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情熱のギタリスト、カルロス・サンタナの人生を追った映画『カルロス:ザ・サンタナ・ジャーニー』限定公開

山崎智之音楽ライター
映画『カルロス:サンタナ・ジャーニー』より

写真(c)2023 SANTANA TESORO, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

カルロス・サンタナの人生を追ったドキュメンタリー映画『カルロス:ザ・サンタナ・ジャーニー』が2023年9月23日(土)27日(水)の2日間、TOHOシネマズ日本橋ほかで限定劇場公開される(現時点で日本での劇場公開が予定されているのはこの2日間のみ!)。全米公開の9月29日(金)に先駆けてのプレミア上映だ。

聴く者のハートを焦がし、涙に濡れさせるカルロスの情熱のギターは、半世紀以上にわたって熱狂的な支持を得てきた。1969年、レコード・デビューを前にして伝説の“愛と平和の祭典”ウッドストック・フェスティバルに出演、アルバム『サンタナ』が全米チャート4位という鮮烈なデビューを飾っている。ロックとブルース、ラテン音楽をクロスオーヴァーさせた音楽性と「ブラック・マジック・ウーマン」「哀愁のヨーロッパ」「僕のリズムを聞いとくれ」「イヴィル・ウェイズ」などの名曲・名演で人気を博した彼は1999年のアルバム『スーパーナチュラル』とシングル「スムーズ」で新旧世代のファンを巻き込んで、今日に至るまでトップ・アーティスト/ギタリストとして敬愛されてきた。

『カルロス:〜』は1947年の出生から現在に至るまで、70年以上に及ぶ軌跡を1時間半に集約した作品だ。メキシコで過ごした少年時代や両親との関係、サンフランシスコでの初期の活動からウッドストックへの出演。時代ごとのライヴ・パフォーマンスなどが映画館のスクリーンで繰り広げられる(初期サンタナに在籍した、若手時代のアフロ・ヘアをしたニール・ショーンも映し出される)。「建物2階分」のアーカイヴ映像から選りすぐったステージ上の演奏はもちろん、バックステージやスタジオでのフリーフォームのプレイもふんだんに収録されている。

カルロス自身が全面的に関わっている“公式”作品ということもあり、その人生と音楽、貧困や差別と闘いながら育った少年時代、そして精神性や神について、自らのギターとトークで雄弁に語り尽くしている。監督のルディ・バルデスは「インタビューで質問をぶつけて、それに対する回答を得るのではなく、彼の話すままを捉えたかった」と説明しているが、第三者へのインタビューはほとんどなく、ナレーターもいない。彼から影響を受けたギタリスト達、あるいは賑やかしの人気スターも皆無だ。カルロス以外で話しているのはせいぜい妹たちと現在の奥方シンディ・ブラックマン・サンタナぐらいなものである。

自らのバンドでもヴォーカルは専任シンガーに任せているカルロスだが、そのライヴを見たことがある人ならば、曲間のMCで絶妙なトークを披露、しゃべりも“アリ”なのをご存じだろう。本作でも「どうしてもマイルス・デイヴィスやボブ・ディランと同じ“コロムビア・レコーズ”と契約したかったから、その前に行われた“アトランティック・レコーズ”とのオーディションではわざとヘタクソに弾いて落ちたんだ」など、笑いながら重要な発言をしている。

「ウッドストック・フェスではまだ出番がずっと後だと思って、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアからもらった錠剤(おそらくメスカリン入り)を呑んだら、すぐに呼ばれたんだ」という彼はハイになったままステージに上がったという。「ギターのネックがヘビみたいにくねくね逃げようとして、押さえようと必死だった」そうで、ライヴの映像で見ることが出来る鬼気迫る形相はそのせいだったと語っている。もしライヴが失敗に終わっていたらどうなっていたか?...と、ロックの歴史を左右させかねない出来事についての発言が随所で飛び出すのはスリルを感じる。

Carlos Santana 2023
Carlos Santana 2023写真:REX/アフロ

カルロスのスピリチュアルなメッセージにも時間が割かれている。両親から受け継いだ宗教観、インド出身の導師シュリ・チンモイとの出会い、アルバム『キャラバンサライ』(1972)からの精神性の重視などについても言及、アルバム『スーパーナチュラル』について「光で分子を繋ぐ」と描写するなど、彼のスピリチュアリティを覗き込むような作品でもある。

ただ、“魂の救済”や“創造主からの愛”などについて語りながらも、決して押しつけがましくなったり説教臭くならないのがカルロスだ。その発言は彼が弾き出すギターのトーンとシンクロしながら、ナチュラルなハーモニーを織り成している。『カルロス:〜』は彼の人生を線上に追っていくのと同時に、内面から外側に向かっていくという、2つのベクトルを持った作品なのだ。

カルロスのトークは基本的に英語だが、家族や故郷について、あるいはスピリチュアルな話題になるとスペイン語が混じることがある。それは作為的なものではなく2012年、筆者(山﨑)とのインタビューでも、話が盛り上がると“ミ・コラソン(私のハート)”などのスペイン語が飛び出し、照れ笑いしながら英語で言い直すことがあった。今回日本で公開される『カルロス:〜』は両言語ともに日本語字幕が付けられているので安心だ。ただ字幕の文字数制限の関係で、人名を列挙するときに何人か漏れてしまうこともある。その中にはマイク・ブルームフィールド、コール・ポーター、ハウリン・ウルフなど、カルロスが自らの音楽性を確立させるのに重要な位置を占めたミュージシャンもいるので、字幕に頼るだけでなく、彼の談話にしっかり耳を傾けたい。

耳で聴いて、目で見て、魂で感じる。『カルロス:ザ・サンタナ・ジャーニー』はそんな映画だ。

映画『カルロス:サンタナ・ジャーニー』より / (c)2023 SANTANA TESORO, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
映画『カルロス:サンタナ・ジャーニー』より / (c)2023 SANTANA TESORO, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

【作品情報】

『カルロス:ザ・サンタナ・ジャーニー』

2023年9月23日(土)、27日(水)TOHOシネマズ 日本橋ほか 2日限定公開

素材フォーマット: 2D DCP サウンド: 5.1 /FLAT

上映時間: 約98分(本編+特別映像)

監督: ルディ・バルデス

出演: カルロス・サンタナ

プロデューサー:サラ・バーンスタイン、ジャスティン・ウィルクス、リズ・モルハイム、レオポルド・ゴウト、アシュリー・カーン、サム・ポラード、ルディ・バルデス

制作年:2022

制作国:アメリカ

映画クレジット:(c)2023 SANTANA TESORO, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

世界配給:Trafalgar Releasing / Sony Pictures International

チケット販売スケジュール:上映日の2〜3日前から劇場HPにて販売開始。*劇場によりスケジュールが異なります。詳しくはご鑑賞劇場へお問い合わせください

日本公開情報HP: https://www.culture-ville.jp/carlos

海外公式HP:http://carlosfilm.com

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音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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