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【ライヴ・レビュー】2023年12月13日/ザ・リターン・オブ・エマーソン、レイク&パーマー来日公演

山崎智之音楽ライター
The Return of EL&P / Photo by:畔柳ユキ

“ザ・リターン・オブ・エマーソン、レイク&パーマー”日本公演が2023年12月12・13日、東京・EXシアター六本木で行われた。

1970年代から英国プログレッシヴ・ロックを代表するバンドのひとつとして熱狂的な支持を得てきたエマーソン、レイク&パーマー(以下EL&P)。2016年にキース・エマーソン(キーボード)とグレッグ・レイク(ベース、ヴォーカル)が相次いで亡くなってしまったが、カール・パーマー(ドラムス)がその音楽と精神を受け継ぐべく、EL&Pがプレイしてきた名曲の数々を蘇らせるコンサートを行うことになった。

<EL&Pが日本のステージに“リターン”>

“ザ・リターン・オブ〜”というイベント・タイトルに対し、一部から懐疑的な声も上がっていたことは事実だ。だがフタを開けてみれば、東京公演のチケットは2日ともにソールドアウト。どんなショーが繰り広げられるのか、期待と不安の混じったざわめきが開演前から広がっていた。

場内が暗転し、『シンプソンズ』『チアーズ』『ジェパディ!』といった人気TV番組でEL&Pが言及されたシーンが次々と映し出され、彼らがロック・ファンのみならず(全米の)お茶の間に浸透していることがアピールされる。そしてミュージシャン達がステージに上がり、「悪の教典#9 第1印象 パート2」の「Welcome back my friends, to the show that never ends」というプログレッシヴ・ロック史上屈指の名フレーズからショーがスタートした。

ライヴの背骨を貫くのは、カールのパワフルなドラミングだ。背後の3枚ある巨大スクリーンにありし日のキースとグレッグの姿が映し出され、彼らの演奏に合わせて叩くのと、ポール・ビーラトヴィッチ(ギター、ヴォーカル)とサイモン・フィッツパトリック(ベース、チャップマン・スティック)を交えたトリオによるライヴ・パフォーマンスが交錯することで、起伏に富んだステージは密度の濃いものだった。

観衆はライヴ全編を通して着席していたが、カールがMCで曲を紹介、「ホウダウン」「ナイフ・エッジ」「タルカス」など永遠のロック・クラシックスのイントロが奏でられるたびに大量のアドレナリンが分泌されるのが判る。1972年の初来日公演を見たオールド・ファンがどれだけいたかは不明だが、彼らはきっと当時と同じ表情を浮かべていたに違いない。

ただ、この日のライヴは単なるノスタルジア・トリップに留まることがなかった。「石をとれ」はサイモンのチャップマン・スティックがまったく異なったテキスチャーを生み出していたし、「用心棒ベニー」ではカールがリード・ヴォーカルを披露。『ブラック・ムーン』(1992)からの「ペーパー・ブラッド」も演奏されるなど、会場にどよめきが響きわたる瞬間が何度もあった。

約1時間50分のライヴのクライマックスは「庶民のファンファーレ」〜「アメリカ」〜「ロンド」へと雪崩れ込むフィナーレ。カールのドラムス、キースとグレッグの音源&映像、ポールとサイモンのライヴ演奏が一丸となって、尋常でないほどの昂ぶりをもたらした。ただの惹句でなく、確かにEL&Pが日本のステージに“リターン”を果たしたのを感じる瞬間だった。

Carl Palmer / Photo by:畔柳ユキ
Carl Palmer / Photo by:畔柳ユキ

<ロックの終活か、新時代への扉か>

1970年代のEL&P黄金時代に想いを馳せる“ザ・リターン・オブ・エマーソン、レイク&パーマー”公演だったが、それと同時に、ロックが向かっていくべき方向について考えさせられるイベントでもあった。

ロック・ミュージックも歴史が長く、ミュージシャン達もいつまでも第一線で活動出来るものではない。英国プログレッシヴ・ロックの代表バンドを挙げるだけでもピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、そしてEL&Pと物故者が出ており、黄金ラインアップがひとつのステージに揃うことは永遠にあり得ない(ジェネシスはジョン・メイヒューを除くと全員が存命だが、2022年にライヴ活動から撤退した)。

ツアーを続けているバンドであっても、メタル・バンドで元メンバーからバッキング・トラック使用を暴露されたり、YouTubeに上げられたライヴ映像であまりにヴォーカルが酷く、ファンを絶句させるなどの“事件”が相次いでいる。

音楽のオリジナル・パフォーマーの生命は有限である。彼らが亡くなったとき、その名曲・名演の数々はステージから永遠に葬られるべきなのだろうか?それともEL&Pと同様に、その音楽を受け継いでいくべきか?

これまでロニー・ジェイムズ・ディオやトゥパック・シャクールの没後、ホログラムとライヴ・ミュージシャンの共演が企画され、論議を呼んできた。今後もこの世にいないミュージシャンが何らかの形でフィーチュアされるライヴは行われるに違いない。

2022年からアバの1970年代のライヴをCGで再現する“ABBA Voyage”ツアーが行われているし2023年12月2日、ニューヨークの“マディスン・スクエア・ガーデン”で最後のコンサートを行ったKISSもアバター化されてライヴを行う予定だという。どちらも成功を収め、ベテラン・アーティストのバーチャル・アイドル化(?)が進んでいきそうでもある。その是非に答えが出るのはまだ未来のことだろうし、個人個人の受け止め方も異なるだろう。

ただ2023年現在で言えるのは、ステージに上がる“人間の”ミュージシャンの力量、そして血と汗と涙があるからこそ“ロック・コンサート”だということだ。

クイーンはカリスマ、フレディ・マーキュリーを失いながら、遺されたブライアン・メイとロジャー・テイラーがアダム・ランバートという圧倒的な実力を持つシンガーを迎えて人気を誇り続けるし、「ボヘミアン・ラプソディ」でフレディの歌声とスクリーン映像が使われても温かい声援が送られる。

“ザ・リターン・オブ・エマーソン、レイク&パーマー”も同様である。カールのパワーと緩急を兼ね備えたドラム・プレイは1970年代と較べて遜色がないどころか、73歳の今こそが絶頂期ではないか?と思わせるものだった。数箇所で挟み込まれたドラム・ソロは身も心も揺さぶるド迫力。それが音楽・映像とハーモニーを成すからこそ、この公演は観衆の感動を呼んだのである。

バンド3人のうち2人を欠きながら演奏される往年のクラシックスを、口の悪いファンは“ロックの終活”と呼んだりもした。その一方で本公演は今後のロック・コンサートがどうなるか?...を占う、新時代への扉でもあった。過去と未来を繋ぐ架け橋として、“ザ・リターン・オブ・エマーソン、レイク&パーマー”公演は2023年に幕を下ろしたのだった。

The Return of EL&P / Photo by:畔柳ユキ
The Return of EL&P / Photo by:畔柳ユキ

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2023年12月、ザ・リターン・オブ・エマーソン、レイク&パーマー日本公演。Welcome Back
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【日本公演オフィシャル・サイト】
https://www.cittaworks.com/event/elp/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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