「つい先日、息子が事故に遭った現場を初めて訪れました。事故から1年7カ月、これまで怖くてどうしても足を向けることができなかったのですが、同じ思いをされたご遺族が一緒に来てくださることになり、背中を押されました」

 そう語るのは、埼玉県深谷市在住の高田昌美さん(44)です。

 事故現場となった埼玉県鴻巣市の道路は、意外にも見通しのよい、緩やかなカーブでした。

事故から1年7か月後、初めて事故現場を訪れた被害少年の母と姉。加害者はこの道で時速100キロ以上の速度を出し、同乗者を2人死亡させる事故を起こした(小栗幸夫氏提供)
事故から1年7か月後、初めて事故現場を訪れた被害少年の母と姉。加害者はこの道で時速100キロ以上の速度を出し、同乗者を2人死亡させる事故を起こした(小栗幸夫氏提供)

■100キロ超で制御不能に。同乗者3人死傷させた少年に実刑判決

 2019年12月13日の昼、友人3人に声をかけ、買ったばかりの車に彼らを乗せた少年A(当時18)は、制限速度40キロのこの道で、時速100キロ以上の速度を出し、制御不能になってガードレールを乗り越え、車を縦回転させ、前方に停車していた重機に突き刺さるかたちで停車したのです。

 この事故で、後部座席に乗車していた高田昌美さんの長男・麗史さん(当時18)は重症頭部外傷で意識不明の重体となり、脳死状態のまま38日後に死亡しました。

 そして、麗史さんの隣に乗車していたBさんは頭部及び顔面を半分欠損し即死。助手席に乗っていたCさんは顔面骨折の重傷。運転していたAは軽傷でした。

 事故の詳細と5月に下された一審判決の内容は、以下の記事でレポートした通りです。

 制限速度を守ってさえいれば、起こるはずのない事故でした。

【4人死傷】無謀運転の少年に奪われた命 日本も初心者ドライバーに法規制を(柳原三佳) - 個人 - Yahoo!ニュース(2021.5.10)

 高田さんは語ります。

「今年5月20日、被告Aに対する懲役2年以上3年以下の実刑判決がようやく確定しました。裁判官はその理由について、『単なる不注意ではなく無謀運転の結果であり、過失は悪質かつ重大。実刑はやむを得ない』と述べました。高校を退学となった加害者は、今頃どこかの刑務所に収監されていることでしょう。でも、私は、この事故が『危険運転』ではなく『過失』で起訴されたことには今も納得していません。かっこよく車を運転していいところを見せたい、スピードを出すのが楽しく、調子に乗った……、そんな馬鹿げた理由で暴走した運転未熟者に、私は大切な息子の命を奪われてしまったのです」

バスケットボールの選手として活躍していた麗史さん。沢山の友達に慕われた人気者だった(高田さん提供)
バスケットボールの選手として活躍していた麗史さん。沢山の友達に慕われた人気者だった(高田さん提供)

■相次ぐ若者の死傷事故。一般道で時速150キロでの危険走行も

 免許取り立ての若者による重大事故が、この夏も全国各地で相次いでいます。この1週間だけでも、以下のような報道を目にしました。

●7月24日 福島県いわき市

午後10時過ぎ、18歳の少年が運転する乗用車が道路中央の橋の欄干に衝突する事故が発生。欄干のポールが車を突き刺すように貫通している映像が映し出された。この車には、5人定員のところ6人が乗車しており、後部座席に乗っていた18歳男性が死亡、16歳から18歳までの5人も重軽傷を負った。(参考:福島テレビ)

●7月20日 北海道小樽市

午後10時頃、高校生を含む10代の男女5人が乗った乗用車がリサイクルセンターの敷地内に止めてあったごみ収集車に突っ込む事故が発生。車は大破し、乗っていた5人が重軽傷を負った。(参考:HBC北海道放送)

●7月17日 静岡県御前崎市

午前7時半頃、乗用車が反対車線を越えて工場の壁に激突し大破。助手席に乗っていた18歳の少年が死亡し、運転していた19歳の少年がけがを負った。(参考:日テレニュース)

 また、7月1日、私は広島地裁で危険運転致傷事件の裁判を傍聴してきました。

 事故当時19歳の少年だった被告は、2019年10月10日午後10時半頃、購入してわずか1週間のスポーツカーに大学の友人2人を乗せ、友人の制止も聞かず、一般道の直線で時速150キロまで加速。カーブ手前で約100キロまで減速したものの制御しきれず、車を転覆させ、ガードレールに激突。同乗者2名に重傷を負わせました。

 そのうち1名は頚髄損傷で、現在も全身麻痺で寝たきりの生活を強いられています(以下の記事参照)。

『危険運転の被害で女子大生が全身麻痺に 再生医療に希望を託す両親の苦悩【親なき後を生きる】』(柳原三佳) - 個人 - Yahoo!ニュース(2021.3.8)

 この事件の判決は、8月25日、広島地裁で言い渡される予定です。

広島で発生した少年による暴走事故の事故車(被害者提供)
広島で発生した少年による暴走事故の事故車(被害者提供)

 無謀運転による事故の報道は、高田さんもたびたび目にしており、生前の麗史さんに「免許取り立ての時期は危険だから、絶対に気をつけるように」と話していたそうです。

 それだけに、あの日、ほんのわずかな時間、なぜあの車に乗ってしまったのか……、悔しい思いがこみ上げると言います。

「そもそも免許取り立てで未熟な若者が自分の車を手にしたとき、いくら交通法規を守れと言っても限界があるのかもしれません。以前、うちの事故がニュースになったとき、コメント欄に『初心者のうちは一定の速度以上出せないようなリミッターをつけるなど、車の側で何らかの制御をすべき』といったコメントをいくつか目にしました。こうしたことが可能なら、ぜひ実現してほしいと思うのですが……」

■自動車の制御ソフトウェア開発関係者が語る「事故を減らす」技術

 実は、高田さんがコメント欄で目にしたという初心者向けのリミッターは、現在の技術をもってすれば、十分可能だと言います。

 長年、自動車と航空機のソフトウェア開発に従事し、機能安全に関わる業務にも携わってきた杉山俊彦氏(59)は、こう語ります。

「幼いころからTVゲームのある世界で生きてきている最近の若者は、クラッシュしてゲームオーバーになっても、簡単にリセットできると錯覚しているとさえ感じます。無謀運転による事故のニュースを見るたびに、これはもう、車の側で規制が必要ではないかと感じていました。ちなみに、日本で開発、製造、販売される国産車には全てではありませんが、馬力や最高速度にリミッターがかかっています(以下参照)https://www.webcartop.jp/2020/11/611756/ましてや、エンジン制御をソフトウェアに依存している今の車では、そのリミッターの設定を随時変更することは技術的に十分可能なはずです。つまり運転者に合わせて車の性能を操作することは、その情報を得て設定を変えるシステムさえあれば可能だと考えます」

 では、仮に初心者ドライバーに規制をかける場合、車にはどんな機能や装置が必要なのでしょうか。

■免許証情報を車の性能規制に活かす方法

「まず必要となるのは、車側が運転者を識別するための機能です。例えば免許証に内蔵されているICチップの読み取り装置が車に搭載され、記録されている情報によって運転する車の性能を設定するといったものでしょう。そうすれば運転者の免許歴や違反歴、事故歴などに応じて車の最高速度を規制するといったことが技術的には可能になります。また、この機能があれば免許の不携帯、無免許、免停中などはエンジン始動ができないように規制されるので、ほぼ撲滅することができます。いずれにせよ、車の性能にリミッターをかけることは、かなり前から使われている技術であり、そこに運転者個人の情報が紐づけられ、その内容で車の性能が設定されれば、例えば初心者マークの運転者は最高速度80kmまでなど車側で規制できるということです」

長年、自動車と航空機のソフトウェア開発に従事し、機能安全に関わる業務にも関わってきた杉山俊彦氏(杉山氏提供)
長年、自動車と航空機のソフトウェア開発に従事し、機能安全に関わる業務にも関わってきた杉山俊彦氏(杉山氏提供)

 最近も、てんかんの持病を隠して運転中、発作によって起こった死亡事故が問題となりました(以下の記事参照)。

<聴覚・視覚障害の弁護士たちが立ち上った! 難聴の11歳女児死亡事故裁判に異議>

 また、認知症を発症しながら運転を続け、逆走などによって大事故を起こすケースも少なくありません。

 初心者の若者だけでなく、医師から運転を止められたドライバーに対しても、こうした規制システムがあれば、危険な事故を未然に防ぐことができるはずです。

 ただし、そのためには、法整備が不可欠だと杉山氏は指摘します。

「免許情報だけでなく、ドライバーの運転特性に合わせたさまざまな安全装置を作動させることは、今、『未来の車』に搭載される機能として注目されています。一方でスマートフォンをインテリジェントキーとして使用したり、コネクテッドカー(*インターネットに常時接続ができる車)などが実現されれば、適用可能な安全装置はさらに充実します。しかし、これらの装備によって規制を作るためには、現在のリミッターのようなメーカーによる自主規制ではなく、法整備が不可欠です。『無謀で自分勝手な事故をなくす』という目的に行政が同調して、攻めの法整備をすることが必要です。車は乗る人によって殺人マシーンになります。しかし、車を開発している者は誰もそれを望んでおらず、日夜、事故のないモータリゼーションを理想として励んでいるのです」

 加害者への処罰をはじめ、交通事故に関する法律はいつも後追いです。悲惨な事故が繰り返し起こり、被害者遺族の声が高まらなければなかなか変わってきませんでした。

 しかし、最新の技術で重大事故を確実に防ぐ方法があるのなら、こうした規制も検討されるべきではないでしょうか。

 前出の高田さんはこう訴えます。

「自動車メーカーには、若者が憧れる『速く、かっこよく走る車』の姿をPRするのではなく、せめて運転が未熟な期間は、最高速度を制御してでも『命を守るクルマづくり』をしていただきたいです。私たちはもう、同様の事故を二度と繰り返してほしくはないのです」

無謀運転の犠牲となった麗史さんの遺影の横には、愛用のギターとクラスメイトからの千羽鶴が飾られている(高田さん提供)
無謀運転の犠牲となった麗史さんの遺影の横には、愛用のギターとクラスメイトからの千羽鶴が飾られている(高田さん提供)