石原さとみ主演ドラマ『アンナチュラル』の研究所は理想形? 実際の「死因究明」現場は問題山積み

(写真:アフロ)

  1月12日(金)からスタートしたTBS系ドラマ『アンナチュラル』。

 石原さとみさんが演じる法医解剖医・三澄ミコトが、通称「UDIラボ」(UNNATURAL DEATH INVESTIGATION LABORATORY=不自然死究明研究所)で、解剖や薬毒物の検査などを行いながら、不自然な死の真実を追求していくというストーリーです。

 ドラマの中での「UDIラボ」は、国や地方公共団体からの補助金を受けている公益財団法人という設定で、死因究明に携わる専門家がチームを組んで仕事をしています。

が、これはもちろん架空の団体で、現在の日本にはこうした機関は存在しません。

 ドラマを見た複数の法医学者からは、

「日本にもあんな研究所ができればいいですね。ある意味、理想形です。現実の解剖現場は、問題が山積みなんです……」

 こんな切実なつぶやきを聞きました。

先進国最低水準の解剖率、犯罪見逃しの原因に

 

  このテーマについては、私自身も長年取材を続けてきました。

「本当は交通事故ではなく、誰かに殺されたのではないか?」

「病死と判断されたけれど、一酸化炭素中毒ではないのか?」

「自殺と判断されたが、本当は事故ではないのか……」

大切な人の死因に納得できず、苦しみ続けている人があまりに多かったからです。

 Yahoo!個人ニュースでもこんな記事を書きました。

●【青酸連続殺人】なぜ被害は拡大したのか?(2017/11/8配信)

●睡眠導入剤混入事件で浮かび上がる日本の「解剖率」の低さ  法医学者も警鐘(2017/7/20配信)

じつは、日本の変死体解剖率は約12%で、先進国の中では最低水準です。都道府県別にみると、2%前後という県もあるほどです。

 死因が不明でも、遺体の大半は解剖されることなくそのまま火葬されており、その結果、本当の死因が見逃されたまま犯罪見逃しがこれまでもたびたび起こってきたのです。

「死因究明・個人識別システム研究会」発足

そんな中、現状を憂い、改革を目指す法医学者らを中心に、「死因究明・個人識別システム研究会」が発足し、1月14日、東京で第1回目の総会が開かれました。

『死因・身元調査法成立の経緯と、今回の研究会の立ち上げの目的』と題した基調講演を行ったのは、この研究会の会長で千葉大学法医学教室の石原憲治氏です。

 会場には、全国各地の大学で死因究明に携わる法医学者のほか、内閣府の担当者、弁護士、刑法学者、メディア関係者などが集まり、活発な議論が交わされました。

基調講演を行う、会長の石原憲治氏(筆者撮影)
基調講演を行う、会長の石原憲治氏(筆者撮影)

厚生労働大臣秘書官の経験も持つ石原氏は、自身が国会議員の政策秘書だった頃からこの問題に深くかかわり、死因究明法案の作成等に尽力。講演では2004年から始まった国会での議論と制度改正の経緯などを解説しながら、2012年9月の死因究明等推進法施行、2013年4月の死因身元調査法施行に至るまでの経緯について振り返り、その意義と今後の課題について指摘しました。

*石原氏の講演スライドより
*石原氏の講演スライドより

『死因身元調査法』(「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」)、一般には聞きなれないかもしれませんが、一言で説明すると、

 <犯罪による死かどうか分からない場合でも、裁判所の令状や遺族の承諾なしに死体を解剖できる>

 と規定した法律です。

 施行されてから5年が経ち、新しい法律に基づいて行われる、通称「調査法解剖」は年々増加していますが、一方で、従来の司法解剖やその他解剖(監察医解剖・承諾解剖)が減少するなど、新たな問題も出てきています。

*石原氏の講演スライドより
*石原氏の講演スライドより

また、研究会では全国各地の大学からも現状報告がなされ、都道府県によって調査法解剖の手続きや経費のかけ方がまったく異なることが明らかになりました。

同じ日本人の死因究明に対する扱いが、県境を越えると変わるというのもおかしな話ですが、まさにこのドラマに登場する「不自然死究明研究所」のように、警察庁や厚生労働省、全国の大学の法医学教室がネットワーク化された機関が作られることが必要なのかもしれません。

研究会では今後、法医学者、行政担当者、法学者、弁護士、メディア関係者との連携を強め、犯罪見逃しの防止、事故や自殺等の予防、大規模災害への備えなどを目的に活動を行い、「死因究明等推進基本法」の成立、それに伴う国の司令塔的役割の確立を目指していくそうです。

ちなみに、ドラマ『アンナチュラル』の舞台設定はあくまでも架空ですが、撮影に使用されているセットは東京医科歯科大学の法医解剖室がモデルとなっており、解剖台から解剖器具、長靴やホワイトボードなど、細部にわたって超!リアルです。

また、主人公が女性ということもあり、同大学の女性法医学者のデスクの上まで詳細に観察し、再現したとのこと。

ドラマをご覧の方は、そのあたりも注目してご覧ください。