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【インタビュー後編】Borisがニュー・アルバム『NO』で提示するバンドの“現在”

山崎智之音楽ライター
Boris logo / courtesy of Boris

Borisはニュー・アルバム『NO』の音楽性を“エクストリーム・ヒーリング・ミュージック”と表現する。

2020年7月、ウェブサイトBandcampのみで完全自主リリースされたこのアルバムだが、1980年代ハードコア・パンクに21世紀の鮮烈な殺傷力を加えたサウンドは“ヒーリング”とは真逆にあるものにも思える。それに対してAtsuo(ドラムス/ヴォーカル)はこう説明する。

「自分たちが若いときも、いろいろ鬱屈したエネルギーがあったけど、激しい音楽が映し鏡になってくれて癒やしてくれた。今の若い人に、それと同じものを提供したいんです」

新型コロナウィルスや暴動など、混迷の2020年を投影した『NO』。全2回の前編記事ではバンドが受け継いでいく“伝承”について語ってもらったが、今回はAtsuoとTakeshi(ベース/ギター/ヴォーカル)に、Borisが進んでいく“現在”を訊いてみよう。

<感じたこと、思ったこと、考えたことのすべてを込めた>

●今、どんな日常を過ごしていますか?

Atsuo(以下A):ひたすら日本国内でレコーディングですね。本当は7月中旬からアメリカ・ツアーが始まって、ラスヴェガスの“サイコ・ラスヴェガス”フェスまで回る予定だった。『NO』の制作期間は元々製作期間としてスケジュールを組んでいたけど。6週間ぐらいのツアーがまるまるキャンセルになってしまったのは痛いですよ。

●『NO』は完全自主リリースとのことですが、プロモーションやメディア展開はどのようにしていますか?

A:今回はD.I.Y.にこだわって、メディア展開も金をかけてプロモーションするのではなく、友達がツイッターで感想をつぶやいてくれたり、それをバンドのアカウントでリツイートするぐらいですね。不特定多数の一般リスナーに届けたいというタイプのアルバムでもないし、それよりも自分たちの身の丈に合った、自分たちの届けられる範囲に確実に届けたいと思いました。

●最近は“Hello From The Gutter”や“TRASH UP!”など個性の際立ったレーベルから作品を発表するなど、“レーベル選び”自体がBorisとしての表現であるように思えますが今回、“完全自主リリース”というのも、表現手法のひとつなのでしょうか?

Boris『NO』ジャケット 現在発売中 / courtesy of Boris
Boris『NO』ジャケット 現在発売中 / courtesy of Boris

A:“どのレーベルと組むか”というのは、作品の一部でもありますね。僕たちはずっと“Fangsanalsatan”という自主レーベルもやってきたし、自主リリースというのは決して初めての経験ではないです。でもコロナ渦の制限で色々な国への郵便物も止まっています。今はとにかく完全自主でデジタルの流通、Bandcampだけでやってみようという流れになりました。リアクションは良いですね、ビックリするほどに。有り難いことですよ。

●『NO』のレコーディングは新型コロナウィルスが流行する前に行ったものですか?

A:既に流行り始めていました。今年(2020年)2月の日本ツアーの後、3月にオーストラリアのフェスで一週間弱過ごしたんですが、そのとき日本で徐々に感染が広まっていくニュースがどんどん入ってきました。帰国してレコーディングを始めた時点では、かなり大きな問題になっていましたね。

●そんな世界の情勢は、アルバムにどんな影響を与えているでしょうか?

A:感じたこと、思ったこと、考えたことのすべてが込められていますね。リリースすることが僕たちの態度です。

●『NO』を発表する媒体としてBandcampを選んだのは何故ですか?

A:『NO』のセールスをBandcampに絞ったのは、彼らから音楽やロックをサポートしようという気概を感じるからです。Bandcampは音楽を残して、拡げていく意志を持つ人たちのコミュニティになっていると思う。僕たちがそんな人たちと一緒にやっていくという意思表示です。たとえばBandcampでアルバムの値段を10ドルに設定すると、そのうち8ドル弱はバンドにそのまま支払われる。 さらにコロナ以降毎月設定されているスペシャル・デーは手数料を取らずに全額アーティストに還元するというのも評価出来るし、頼もしいですね。日本のアーティストもBandcampを通じてインターナショナルに打ち出した方が良い。国外のアーティストを取り巻く状況も理解出来るでしょうし、活動の可能性も広がると思います。今回のコロナ渦では、日本ではライヴハウスへのドネーションが先行したけど、アメリカではすぐにアーティストをサポートする動きが生まれたんです。ロック・ミュージックが根付いているのと、アーティストや文化というものに対する捉え方も異なっていると感じました。

Takeshi(以下T):日本はバンドで食っている人が少ない、ということもあるんでしょうけどね。バンド以外の仕事をしていて、それで食っていけるから、まずはライヴ会場をサポートしようという流れが起こっていた。僕らもそういった会場へのドネーション企画のコンピレーションに参加したりしていますけど、それは他人事ではなく、僕たちだって生き残らなきゃならない。そんな状況で出来ることは、とにかく作品を作り続ける事しかなかった。

●今後の作品も自主リリースしていきますか?

A:うーん、どうだろう?そのへんはまだ判らないですね。『NO』へのリスナーの反応や、次のリリースでバンドが置かれている状況にもよるだろうし、その時々で最良の選択を出来たら良いですね。今回はおかげさまで発売前の予約だけで制作費はリクープ出来ていました。今はレーベルが制作費をアドヴァンスとして支払う事も少なくなってきてますし、良い選択が出来ました。

Boris / courtesy of Boris
Boris / courtesy of Boris

<D.I.Y.な活動で音楽を世界中の人に届けて、バンドを存続させていく。そんな姿を見せたい>

●アメリカの“サード・マン・レコーズ”から『あくまのうた』『boris at last -feedbacker-』(2003)リイシュー盤、『Live AT Third Man Records』(2017)、『LOVE & EVOL』(2019/Oはギリシャ文字のファイ)を発表しましたが、彼らとの関係はどんなものですか?

A:“サード・マン”にはもう1枚、アナログ盤をプレスしてもらってます。再発のシリーズも制作進行中です。オーナーのジャック・ホワイトとはまだ会っていないけど、非常に良好な関係ですよ。レーベルには異なったカラーがあって、それぞれの武器がある。“サード・マン”や“TRASH UP”、“Hello From The Gutter”などそれぞれ面白い要素があるし、これからもいいお付き合いがしていけたら良いですね。

●次のアルバムの制作に入っているそうですが、どんな音楽性になりそうでしょうか?

A:まあ、今はそれしかやることがないからね(笑)。歌詞も出来たので来週からヴォーカル・レコーディングという段階です。どんな音楽性になるか、いつもBorisを聴いてくれている人にはイメージしやすい流れじゃないかな。

●実際に作品を聴いてみるまで、どんな音楽性なのかイメージ不能なのがBorisの個性ですが...『NO』の場合、1曲目「Genesis」がスロー&ヘヴィだったので『Dear』(2017)タイプのアルバムなのかと思いきや、2曲目「Anti-Gone」でガツンとアップテンポに突入するのが度肝を抜きました。

A:うん、まあ確かに“予想の範囲内”とか言われたらショックかも知れない(笑)。

●Borisは1990年代初めから活動して、さまざまな年齢層や国籍のファン/リスナーがいますが、主に若い世代、十代から二十代のリスナーにどんなメッセージを伝えたいですか?

A:コロナ禍はまだ全然続いていますけど、自分たちが今までやってきた活動に支えられてこうやって活動出来ていると実感します。『NO』は流通、プロモーションまで完全に自主制作です。レコーディングも自分達でして、外部の人の判断とか、待ち時間もないし、すごく速く動くことが出来た。リアクションも直接こちらに届きますし、自分たちで決めて自分たちで行動する喜びを沢山感じることが出来ました。ビジネスでなくロックに誠意を持った方々に助けられている。まだまだ世界がどういう状況になっていくか全然わからないし、ライヴだっていつ出来るか判らない。コロナ禍で刻一刻と変わっていく世界情勢、長いスパンでの計画も建てられない状況です。とにかく自分で動いて、今やれることをやるしかない、慎重にね。まずアクションを起こして、そこで判断して、次をイメージしていく期間ですね。そんなD.I.Y.な活動を出来るのは、自分たちの武器だと考えています。こういうやり方でもちゃんと世界中の人に届いてる、バンドも存続させていける、そんな姿が見せられたら良いですね。『NO』に協力してくれた仲間、家族、バンドをサポートしてくれる世界中のファンには本当に感謝しています。さまざまな人たちに支えられながら、行けるところまで行きたいですね。

【Boris公式サイト】

https://borisheavyrocks.com/

【Boris公式Bandcampサイト】

https://boris.bandcamp.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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