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【インタビュー後編】ジャン=ジャック・バーネル(ザ・ストラングラーズ)/虹をよぶ拳とパンク・ロック

山崎智之音楽ライター
The Stranglers/ photo by Hiroki Nishioka

2019年11月に来日公演を行ったザ・ストラングラーズのベーシストでありシンガーのジャン=ジャック・バーネルへのインタビュー後編。

前編記事では彼の日本文化への愛情を語ってもらったが、後編ではさらに踏み込んで、彼の空手人生を中心に語ってもらおう。

インタビューは英語で行われたため、彼の空手界の師匠・先輩たちが単に“ミスター~”と呼ばれることも多い。ただ、彼の口調には常に敬意が込められていたことを付け加えておきたい。

<空手家は敗北から学んで強くなる>

●最初に格闘技を始めたのは19歳のとき、テコンドーだったそうですが、何故空手に転向したのですか?

当時は正直、空手とテコンドーの違いが判らなかったんだよ。格闘技をやりたくて、東洋思想にも関心があったんで、大学の友人に誘われてテコンドーを始めたんだ。それから大学院に進んで、空手のクラブに入ることにした。それがたまたま極真会館だったんだ。それで真剣に稽古に打ち込むようになった。だから実は最初から「極真会館に入門しよう!」と志したわけではないんだ。

●極真会館で最初の師匠はブライアン・クロウリー先生だったそうですが、ネットで検索すると『Moving With the Wind: Magick and Healing in the Martial Arts』という本を書いた人物がヒットします。この本は空手と神秘主義や黒魔術の関わりについて書いた本とのことですが、あなたも空手と黒魔術の関連は意識していましたか?

いや、そんな話はまったく知らなかったよ!空手と黒魔術を絡めた話をされたことは一度もなかった。もしかしたら俺の知っているセンセイ・クロウリーとは別人かも知れない。あるいは俺が学んでいた後に黒魔術に開眼したのかも知れない。今その話を聞いて驚いたよ。

●クロウリーというとアレイスター・クロウリーという魔術師もいましたしね。

そうだな(苦笑)。でもクロウリーという名字は決して珍しくないし、センセイ・クロウリーはアレイスターと関係ないと思うよ。

●日本では梶原一騎原作/つのだじろう〜影丸譲也作画の漫画『空手バカ一代』によって極真空手がメインストリームに知られるようになりましたが、読んだことはありますか?

いや、漫画の存在は知っているけど、読んだことはないんだ。日本の漫画文化についてよく知らなくて、どう読めばいいのか判らないのと、日本語を読めないのが理由だよ。でもミスター梶原が空手の普及に貢献をしたことは知っている。伊豆高原の士道館大室山一騎道場で何ヶ月か練習したことがあるけど、そこにミスター梶原の石碑があるんだ。俺は彼の実弟だったミスター真樹日佐夫と親交があって、ミスター真樹の葬式にも参列した(2012年)。

●『空手バカ一代』では極真時代の士道館・添野義二館長も活躍します。

それは知らなかった。今まで読む機会がなかったけれど、読んでみるよ。ストーリーで判らない部分は、日本人の道場生に読んでもらうしかないけどね。

●『空手バカ一代』にはイギリス出身のハワード・コリンズ師範も登場しますが、彼と面識はありますか?

直接の面識はないけれど、彼は百人組手を達成して、ブライアン・フィトキン師範と共にスウェーデンに極真会館を根付かせた偉大な空手家だよ。空手家としてのドルフ・ラングレンを育てたのもコリンズ師範だった。

●あなたは何故、極真会館から士道館に移籍したのですか?

移籍というほど大袈裟なものではなかった。まあ、偶然だよ。南フランスのニースに滞在していたとき、空手の稽古もしようと思って、極真の道場に通っていたら、その道場が士道館になったんだ。極真内部のトラブルについては何も知らなかったし、そのまま通っていた。合宿に参加したとき、添野館長がいらして、直々に日本で修行するよう勧めてくれた。それで士道館新所沢の総本部に行くことにしたんだ。

●士道館はフルコンタクト空手ですが、マイケル・ジャクソンが五段だったりもしましたね。

マイケルの場合は名誉段だけどね。彼が型や組み手をやったことがあるとは思えない(笑)。

●ただ、大山倍達総裁は「ダンサーと喧嘩するときは気を付けろ」とおっしゃっていましたが...。

うん、それは正しい。ダンサーに限らず、自分の身体の使い方を熟知した人間と戦うときは、最大限の注意を怠ってはいけない。油断は禁物だよ。

●元横綱・北尾光司が士道館で学んだこともありましたが、相撲はお好きですか?

相撲はテレビで何度か見たことがある程度で、力士の名前までは知らないんだ。力士の身体の大きさで柔軟性があって、あとは打撃の技術とスタミナがあれば、恐ろしい存在だよね。ミスター北尾とは会ったことがないけど、士道館で本格的にトレーニングすれば凄い空手家になっていたかも知れない。

●また、プロレスラーのアブドラ・ザ・ブッチャーや2代目タイガーマスク(三沢光晴)も士道館で学んでいたといわれています。格闘技者としてのプロレスラーをどう見ていますか?

俺が池袋の極真会館本部道場に通っていた頃も、柔道家やプロレスラーが稽古することがあった。俺自身はそのアブドラ・ザ・ブッチャーやタイガーマスクとは会ったことがないけどね。プロレスラーは身体がデカくてトレーニングしているし、ナメるわけにはいかない。ただし極真スピリットというのは、どんな格闘技も受け入れ、必要があればどんな格闘技とも戦うというものだった。ほとんどの場合、極真は勝利を収めてきたけど、大山総裁は若い頃、アメリカでメキシコ人ボクサーに半殺しにされたという話も聞いたことがあるし、全戦全勝ではなかったようだ。誰だって敗北は怖いし、多くを失うことになる。でも、空手家は敗北から学んで、幅広い経験を経ることで、さらに強くなっていくんだ。

The Stranglers / photo by Hiroki Nishioka
The Stranglers / photo by Hiroki Nishioka

<俺にとってのヒーローは...>

●ARBのKEITHとはどのように知り合ったのですか?

KEITHは黄金のハートを持った男だ。彼とは長い、良い友達だよ。極真会館で修行をするために日本に来たとき(1978年)、彼のアパートに泊めてもらったんだ。俺が組手でミスター中村誠に肋骨をへし折られたとき、看病してくれたのもKEITHだった。

●1979年2月、ザ・ストラングラーズの初来日時、「サムシング・ベター・チェンジ」を3回繰り返してプレイして、その後に観客席にダイブして観客をボコボコにしたという伝説がありますが、どんなことを覚えていますか?

それは事実とは異なるな。当時、日本のお客さんは行儀が良くて、曲が終わると10秒ぐらい拍手をして、ストップする...の繰り返しだった。俺たちはそんな反応に慣れていなかった。それで「サムシング・ベター・チェンジ」を繰り返し演奏するのが、その場の空気を変えるのに役立つと考えたんだ。“何かが変わらねばならない”という意味だからね。そんなとき、最前列に鉤十字の腕章を付けた小僧がいるのに気付いた。当時からパンクの連中は意味も判らず、ただ反社会ぶりたくてナチ賛美をしたりした。それが俺には堪えられなかったんだ。だから観客席に下りていって、その小僧に「何のつもりでその腕章を付けているんだ?」と問いただした。ボコボコにはしていないよ(苦笑)。

●空手やパンク・ロックは若者のものというイメージがありますが、あなたはいつまで現役を続けるつもりですか?

死ぬまでだよ!少なくとも、身体が動くうちは空手も音楽も続けるつもりだ。今、ザ・ストラングラーズのニュー・アルバムを作っているところだよ。もう半分ぐらい出来上がっている。今回の日本公演ではVIPパッケージがあって、新曲を2曲プレイした。今年のイギリス・ツアーでも演ったけど、まだアレンジが固まっていなかったんだ。

●「ノー・モア・ヒーローズ」には「whatever happened to the heroes?(ヒーローはどこに行った?)」という歌詞がありますが、あなたにとって究極のヒーローを挙げるとしたら誰になるでしょうか?

“ヒーロー”と呼ぶのが妥当か判らないけど、チンギス・ハンは興味深い人物だ。それからナポレオン・ボナパルト...正義のヒーローよりも、悪漢の方が魅力を感じるかもね。でも両親はいつだって俺にとってのヒーローだよ。

The Stranglers / photo by Hiroki Nishioka
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https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20191203-00153418/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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