「認知症の恐れあり」それでも 免許返納しない高齢者35%の現実

認知機能検査で「認知症のおそれあり」と判定されても、免許の返納は強制ではない(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

 ■『「認知症のおそれがある」判定の高齢者、65%免許返上』(朝日新聞、2019.5.22)

 この見出しを見たとき、

『ああ、高齢者ドライバーに認知機能検査が導入されてよかった。免許を返納すれば本人も家族もずいぶん安心できるだろうな……』

 私は一瞬、安堵しました。

 ところが、記事の内容を読んで一転、逆にゾッとしてしまいました。

 まずは、上記記事から一部抜粋させていただきます。

 警察庁は、第1分類と判定された人(17~18年)で18年1年間に免許の扱いが決まった3万9025人の処分結果をまとめた。それによると、1932人が取り消し・停止となったほか、45.5%の1万7775人が自主返納、14・6%の5706人が失効させた。

■「認知症の恐れあり」、の判定でも、35%は免許返納せず

 免許更新時などに認知機能検査を受けた75歳以上の高齢ドライバーは、その結果に応じて、以下の3つのいずれかに分類されます。

●第1分類/「認知症のおそれがある」

●第2分類/「認知機能低下のおそれがある」

●第3分類/「低下のおそれがない」

 上記記事中に具体的な数字は出てきませんが、「第1分類」と判定された高齢者の総数から引き算をしていくと、「認知症の恐れがある」という判定を受けたにもかかわらず、1万3612人、つまり35%の方々が免許証を返納していない、ということになるのです(そのすべてが運転されているとは限りませんが)。

■認知機能検査の意味とは?

 では、運転免許更新における「認知機能検査」とは、そもそもどのようなものなのでしょうか?

 過去にこの検査を2回受けた経験を持つ私の母(84)に、その内容について聞いてみたところ、

「まず、今日の日付を聞かれてちゃんと答えられるかどうか? 次に、白紙の時計盤の中に指定された時刻を記入するテスト、最後に、4つのイラストを見せられて、後から覚えているかどうか確認するといった検査の内容で、大体30分くらいで終了したわね。どれも意外と簡単で、あの検査で認知機能をどの程度正確に判定できるのかしら? と思ったわ」

 そう答えてくれました。

 逆に言えば、この程度の問題をクリアできなかった人でも、その結果だけでは免許返納を求めることはできない、ということです。

 この点については、疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。

 では、実際に、認知機能検査の結果が思わしくなかった場合、また、高齢ドライバーが違法な運転をした場合、どのような流れで免許更新の可否が決められていくのでしょう。

 警察庁のサイトでは、次のように説明されています。

●検査の結果、「記憶力・判断力が低くなっている」との結果であった場合

 警察から連絡があり、臨時適性検査(専門医による診断)を受け、又は医師の診断書を提出することになります。認知症であると診断された場合には、聴聞等の手続の上で運転免許が取り消され、又は停止されます。

●75歳以上のドライバーが信号無視等の特定の交通違反をした場合

 

 道路交通法の一部を改正する法律(平成27年法律第40号)が施行される平成29年3月12日以降は、これまで更新時にしか義務付けていなかった認知機能検査について、75歳以上のドライバーが信号無視等の特定の交通違反をした場合に、臨時に認知機能検査を受けることとなります。検査の実施要領は同じです。

 この臨時認知機能検査で「記憶力・判断力が低くなっている」との結果であった場合も、臨時適性検査を受け、又は医師の診断書を提出することとなり、認知症であると診断された場合には、聴聞等の手続の上で運転免許が取り消され、又は停止されます。

●臨時認知機能検査で、それ以前の検査結果より認知機能が低下していた場合

 一定の基準に該当した場合は、臨時の高齢者講習を受講していただくことになります。

 ちなみに、免許の取り消しや停止は、以下のような流れで行われていきます。図をご覧ください。

警察庁のサイトより
警察庁のサイトより

■認知機能だけでなく身体機能のチェックも重要

 私の母の場合は、認知機能検査の結果、「第3分類」でしたので、免許の更新は問題なくできました。

 しかし、実際には身体の節々が硬くなり、関節の可動域も確実に減少。バックの際の後方確認などが安全にできなくなっていることは明らかでした。

 それでも実技試験はクリアできたそうですが、運転は数年前から自主的にやめ、今年の誕生日で免許は失効させました。

 認知機能は優等生で、免許の更新は問題なくできても、身体機能が低下してしまっている高齢ドライバーも多数おられるのではないでしょうか。

 先日、池袋で死亡事故を起こした87歳の男性が、退院後、警察署へ取り調べを受けに行く姿がテレビで映し出されていました。足が相当不自由なように見受けられましたが、少なくとも、あの男性も免許証の更新はできていたのです。

 医師からは運転を控えるように言われていたという報道もあり、なぜそれに従わなかったのかが気になるところです。

 返納後、マイカーに変わる高齢者の移動手段の確保など、課題は山積みですが、現在の免許更新制度のままでは、どうしても不安を感じざるを得ません。

 高齢者の体調は日ごとに変化します。たとえば、免許更新の流れとは別に、高齢者を診断した医師が、認知機能、身体機能の両面において『この人が今、運転をおこなうことは危険だ』と判断した場合は、すみやかに免許停止できるような制度の検討も必要ではないでしょうか。

 特に認知機能が低下している場合は、その判断を自分ですることが難しくなります。だからこそ、専門家の力が不可欠です。

 歳を重ねるごとに「高齢ドライバー」になっていく親の姿を間近で見てきた家族の一人として、また、これから確実にそうなっていくドライバーの一人として、切実にそう思います。

警察庁のサイトより
警察庁のサイトより