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スパークス/奔放なサックスと無慈悲なバイオリンス【後編】

山崎智之音楽ライター
Sparks / Russell & Ron Mael(写真:REX/アフロ)

原案・音楽を手がける異色のミュージカル『アネット』、その半世紀を超える軌跡を辿った『スパークス・ブラザーズ』という映画2作が2022年4月、日本で連続公開されるスパークス。そのメンバーであるロン&ラッセルのメイル兄弟へのインタビュー全2回の後編。

前編記事では両作品について2人に語ってもらったが、今回はスパークスのシネマチックなロック・バンドとしての側面を掘り下げてみたい。

Russell, Edgar & Ron/配給:パルコ ユニバーサル映画
Russell, Edgar & Ron/配給:パルコ ユニバーサル映画

<エドガー・ライトは5歳の頃からスパークスのファンだった>

●『スパークス・ブラザーズ』をエドガー・ライトが監督したのは、どのような経緯があったのですか?彼の映画作品は見ていましたか?

ラッセル:もちろん!『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(2010)など、エドガーの作品はどれもスペシャルでユニークだ。初めて会ったとき、彼が5歳の頃からスパークスのファンだと知って、驚いたし嬉しかったよ。それから2年ぐらいして、「誰かがスパークスのドキュメンタリー映画を作らなければならない。その誰かは、俺であるべきだ!」と言われた。スリルを感じたね。スパークスのドキュメンタリー映画というだけでなく、エドガーの感覚を加えることで、素晴らしい映画作品になると確信した。それで一緒にやることにしたんだ。

●音楽映画は(1)『アネット』のようなミュージカル、(2)『スパークス・ブラザーズ』のようなドキュメンタリー、(3)俳優がバンドを演じるバイオピック、(4) 『マンマ・ミーア!』のようなヒット曲を並べた作品に分類することが出来ます。今回(1)と(2)が実現しましたが、(3)や(4)に関心はありますか?

ロン:(3)で誰が私たちを演じるか、どんなストーリーになるか、野次馬的な興味はあるね。あと(4)のジュークボックス映画で、チープでバッドなストーリーに自分たちの曲をどう強引にねじ込んでいくかも見てみたい気がする。でも本当にシリアスに取り組みたいのは(1)なんだ。『アネット』に続く作品をもっと作りたい。(2)に関しては、『スパークス・ブラザーズ』があれば、だいたい十分だと思う。そう何作もドキュメンタリーは要らないよ。

●(3)の例として、あなた達の前座をやったことがあるバンドの『ボヘミアン・ラプソディー』が成功を収めていますが、興味はありませんか?

ロン:大勢の人が見に行って、高収益を挙げることを“成功”と呼ぶならば、あの映画は成功なのだろうね。

ラッセル:本人たちの映像が現存するのに、俳優を使ってまったく同じシーンを新たに撮影するのは不思議に思うけどね。こないだバズ・ラーマンが監督するエルヴィス・プレスリーのバイオピックの予告編を見て、「何故...?」と思ったよ。いや、バズ・ラーマンには敬意を持っているけど、あまりに不可解だった。エルヴィスに関する本を読むのが面倒臭い人向けに再現映像を作ったのかも知れないけどね。

●『ボヘミアン・ラプソディー』で若手時代のクイーンがスパークスのライヴの前座を務めた事実がスルーされたことにガッカリしましたか?

ロン:全然。

ラッセル:(無言で微笑)

●スパークスはしばしばシネマチックなバンドと呼ばれますが、ミュージック・ビデオの数々も高く評価されています。ビデオ・コンピレーションを出すのは難しいでしょうか?

ラッセル:具体的なアクションは起こしていないけど、いつかビデオ・コンピレーションを出したいと考えているんだ。これまでレコード会社を何度も移籍したり、さまざまな映像クリエイターが関わったりで、権利をクリアするのに手こずりそうだけどね。

ロン:レコード会社によっては、何ひとつ手放したくない!と主張してくるんだよ。スパークスはベスト盤アルバムを出すのもひと苦労なんだ。私たちは1970年代からたくさんのミュージック・ビデオを作ってきたし、それを1枚のディスクにまとめられたらきっと楽しいものになるよ。

●「ライトゥン・アップ・モリッシー」のミュージック・ビデオはモリッシーが赤いドレスを着てピョンピョン飛び跳ねるというものですが、本人から何か言われましたか?彼がスパークスのファンだというのは有名ですが、あちこちに噛みつくことでもよく知られています。

ラッセル:モリッシーがあのビデオを見たか、直接話していないから判らないけど、曲は気に入ってくれたらしい。ライヴのオープニングSEに使ってくれたりしたよ。彼はシャレが判らない人とも言われるけど幸い、僕たちのシャレは判ってくれたみたいだね。

『スパークス・ブラザーズ』スチル写真/配給:パルコ ユニバーサル映画
『スパークス・ブラザーズ』スチル写真/配給:パルコ ユニバーサル映画

<どのアルバムでもやり残したことがないようにすべてをぶつける>

●『スパークス・ブラザーズ』で子供の頃によく父親に映画に連れていかれたと話していましたが、どんな映画に連れていかれましたか?

ロン:カウボーイ映画や戦争映画が多かったな。ボブ・スティールという俳優が出ている、銃撃戦がたくさんある、いかにも土曜の午後に家族連れで行くような映画だった。あとは戦闘機の名前をタイトルにしたような愛国的な、『Sabre Jet』(1953)という映画に行ったのを覚えているよ。アーティスティックな面で語るべきことは多くはないけど、映画館に行くという行為にスリルを感じたね。ポップコーンや併映のカートゥーン映画とか、すべてが良い思い出だ。

●フランスのヌーヴェル・ヴァーグ映画にはどのように魅せられたのですか?

ラッセル:フランスのアート映画を見るようになったのはUCLAの大学生になってからだった。ハリウッド映画のエンタテインメントも好きだけど、ジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーなどのヌーヴェル・ヴァーグ映画に傾倒したんだ。『勝手にしやがれ』(1960)、『大人は判ってくれない』(1959)、『突然炎のごとく』(1962)、『気狂いピエロ』(1965)、『二十四時間の情事』(1959)などはどれも名作だよ。そういった映画が好きだと、おのずと音楽の趣味も一風変わったものになっていくし、スパークスの音楽の方向性に少なからず影響を与えているよ。

ロン:アメリカのちょっと気の利いた大学生にとって、イギリスのロック・バンドとフランス映画はヒップな必須アイテムだったんだ。

●「ホェン・ドゥ・アイ・ゲット・トゥ・シング・マイ・ウェイ」や「エディット・ピアフ(セッド・イット・ベター・ザン・ミー)」では、フランク・シナトラ「マイ・ウェイ」とエディット・ピアフ「水に流して Non, Je Ne Regrette Rien」の歌詞を引用しながら、キャリアの幕引きについて歌っています。現在のスパークスは25枚のアルバムを発表、最新アルバム『ア・ステディ・ドリップ・ドリップ・ドリップ』も高評価を得て、『アネット』『スパークス・ブラザーズ』が公開されるなど、まさにピークと言っていい状況にありますが、“「マイ・ウェイ」を歌ってもいい頃”にあるでしょうか?

ラッセル:ハハハ、そうかもね(笑)。今はスパークスにとってすごく良い時期なのは確かだ。何かを成し遂げた気分だよ。でも、これからニュー・アルバムに着手するところで、映画も作る。ツアーにも出るし、まだ「マイ・ウェイ」を歌うにはちょっと早いな。ただ毎回、後悔は残さないようにしているんだ。どのアルバムでも、やり残したことがないようにすべてをぶつけているよ。

●1994年、「ホェン・ドゥ・アイ・ゲット・トゥ・シング・マイ・ウェイ」は華々しいカムバック・ヒットとなりましたが、それなのに自分たちの引き際に言及しているのがスパークスらしいといえるでしょうか...?

ロン:あの曲は“カムバック”だとか言われたけど、我々はずっと曲作りを続けてきたし、どこかに消えていたわけではないんだよ。だから、あの曲にすごい覚悟が込められているわけでもない。我々が“不在”だった時期は、『舞』に全力投入していたんだ。もし私たちが戦略的にミスを犯していたとしたら、ひとつのプロジェクトにすべての力を注いだことかな。『舞』の作業をしながら、スパークスのアルバムも出し続ければ、消失したように誤解されなかったかも知れない。このとき学んだのは、映画プロジェクトにはコントロール不能な部分があるということだった。『アネット』のときは、アルバム発表やツアーをしながら並行して作業していたよ。

Sparks
Sparks写真:ロイター/アフロ

<トッド・ラングレンとは2072年にアルバムを作るよ>

●今後の音楽的活動について教えて下さい。

ロン: スパークスのニュー・アルバム用の曲を書いているし、ミュージカル映画にも着手している。複数のことを同時進行でやることを楽しんでいるよ。3〜4分の楽曲を書くのと2時間のミュージカルを書くのでは脳の異なった部分を使うし、お互いへの刺激になるんだ。それにツアーにも出ることが決まっている。こないだ地元のロサンゼルスで久しぶりのライヴをやったよ(2月7・8日、“ウォルト・ディズニー・コンサート・ホール”)。オーディエンスの前で演奏して、ダンスする喜びを味わえて、とてもハッピーになれたし、ツアーが楽しみだ(3月〜4月に北米ツアー、4月〜5月にUK &ヨーロッパ・ツアーが予定)。ぜひ日本にも戻りたいね。それを出来ない唯一の理由は新型コロナウィルスのことだから、それさえ解決すればすぐにでもツアーで行くつもりだよ。

●去年(2021年)突然、トッド・ラングレンとの共作シングル「Your Fandango」を発表しましたが、どのようにして実現したのですか?

ラッセル:いろんなアーティスト同士がコラボレーションする企画アルバムが出ることになっていて、トッドと僕たちの曲もそれに収録されることになっているんだけど、まだ発売されていないみたいだね。彼とは『スパークス・ブラザーズ』制作作業の一環で、久しぶりに会ったんだ。1972年にファースト・アルバムをプロデュースしてもらって以来だったけど、まったく変わっていなかったよ。「また何か一緒にやろう」と言うから、ロンが書いた「Your Fandango」のアイディアを聴かせてみたんだ。トッドが新しいパートを加えたり、楽しい作業だった。

ロン:トッドとは50年に一度、一緒にやるようにしているんだ。次は2072年にアルバムを作るよ。

●エドガー・ライトの映画のファンで、『スパークス・ブラザーズ』で初めてスパークスの音楽に触れるリスナーに5曲をオススメするとしたら、どの曲を選びますか?

ラッセル:25枚のアルバムから5曲を選ぶのは不可能な作業だけど、まず「ディス・タウン」が入門曲だろうな。それから「ザ・ナンバーワン・ソング・イン・ヘヴン」、「ホェン・ドゥ・アイ・ゲット・トゥ・シング・マイ・ウェイ」、「ザ・リズム・シーフ」、最新作『ア・ステディ・ドリップ・ドリップ・ドリップ』から「オール・ザット」。この中で気に入った曲があったら、さらに掘り下げて聴いてみて欲しいね。

【作品情報】

●スパークス・ブラザーズ

監督:エドガー・ライト『ラストナイト・イン・ソーホー』『ベイビー・ドライバー』

出演:スパークス(ロン・メイル、ラッセル・メイル)、ベック、アレックス・カプラノス、トッド・ラングレン、フリー、ビョーク(声)、エドガー・ライトほか

2022年4月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイント他全国公開

(c)2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

https://www.universalpictures.jp/micro/sparks-brothers

●アネット

監督:レオス・カラックス『ポンヌフの恋人』

『ポーラX』

原案・音楽:スパークス

出演:アダム・ドライヴァー、マリオン・コティヤールほか

2022年4月1日(金)全国ロードショー

https://annette-film.com/

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【ライヴ・レポート】スパークス 2017年10月24日/東京キネマ倶楽部

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20171115-00078180

【ライヴ・レポート】サマーソニック2018/夏の終わりを彩る音楽の祭り

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20180912-00096602

ベテランなのに鮮度の高いロック・バンド、スパークスの魅力に迫る

https://jp.yamaha.com/sp/myujin/19404.html

『スパークス・ブラザーズ』ポスター/配給:パルコ ユニバーサル映画
『スパークス・ブラザーズ』ポスター/配給:パルコ ユニバーサル映画

『アネット』ポスター/配給:ユーロスペース
『アネット』ポスター/配給:ユーロスペース

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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