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びっくり! スーパー戦隊シリーズ『ゴーグルV』の秘密基地は、なんと「後楽園球場の下」にあった!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

特撮番組に秘密基地は欠かせない。

それらは絶海の孤島や、海底や、地底など、人目に触れない場所に建設されることが多かったが、「秘密」の基地なのだから当然かもしれない。

ところが、そうでない基地も存在するのである。

たとえば『ウルトラマンタロウ』の正義のチーム・ZATの極東日本支部は、東京都千代田区霞が関1丁目1番地にあった。所在地が番地まで明示された基地というのも珍しいが、外観も珍しかった。

ビル群の上空に、赤と銀に彩色された円盤型の構造物が、巨大な支柱に支えられて堂々と立っていたのだ。隠すどころか、大々的に誇示!

しかも霞が関とは、わが国有数の官公庁街。

調べてみると、1丁目1番地1号には法務省、最高検察庁、東京高等検察庁、地方検察庁、2号には東京家庭裁判所、簡易裁判所、3号には弁護士会館、4号には東京高等裁判所、地方裁判所がある。司法の心臓部だ。

ZAT基地は、それらの建物の上や隙間に柱を建てて、その上に設置したのだろう。ZATと法曹界が上下に棲み分けているわけだが、基地の性格上、しばしば怪獣や宇宙人に狙われていた。法曹の人々は、そんな環境で、裁判その他を粛々と進めることができたのだろうか?

そして、ZAT基地と同じように、都心のど真ん中に基地を作っていた組織がある。

『大戦隊ゴーグルV(ファイブ)』の未来科学研究所で、その基地は後楽園球場の真下!

本稿では、このビックリ秘密基地のヒミツについて考察したい。真剣に考えると、これはとても面白い話である。

◆試合中にマシンが発進!

『大戦隊ゴーグルV』は、スーパー戦隊シリーズの第6作。未来科学研究所の基地は、後楽園球場の地下に築かれていた。

研究所の建物は、地下40階建て!

しかも、内部には身長55mのゴーグルロボを輸送するゴーグルシーザー(全長120m)が格納されており、出動時にはなんと後楽園球場全体をせり上げて、シーザーはその下から発進するのだ!

出撃のシーンは、こんなふうに描写されていた。

ジャイアンツの選手がヒットを打ち、ランナーが帰って歓声にわく後楽園球場。そのとき、地下の未来科学研究所に、ゴーグルロボ発進の要請が入る。

これを受け、どう見ても小学生のタツヤくんが「リフトアップ!」とかけ声をかけると、後楽園球場がしゅるるるる~っと、外壁の6倍ほどの高さまでせり上がる。10秒ほどで上昇が止まると、ゴーグルシーザーというマシンが、傾斜した発射台から発進!

小学生が指令を出して大丈夫か、とか、タツヤくんは学校に行かなくていいのか、とか気になることは多々あるが、いま注目すべきはそれではない。

驚いたことに、球場がせり上がるとき、試合が中断された様子がないのである。それどころか、選手たちは試合に集中し、観客は熱狂的に応援を続けていた。自分たちのいる球場が持ち上がり、その下から巨大なマシンが発進したことには、選手も観客も気づいていないようなのだ。

恐るべき話である。

後楽園球場は、1987年まで読売ジャイアンツなどの本拠地として使われた球場だ。いまの東京ドームの前身で、収容観客数は約4万2千人。

解体されてだいぶ経つため、球場の正確なサイズはわからないのだが、東京ドームのデータから推測して、外壁の高さは平均30mほどではないだろうか。

マシンが発進する際、球場は外壁の6倍ほどせり上がったから、すると上昇する高さは180m。東京タワーのメインデッキ(大展望台)が地上150mだから、球場はそれより高くまで持ち上がったのだろう。

そうなると周囲の眺望も大きく変わったはずだが、観客はそれに気づかないほど試合に集中しているのだ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

それほど面白い試合を展開している選手たちを称えるべきかもしれない。

『大戦隊ゴーグルV』が放送された82年のジャイアンツは、シーズン終盤まで中日ドラゴンズと優勝を争った。投手に江川卓、西本聖、定岡正二を擁し、打撃では原辰徳と中畑清が活躍、篠塚利夫が華麗な守備を見せて、松本匡史は盗塁王に輝き……。

往時の顔ぶれを思い出して、感慨に浸っている場合ではない。球場を180mも持ち上げるなど、あまりの大事業である。

しかも、彼らは仕事がモノスゴク速い。球場が上昇している時間を計測すると、第1話では14秒、第2話ではたった9秒!

◆メカの発進が、試合結果を左右する!

しかし、いかに試合に熱中していたとはいえ、球場を持ち上げられて、選手や観客がそれに気づかないことがあるだろうか?

ここでは、9秒で持ち上げる場合を考えよう。この間に180m上昇させるわけだが、最も力が小さくて済むのは、スピードをゆっくり上げながら4.5秒かけて90m持ち上げ、今度はスピードを落としながら4.5秒後に停止させたときだ。

人間が乗った物体が、スピードを加減速すると、乗っている人は力を受ける。エレベーターが動くときと止まるときに、体が重くなったり軽くなったりするのを感じるが、ゴーグルシーザーの発進でもそれと同じ現象が起こるはずなのだ。しかも、かなり激しく。

4.5秒で90m持ち上げるには、自由落下の90%の勢いで加速しなければならない。すると、球場の人々にとっては、重力がいきなり1.9倍になったのと同じことになる。これは重い。選手は膝をつき、ビール販売のおネエさんはへたり込み、観客はお弁当を落としてしまうのではないか。

試合中のボールの行方も心配だ。フライはいきなり1.9倍の速度になって落ちてくる。これは怖くて取れないだろう。

飛距離も1.9分の1になるから、飛距離130mのホームラン!と思ったら、飛距離68mのセンターフライに。

ここまでは、球場が上昇している4.5秒間のできごとだ。

続く4.5秒間は上昇スピードを落とすことになるが、このときも大変である。重力が90%減り、つまり普段の10分の1になってしまう。

宇宙飛行士の毛利衛さんは、飛行機による無重力訓練を受けたとき、重力が10分の1になった時点で無重力と感じたという。すると、減速中の後楽園球場も感覚的には無重力。興奮して立ち上がった観客はふわっと浮き上がり、観客のポップコーンは宙を舞う。グラウンドでは、ピッチャーフライと思われた打球がふわふわと上昇していって場外ホームランに……! 

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

これはもう、観客の安全や試合の勝敗、場合によっては優勝の行方さえ左右しかねない大影響が出るということではないか。気づこうよ、選手も観客も。

いや、選手や観客が悪いのではなく、そんなところに基地を作った未来科学研究所がいけません。やはり秘密基地は、人の少ないところに作るべきですなあ。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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