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アースレスのヘヴィ・サイケデリック百鬼夜行/2023年10月、来日直前インタビュー

山崎智之音楽ライター
Earthless /photo Marta Estellés Martín

現代アメリカを代表するヘヴィ・スペース・サイケデリック・ロック・グループ、アースレスが2023年10月上旬にジャパン・ツアーを行う。2015年の初来日公演は凄まじい熱狂と陶酔をもたらしたが、ギタリストのアイゼイア・ミッチェルがブラック・クロウズのツアーに同行するなど大舞台を経ての再来日は、さらにスケールアップしたライヴ・パフォーマンスが期待される。

いよいよ来日まで待ったなし。アイゼイアがツアーの抱負と日本への想いを話してくれた。

<アースレスはこれ以上ないぐらい親日的バンドだ>

●あなたが日本を訪れるのは2015年のアースレス初来日、2022年のブラック・クロウズのツアーに続いてこれが3度目となりますが、日本についてどんな印象を持ちましたか?

前回のアースレスの日本ツアーはどの会場も小さくて、ギュウギュウ詰めですごい熱気だったんだ。ただ俺たちが演奏を始めるとみんなリズムに合わせて身体を揺らす程度で、暴れたりビールのカップを投げ込んだりはしなかった。ウケていないのかな?...と思って曲を終えると、凄まじい声援がワッと沸き起こった。決して騒がずともみんな音楽に没入して、全身で楽しんでいたことに気付いたよ。反応が異なっていても、音楽に対する情熱が世界共通だということを改めて感じたね。日本の文化はアメリカやヨーロッパとまったく異なっていて、見るものすべてが新鮮だった。誰もが親切で敬意を持ってくれて、ベストなライヴを見せることが出来たよ。自分のハートに迫ってくる、特別な経験だった。最高にクールだったね。

●2015年のツアーでは東京・大阪・名古屋といった大都市に加えて岐阜でもプレイしましたが、今回も岡山や長野など地方都市で公演が行われます。前回、地方でプレイした経験はどんなものでしたか?

いやあ、とにかく日本を満喫し過ぎて、それぞれのショーは記憶に残っていないんだ。どの都市でもすべてがオーガナイズされていて、お客さんも盛り上がってくれたよ。今回は神社でのライヴがあるし(長野・修那羅山、安宮神社)、地方でのショーを楽しみにしているんだ。

●ツアーは10月3日(火)、岡山PEPPERLANDからスタートします。最新アルバム『百鬼夜行 Night Parade Of One Hundred Demons』(2022)に伴うツアーが桃から生まれた桃太郎が鬼を倒した“鬼ヶ島”、横溝正史の小説『悪魔の手毬唄』に出てくる“鬼首村”など、鬼と縁の深い岡山からスタートを切るのが興味深いですね。

岡山が鬼と縁があるというのは知らなかった!百鬼夜行もそうだけど、日本の民話や伝説には神秘的な深いものを感じる。ますます行くのが楽しみになったし、良いライヴをやるよう心がけるよ。

●『百鬼夜行』はバンド3人でジャムをするうちに日本のロックの要素が加わっていったそうですが、具体的にどんなバンドですか?

ブルース・クリエイション、フラワー・トラヴェリン・バンド、スピード・グルー&シンキのような1970年代初めのバンド、それからより最近のハイ・ライズ、アシッド・マザーズ・テンプル、メインライナーとかかな。日本のロックはマリオ(ルバルカバ、ドラムス)とマイク(エギントン、ベース)の方がディープに詳しいんだけど、俺も主要なバンドは押さえているし大好きなんだ。

●前回日本に来たとき、それらのバンドが決してメインストリームでヒットしているわけではないことにガッカリしましたか?

そんなことはないよ(苦笑)。世界のどこだって、クールなロック・バンドはメインストリームよりもアンダーグラウンドにいるものだ。日本にはたくさん最高のバンドがいるし、彼らの音楽に触れる機会があることに感謝しているよ。ジャパン・ツアーではいろんな新しい音楽に接して、吸収したいね。

●『百鬼夜行』の元ネタになった日本の民間伝承は元々、子供を寝かしつけるために「早く寝ないと鬼や妖怪が出てくる」と脅したことが原点とも言われていますが、「外に出ると妖怪の呪いで死に至る可能性がある」のがコロナ禍とも共通しています。アルバムを作ったときにそれは意識していたでしょうか?

...いや、リハーサルのときから音楽に没頭して、外界のことは頭になかったよ。もしかしたら潜在意識にはあったのかも知れないけど、バンドで話し合ったりはしなかった。確かに百鬼夜行にはコロナ禍と共通するものがあるし、アルバムを聴く人には両者を重ねて考える人もいるかもな。

●百鬼夜行のコンセプトはマイク・エギントンの息子さんが提案してきたという話ですね?

うん、マイクと親子して日本文化のマニアなんだよ。息子の方は映画ごとのゴジラの顔を区別出来るぐらいのフリークだ。だからアルバムのコンセプトは彼らに負うものが大きいね。ジャムが日本らしさを帯びていくうち、チャンネルが開かれて、百鬼夜行という題材に導かれるようになったんだ。バンドのナビゲーター的な役割を担っていたんだよ。驚きに満ちた旅路だった。

●アルバムに収録されている「デス・トゥ・ザ・レッド・サン」も日本に関連したテーマでしょうか?

いや、マリオがタイトルを思いついたんだけど、日本の国旗とは全然関係ないんだ。『From The Ages』(2013)の「Violence Of The Red Sea」と繋がっている部分があったり、インストゥルメンタルだから抽象的なアイディアだった。説明するのが難しいというか、明解に言語化することが不可能なんだよ。

●“赤い太陽に死を”というタイトルに、反日ソングと間違った解釈をするリスナーがいないことを祈ります。あなたはインタビューでも常に日本への愛情を口にしてきているし、誤解が生じる余地はありませんが...。

うん、『百鬼夜行』は日本文化からの影響から生まれたアルバムだし、これから日本に行くのを最高に楽しみにしている。それにインストゥルメンタル曲に政治的メッセージを込めることは不可能だからね。アースレスはこれ以上ないぐらい親日的バンドだよ。

Earthless / photo by Marta Estellés Martín
Earthless / photo by Marta Estellés Martín

<アースレスが最もエキサイティングな場所はステージ上だ>

●『百鬼夜行』の音楽はどの程度がインプロヴィゼーションで、どの程度が作曲されたものですか?

曲のベーシックな骨子はすべて作曲されたものだよ。ジャズのスタイルのように大まかな展開は決めておいて、即興パートはあくまでその上に加えていったものだ。曲がベストな形で始まって、展開して、終わることを志している。

●スリープが全1曲60分の『ドープスモーカー』(1996年録音)を作ったときにレコード会社に3分半のシングル・エディットを求められたのは有名ですが、アースレスがそのような目に遭ったことはありますか?

ないよ(苦笑)。俺たちの作品を出してきたレコード会社は、俺たちがどういうバンドかちゃんと判っている。その前のアルバム『ブラック・へヴン』(2018)でヴォーカルを入れたり曲が短めだったのは、バンド自身の意思だった。いや、音楽にそう導かれたんだ。レコード会社からは何も言われていないよ。彼らはアルバムを聴いて「おお、クールだ!」と言って出してくれた、それだけだ。

●日本公演の演奏曲目は『百鬼夜行』を中心としたものになるでしょうか?それともキャリアを通じてのベスト選曲になりますか?

『百鬼夜行』からの曲を軸としたものになるだろうね。このアルバムに伴うツアーの終着地になるんだ。インスピレーションの根源となった日本の地でフィナーレを迎えることが出来て、光栄に思っているよ。

●アースレスのライヴをまだ見たことのない若い日本のリスナーに、どのようなものか教えて下さい。

パワー・トリオが演奏する大音量のインストゥルメンタル・ミュージックだよ。インプロヴィゼーションもあって1曲が45分から1時間になることもある。バンドとオーディエンスが一体になって目を閉じて、音楽の旅路に赴くんだ。

●2022年にブラック・クロウズの日本公演に同行しましたが、彼らの音楽にもアースレスほどではないにしてもインプロヴィゼーション・ジャムの要素がありますね。

彼らは今ではもうほとんどジャムはやっていないけどね。ハウリング・レインのメンバー達との繋がりがあって、みんな友達なんだ。両バンドでやる一番の違いは、メンバーの数かな。アースレスはトリオだけど、ブラック・クロウズは7人編成だ。3人だとバンド内の比重が高いぶん責任があるけど、自由度も高くなる。7人編成だと弾くべきこと、弾くべきでないことがきっちり明確なんだ。中心となるのはクリス・ロビンソンが歌う曲で、それを最も効果的に表現するのがバンドの仕事だった。楽しかったし、今ではブラック・クロウズとの活動は一段落しているけど新鮮な気分で、学ぶことが多かったよ。俺は他にもゴールデン・ヴォイドでやっているし、マリオやマイクも別のバンドをやっている。その経験をパワー・トリオ編成に落とし込むことで、アースレスの音楽がさらに豊かなものになるんだ。

●今回の日本公演は『百鬼夜行』に伴うツアーの最終公演だそうですが、その後の予定は決まっていますか?

出来るだけ早くアースレスのニュー・アルバムに取りかかりたい。これまでのアルバムとはまったく異なった音楽性になると思う。まあ実際に書き始めないと、どんな結果が生まれるか判らないけどね!ツアーやレコーディング以外で人生いろいろやるべきことがあるし、ひとつひとつこなしていくよ。

●アースレス以外のバンドでの活動は何かありますか?

マリオはOFF!でのライヴが決まっているし、俺は自分用の曲作りをするつもりだ。ソロ・アルバムになるか、アースレスの次のアルバムに向けてのスターティングブロックとなるか...音楽に導かれるまま突き進んでいくよ。

●アースレスは通常のスタジオ・アルバムの他にオフィシャル・ブートレグ的なライヴ・アルバムを数枚出していますが、新たに出す予定はありますか?

ああ、近いうちに『百鬼夜行』ツアーからのライヴ盤を出すつもりなんだ。アルバムのライヴ・ヴァージョンを記録しておきたいからね。まだ公演地や日付はサプライズにしておくけど、みんながハッピーになる内容だと思う。ただ、アースレスが最もエキサイティングな場所はステージ上だ。日本のみんなと一緒に音楽の旅に出るのを楽しみにしているよ。

EARTHLESS JAPAN TOUR poster / courtesy of El Puente
EARTHLESS JAPAN TOUR poster / courtesy of El Puente

【来日公演日程】

EARTHLESS JAPAN TOUR 2023

2023年10月

3(火)岡山PEPPERLAND

4(水)大阪SOCORE FACTORY

5(木)名古屋 HUCK FINN

7(土)長野 修那羅山 安宮神社

8(日)新大久保EARTHDOM

9(月)西横浜 EL PUENTE

10(火)新代田FEVER

(問い合わせ メール: earthlessjapantour2023@gmail.com まで)

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2014年 マリオ・ルバルカバへのインタビュー

http://yamazaki666.com/interviewearthless.html

2015年来日告知 ヘヴィ・サイケデリックの新世代支配者アースレス、初来日公演が実現

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/41cafd3206eba30ec22dee05f59463ab7e6f99ec

2018年 インタビュー

https://www.barks.jp/news/?id=1000152635

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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