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創価学会 IN ROCK/池田大作死去を巡る音楽とのシンクロニシティ

山崎智之音楽ライター
Tina Turner /courtesy Warner Music Japan

創価学会名誉会長の池田大作氏が2023年11月15日、95歳で亡くなったことは、世界で大きく報じられた。日本国内でも岸田総理がX(旧ツイッター)に追悼メッセージを投稿するなど、その影響力の大きさを感じさせた。

日本国内に827万世帯(2018年/公称)、海外に280万人(2021年/公称)の会員がいるという創価学会。その中には数多くの音楽家もいるが、池田氏の死とシンクロニシティを成すように、2023年にはさまざまなアーティストの人生に大きな変動があった。

<ウェイン・ショーターとティナ・ターナーの死>

3月2日にはジャズ・ミュージシャンのウェイン・ショーターが89歳で亡くなっている。彼はマイルス・デイヴィスのバンドを経て、ウェザー・リポートを結成した後の1973年に入会。同じくマイルスのバンドの一員で1972年以来の会員であるハービー・ハンコック、そして池田氏との鼎談を2010〜11年に聖教新聞で連載、『ジャズと仏法、そして人生を語る』として1冊にまとめられている。

5月24日にはティナ・ターナーが83歳で亡くなった。彼女と創価学会の関わりは彼女の自伝、それを原作とした映画『TINA ティナ』(1993)でも描かれている。夫アイクとのアイク&ティナ・ターナーで成功を収めた彼女だが、夫(演じるのは『マトリックス』のモーフィアスでおなじみローレンス・フィッシュバーン)の暴力に苦しめられる。友人宅で「もうやってられないわ!」と嘆くティナを友人が隣の部屋に招き入れると、そこにはどでかい仏壇が。ティナが熱心に南無妙法蓮華経と題目を唱えると暴力夫と別れられるわレコードが大ヒットするわもうウハウハ!というエンディングだった。この作品は日本公開時、地下鉄駅などにポスターが貼りまくられた。

池田氏が亡くなった直後の11月24日に発表されたティナのソロ・キャリアを総括したCD3枚組アンソロジー『クイーン・オブ・ロックンロール』にはヒット曲/代表曲の数々が収められているが、そのラストを飾るのが「サムシング・ビューティフル(2023ヴァージョン)」だった。アルバム『どこまでも果てしなき野性の夢』(1996)収録曲のリメイクであるこの曲は、イントロにオリジナルにはなかった「南無妙法蓮華経〜」という題目を収録。そのキャリアを締め括る辞世の句としている。

Tina Turner『Queen of Rock'n'Roll』ジャケット(ワーナーミュージック・ジャパン)
Tina Turner『Queen of Rock'n'Roll』ジャケット(ワーナーミュージック・ジャパン)

<ハワード・ジョーンズ来日公演、オリヴィア・ニュートン・ジョン>

池田氏が亡くなる前の2023年9月に来日したハワード・ジョーンズも長年の創価学会会員だ。「ニュー・ソング」「ホワット・イズ・ラヴ?」などのヒットで知られる彼だが、ピアノ・インストゥルメンタル・アルバム『Piano Solos (For Friends And Loved Ones)』(2003)には「For Daisaku Ikeda」という曲が収録されており、ブックレットにも日蓮の言葉が掲載されている。この曲について筆者(山﨑)はハワード本人に訊くことが出来たが、「ウェイ・オブ・シンキングとして多大な影響を受けたし、音楽を通じて感謝したかった」と語っている。

Howard Jones『Piano Solos (For Friends And Loved Ones)』(Dtox Records)
Howard Jones『Piano Solos (For Friends And Loved Ones)』(Dtox Records)

いわゆる新宗教の創価学会は時にカルト教団という偏見を持たれたりもするが、ハワードはこう説明してくれた。

「先入観だけでなく、信者そのものを見て判断して欲しい。彼らが第三者に対してどう振る舞うか、どんな話し方をするか... 1千万人以上がその思想に共鳴しているということは、何か良いところがあるからだと思うよ」

さらに時間を遡って2022年8月8日にはオリヴィア・ニュートン・ジョンが73歳で亡くなっているが、アルバム『グレイス&グラティチュード』(2006)収録の「レット・ゴー・レット・ゴッド」では「南無妙法蓮華経〜」のフレーズが繰り返される。日本のメディアで「癌と診断されたことがきっかけで入信したのでは」と報じられたこともあったが、その後も複数クリスマス・アルバムを発表したり、晩年のインタビューで「毎日『主の祈り』を唱えている」と発言するなどキリスト教への言及もあり、創価学会への入信とまでは行かなかったのではないかとも思える。

Olivia Newton John『Grace and Gratitude』ジャケット(EMIミュージック・ジャパン)
Olivia Newton John『Grace and Gratitude』ジャケット(EMIミュージック・ジャパン)

海外のミュージシャンは単に「仏教に興味がある」レベルの会員も珍しくなかったりする。ボブ・デイズリー(レインボー〜オジー・オズボーン他)やケヴィン・アームストロング(デヴィッド・ボウイ〜ケヴィン・アームストロング)らは1991年に日蓮正宗と創価学会が分裂した当時「自分がどっちに属しているのかも判らなかった」と語っていた。もちろん彼らの信仰心が浅いというわけではなく、組織の改編についての情報が伝わりにくかったという事情もあっただろう(特にインターネット普及前は)。

なお古くは1969年にアメリカ西海岸のサイケデリック・ロック・グループ、ミュージック・エンポリウムが「Nam Myo Ho Renge Kyo」という曲を発表しているが、それが彼らの信仰に基づくものか、それとも東洋思想への関心に留まるものかは定かでない。

仏教・キリスト教・イスラム教のいわゆる“世界3大宗教”を筆頭に、宗教は優れた文化を育んできた。美術や建築、そしてもちろん音楽も含まれる。創価学会もまた、ミュージシャン達の表現のインスピレーションとなってきた。この激動の時期を経てどんな音楽が生まれるか、これからも注目していきたい。

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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