こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

『鬼滅の刃』における9人の柱のうち、最年少の「霞柱」が時透無一郎だ。

14歳なのに、上弦の伍の玉壺(ぎょっこ)と対峙しても動じず、それどころか「随分感覚が鈍いみたいだね 何百年も生きているからだよ」とか「そう言われても君には尊敬できる所が一つも無いからなあ」など、毒舌を吐く。中性的で優しい顔立ちと、遠慮のない物言いのギャップが爽快であった。

もちろん口先だけの人ではない。この人は、刀を握ってからたった2ヵ月で柱になったという天才なのだ。毒舌で玉壺を嘲弄すると同時に、剣でも圧倒した。

ここで注目したいのは、玉壺が放った「粘魚」への対処法だ。

◆1万匹の魚を斬る!

無一郎にボロクソに言われて腹を立てた玉壺は、10本の手に持った10個の壺から、空飛ぶ魚の群れを出した。その名も「血気術 一万滑空粘魚!!」。

玉壺は「一万匹の刺客がお前を骨まで食いつくす!!」と叫んでいたから、本当に1万匹いるのだろう。

小柄な無一郎の体重は56kgなので、1万匹だと骨まで食い尽くしても1匹あたり5.6gしか食べられない。粘魚はそれで足りるのか……って、よけいなお世話ですね。

ここで無一郎は「霞の呼吸 陸ノ型 月の霞消(かしょう)」を出す。マンガの描写を見れば、ジャンプして空中で回転しながら斬る技のようだ。

この技の威力はすごくて、玉壺は「ぜ!!! 全部斬りおった」と驚愕していた。続けて「この速度と攻撃範囲!!」とも言っていたから、無一郎はモーレツな速度で剣を振るい、広範囲を飛んでいた粘魚を斬ったのだろう。いろいろ親切に説明してくれる鬼である。

これはどれほどすごい技なのか。

粘魚は形がアジに似ていて、体長25cm、上下の幅5cm、左右の幅3cmほど。これが、上下10cm、左右6cmの中心間距離で1万匹の群れを作った場合、34m³の空間を占有する。8畳の部屋がすべて魚で埋まる感じだ。

それを無一郎は、一瞬ですべて斬った! 恐るべき腕である。

もし粘魚がバラバラに空中を舞っていたら、無一郎も苦労したかもしれない。だがアジに似た粘魚たちは、生態もアジに似ているようで、群れで行動していた。画面の描写では、直径1mほどの列を作って飛び回っていたから、その場合の列の長さは43mになる。

すると、無一郎が25cm幅(粘魚の体長)で172回斬れば、すべての粘魚が斬れるはずだ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

とはいえ、これを実践するのは大変である。

一瞬というのが文字どおり「1回の瞬き」と同じ0.1秒で、1回あたり刀を2m振ったとすれば、最高速度はマッハ20なのだ。

◆刀で毒を吹き飛ばす!

しかも、戦いはまだ終わらない。

日輪刀で斬られて塵になる前に、粘魚たちは背骨の切断面から体液を撒き散らしていたのだ。

玉壺はその体液が毒であることを告げたうえで「しかもこの毒は経皮毒…皮膚からも吸収される 浴びれば終わり…」と、ここでも親切に説明してくれていた。

ここで無一郎が見せたのが「霞の呼吸 参ノ型 霞散(かさん)の飛沫(しぶき)」。

日輪刀を大きく一回転させる技で、それを見た玉壺は「何ィィィ!! 回転で全て弾き飛ばされた!!」。いやあ、あんたのおかげで、何が起きたかが本当によくわかります。感謝したい。

鬼にお礼を言っている場合ではない。マンガのコマを見ると、毒液は直径10mほどの領域に広がって、無一郎に襲いかかっている。これを刀の回転で、どうやって防ぐのか。

たとえば、刀の回転でモーレツな風を起こせば、毒を吹き飛ばせるだろうか。

風速10m/秒の風を吹きつければ、毒液をすべて吹き飛ばせると仮定しよう。コマの描写では、刀の先端の軌道は直径2.4mほどだ。この狭い領域から放たれた風が、直径10mに広がって、なお10m/秒の風速を持っていた場合、直後の風速は174m/秒(直径の2乗に反比例)。そして、飛行機のプロペラは先端速度の半分の風速の風を後方に送るから、この比率が同じなら、無一郎の刀の先端速度は秒速348m=マッハ1。

おお、さっきの計算では、無一郎はマッハ20で剣を振っていたから、それに比べれば楽勝……って、それでもマッハ1ですなあ。

しかし、刀を手にしてわずか2ヵ月で柱になった無一郎なのだ。そのずば抜けたセンスと、モーレツな身体能力があれば実現できそうな気がしてしまう。