■高校時代の友人が運転する車に同乗中の大事故

 ゴールデンウィーク中の5月3日夜、私のもとに一通のメールが届きました。

『こんばんは。初めて連絡させていただきます。昨年7月24日、友人の車に同乗中の事故で18歳の息子を亡くしました。同乗していた他の4名も重軽傷を負いました。運転手は高校時代の同級生で、未成年の初心者です。夜間の一般道路で時速150キロ以上出しての単独事故でした』

 メールをくださったのは、福島県いわき市の内山正敏さん(43)、由美さん(42)夫妻です。

 ここまで読んで、私の脳裏には、昨年夏、テレビ報道で見た事故直後の状況が鮮明によみがえりました。

 大破した白いプリウスに橋の欄干ポールが突き刺さり、車を貫通して後部のウインドウを突き破っている、あの映像です。

*事故直後の現場映像(https://youtu.be/_DYLTQgBWPQ

 現場は片側2車線で、見通しのいい緩やかなカーブです。いったいどんな運転をすればこのような悲惨な事故が起こるのか……。

 ニュースを見たとき、にわかに信じられなかったことを覚えています。

(参考記事)

欄干に車衝突、18歳死亡 未成年6人同乗 - 産経ニュース (sankei.com)

「俺の彼女」と言い、とても可愛がっていた猫と裕斗さん。もう一匹、亡くなる10日前に傷ついた猫を保健所から引き取って大切に世話をしていたという(遺族提供)
「俺の彼女」と言い、とても可愛がっていた猫と裕斗さん。もう一匹、亡くなる10日前に傷ついた猫を保健所から引き取って大切に世話をしていたという(遺族提供)

■「危険運転」で逮捕されるも「過失」で起訴された加害少年

 報道によると、事故から半年後、運転していた少年は「危険運転致死傷」の容疑で逮捕。その後、福島地検は「自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)」に切り替え、家庭裁判所に送致しました。そして、今年4月25日に逆送され、地検は5月2日、福島地裁いわき支部に公判請求し、裁判が始まることになったのです。

 逆送とは「逆送致(ぎゃくそうち)」のこと。家庭裁判所が検察から送致された少年を調査し、刑事処分が相当だと判断した場合、逆に検察庁に送致することを言います。

 起訴状には以下のような内容が記されていました。

<少年(事故当時18)は、2021年7月24日午後10時10分頃、いわき市小名浜の県道で、法定速度の2倍を超える時速約157キロで車を運転。車を橋の欄干に衝突させて、同乗していた内山裕斗さん(18)を死亡させたほか、同じく同乗していた男女4人(当時16~18)に重軽傷を負わせた>

※筆者注 車の定員は5名ですが、定員オーバーの6名が乗車。1名はトランクに乗っていました。

 以下の記事でも報じた通り、つい先日、一般道を時速104キロで運転して単独事故を起こし、同乗者2名に重傷を負わせた18歳の大学生(当時)に、危険運転致傷罪で実刑判決が確定したばかりです(広島高裁)。

『時速104キロでカーブ曲がれず大事故 「危険運転」で起訴された元大学生の言い訳と判決の中身』(2022.4.16)

 それだけに、同じく一般道で、時速157キロものスピードを出して起こった今回の死傷事故が、「危険運転」で起訴されなかったことに驚きを感じました。

 内山さん夫妻も検察から公判請求を知らせる通知書を受け取ったとき、この事故がなぜ「過失」なのか、納得できなかったというのです。

■車に突き刺さった欄干が息子の顔面を直撃

 時速157キロという高速度での衝突は、想像以上に大きなダメージを人と車に与えました。

 母親の由美さんは、事故直後のことをこう振り返ります。

「私たちが病院に駆け付けると、医師はあまりに損傷がひどいため、家族に息子の顔を見せてよいものかどうか悩まれていました。でも、本人確認をしなければならないので、『椅子に腰かけて見てあげてください』と言われて、夫婦で対面することになったのです。裕斗の額には穴が開き、左の眼球はどこに行ったか分かりませんでした。顔は大きく変形していて、原形をとどめていないかんじでした。本当にショックでした……」

 実は、加害者の車には下部からもう一本欄干が突き刺さっており、それが裕斗さんの顔面に刺さったのです。

 死亡診断書には死因として「重症頭部外傷」と書かれていました。

「今も目を閉じると、事故のときの裕斗の顔が瞼に浮かんできます。どんなに痛くて、辛くて、怖かったか。代われるものなら代わってやりたかったです……」(由美さん)

内山裕斗さんの「死体検案書」。救急隊が現場に到着したときは、すでに心肺停止状態だった(遺族提供)
内山裕斗さんの「死体検案書」。救急隊が現場に到着したときは、すでに心肺停止状態だった(遺族提供)

 事故の翌日、父親の正敏さんは警察署で事故車を見ました。

 現場では突き刺さった橋の欄干を車から引き抜くことができなかったため、欄干のほうを切断。車はポールが突き刺さったまま運ばれ、保管されていたのです。

 加害少年は前年の暮れに免許を取ったばかりの初心者で、事故を起こした車は、祖父から数カ月前に譲り受けたばかりだったそうです。

■検察は言った「時速157キロは、故意ではない」

 一般道で時速157キロ出していたという事実は、加害者本人も認めています。

 ではなぜ、法定速度の2倍以上という高速走行が危険運転に当たらないのか……。

 福島地検いわき支部は、

時速157キロ出したことは故意ではない。事故はあくまでも脇見によるものだ

 父親の正敏さんにそう説明したそうです。

 しかし、本件の実況見分調書や供述調書を閲覧した内山さん夫妻は、「脇見」という供述が、事故から半年以上たって突然出始めたことを知り、疑念を抱いていると言います。

「事故から約1か月半後の2021年9月9日、いわき東警察署でとられた加害者の供述調書を見ると、『脇見』については具体的に話していませんでした。ところが、年が明け、逮捕された後に取られた調書を見ると、後部座席に乗っていた誰かが、『もっと(速度を)出せ出せ!』と言ったことや、『車に積んであったマネキン(加害者が美容師の学校で使っていたもの)で、後部座席から誰かがイタズラをしてきたことが原因で脇見運転になった』と、かなり詳しく書かれているのです。しかも、速度を出せと言ったり、いたずらをしたりしたのは、たぶんうちの息子だと……」(由美さん)

 ちなみに、2022年2月28日付の加害者の供述調書には、以下のように記載されていました。

『運転席側後部に乗っていた内山裕斗がいたずらをした可能性が高いと思っています。その理由は、裕斗はいたずら好きという印象があるからです。マネキンのいたずらを注意するために、左後ろを振り返るように、2秒から3秒くらい脇見しました。脇見を始めたときの車の速度は、時速130キロメートルから140キロメートルだと思います。後部席の方向を見ながら、イタズラしていることを注意した後、目線を前に戻した直後に交通事故が起きました』

 由美さんは語ります。

「他の同乗者はそのような証言をしていません。私たちがその場にいないので真実はわかりませんが、時速130~140キロも出しているときに、後ろを振り返って『注意』などできるものでしょうか。それ以前に、初心者が、一般道で、しかも夜間にこれほどの高速度を出していること自体、危険運転にあたると思うのですが、なぜ検察は過失で起訴したのか、どうしても理解できないのです」

祭壇の遺骨の前で、亡き主の帰りを待ち続ける、裕斗さんの愛猫(遺族提供)
祭壇の遺骨の前で、亡き主の帰りを待ち続ける、裕斗さんの愛猫(遺族提供)

■「減速したらみんなのテンションが下がる」

 加害者の少年は、2021年9月9日の供述調書の中で、「アクセルは限界まで踏み込んでいました」と述べています。

 なぜ、それほど速度を出す必要があったのでしょうか……、その理由について、2022年3月23日の供述調書には以下の供述が残されていました。

<みんなが楽しく盛り上がっているのに、減速したら、みんなのテンションが下がるかもしれない、自分のせいで盛り上がってるテンションを下げたくない、速度を出して、みんなのテンションを盛り上げよう、と思い、アクセルペダルを踏んだまま、減速することなく時速150キロメートル以上の危険で無理な速度で左カーブに進入したのです>

 由美さんは悔しそうに言います。

「昨年、柳原さんが書かれた、『18歳の暴走事故で息子奪われた母 初心者の車にリミッターでの速度制御は可能か』という記事を読みました。初心者の車の最高速度を制御、また、日本も海外のように、免許を取って1年間は他人を同乗させないといった法規制は、すごくいいことだと思いました。裕斗はまだ自分の車を持っていませんでしたが、私たちは彼が免許を取ったときに口を酸っぱくして言っていたんです。『車は動く凶器だから、運転するときは気をつけて』『人を乗せるということは人の命を預かることだから、できるだけ乗せないように』『逆に、初心者の友達の車には危険なので乗らないように』と。それなのに、結局こんなことになってしまい、本当に悔しいです」

 2022年5月13日から、重大事故につながる違反歴のある高齢ドライバーの免許更新に運転技能検査が導入されることになりました。その背景には、高齢者の事故増加という問題があります。

 しかし、「スピードを出して盛り上がりたい」「いいかっこを見せたい」という、未熟な若者特有のこうした無謀運転がコンスタントに発生している以上、何らかの規制が必要ではないでしょうか。

 内山さん夫妻はこれから始まる刑事裁判を前に、こう語ります。

「息子はこれから、成人式を迎え、結婚し、家族を持ち、幸せに暮らすはずだったのに、もう、声が聞きたくても聞けない、会いたくても会えません……。初心者だからこそ、未成年だからこそ、周りの大人たちが心を鬼にして、命ってこれだけ大切なものだということを教えていくべきです。加害者本人は、検察庁で『危険運転致死傷罪で責任を取り、処罰を受けたいと思っています』と述べたそうですが、それが本心なら、何とか「危険運転致死傷」の罪を追加し、裁判官に正しく判断していただきたいと思っています」

 初公判は6月28日14時から、福島地裁いわき支部で開かれる予定です。

(参考記事)

19歳起訴、氏名は非公表 いわき死傷事故、裁判員対象とならず(福島民友新聞) - Yahoo!ニュース