線を浴びせれば、70度でタンパク質が変性して元に戻らなくなり、90度でDNAの二重螺旋がバラバラにほどける。

数百度にも加熱すれば、周囲の酸素と反応して燃え上がり、細胞など跡形もなくなってしまう。

しかし、それも魔人ブウには通用しない。

ベジータが命と引き換えに起こした爆発では、直径数kmはあろうかという光球が発生した。この規模になると、温度は数百万度に達したはずで、さすがのブウも、いったんはバラバラになった。

が、破片がそれぞれ小さなブウとなり、合体して元の姿に戻ったのである。ブウの細胞は、高温にさらされても、変性も、分解も、燃焼もしないようだ。

――こうなるともう、細胞のもう一つ下の段階、すなわち「原子レベル」で破壊するしかないだろう。

◆石油25万tのエネルギー

ブウもこの宇宙に存在する以上、体は原子でできているはずだ。この前提も通用しなくなると、もうお手上げになってしまう。

そこで、ここでは魔人ブウの体重を100kg、原子の構成比を人体と同じ、と仮定させてもらいたい。すると、酸素65%、炭素18%、水素10%、窒素3%、その他の原子が微量……ということになる。

原子を破壊するには、原子核をバラバラにするしかなく、その際には莫大なエネルギーが出入りする。たとえば原子力発電は、ウランなどの原子核が壊れるときに出るエネルギーで電気を作るが、石油を燃やす火力発電で、1kgのウランと同じエネルギーを作るには、90tもの石油が必要だ。

魔人ブウを消し去った元気玉は、どれほどのエネルギーを持っていたのだろう?

前記はエネルギーが出てくるときの反応の例だが、生物の体を作る炭素、酸素、水素、窒素の原子核を破壊するには、逆にエネルギーを注ぎ込まなければならない。

これら4種の原子核をバラバラにすると、最終的には安定したヘリウムになる。ヘリウムの原子は他の原子と結びつかないため、細胞の材料にはなり得ない。つまり魔人ブウは完全に虚空、または宇宙に消えていくことになる。

これに必要なエネルギーは、石油に換算すると、なんと25万t分だ!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆人間1人あたりの負担は?

悟空はこれほどのエネルギーを人々の元気から集めたわけだが、提供した人たちは大丈夫だったのか。

ベジータは「かなり疲れるが心配するな! 思い切り走った後と同じようなもんだ!」と人々を説得していた。

思い切り走った後くらい? 本当にそんなもので済むのだろうか?

元気を分けてくれたのは、地球人、ナメック星人、未来から来た人造人間、人造人間8号、閻魔大王をはじめとするあの世の人たちだった。

現在の地球人口は78億人。ナメック星人など強力な人々は数が少なかったが、彼らは体力が地球人とは比較にならなかったから、地球人換算で100億人から元気をもらったとしよう。

すると、1人あたりが負担したエネルギーは270kcalとなる。

おお、それはすごい。270kcalなら可能ではないか。

それは、成人男性が1日に消費する2500kcal前後の1割強。人間が1km走ると体重1kgあたり1kcalを消費する。270kcalとは、体重70kgの人が3.8km走ったときに消費するエネルギーなのだ。

確かに思い切り走った後くらい! ベジータの言葉は、科学的にも正しかった!

あのすさまじい元気玉が、空想科学的にナットクの数値だったとはオドロキである。

そして、全人類と仲間たちが力を合わせれば、これほどスゴイことができるのか……と、しみじみ感動してしまう。