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サン O)))が響かせる『ライフ・メタル』のドローン(持続音)マントラ

山崎智之音楽ライター
(C)2019 SUNN O))) & RONALD DICK

サン O)))のスティーヴン・オマリーへのインタビュー、全2回の後編。

前編記事では傑作との呼び声が高いニュー・アルバム『ライフ・メタル』の概要について訊いたが、後編では収録曲や参加メンバー、近日発表される“瞑想的アルバム”『パイロクラスト』などについて、スティーヴンにさらに掘り下げて話してもらった。

<どんな解釈も間違いではない。すべてが正解だ>

●アルバムの1曲目「ビトゥイーン・スレイプニルズ・ブレス」の“スレイプニル”は北欧神話の神獣で、オーディンの乗る8本足の馬だそうですが、イントロで嘶いているのがスレイプニルでしょうか?

そう考えるならば、それが正解だよ。実はそのパートはバソリー『Blood Fire Death』(1988)の「Oden Ride Over Nordland」イントロをサンプリングしたんだ。俺たちなりの“メタルの歴史”への言及といえるだろう。この曲ではアステカ君主ネツァワルコヨトル、そして15世紀メキシコの祈祷師アヨクアン・クエツパルツィンによる詩が朗読されている。コロンブス上陸以前の中南米には、豊かな文化と哲学があった。その多くはキリスト教による虐殺と破壊によって失われてしまったけれど、一部は現代まで残されていた。その一部が比較的最近になって英語に翻訳されたんだ。とても深く、美しくて、読んでいて魅了されたよ。

●北欧神話とコロンブス以前の文明には、どのような接点があるのですか?

それは聴く人がそれぞれのイマジネーションを使って、接点を見出して欲しい。どんな解釈も間違いではない。すべてが正解なんだよ。世界史においてヨーロッパと中南米の文明は衝突して、中南米の王国の多くは崩壊に追い込まれた。武力だけでなくヨーロッパの思想や文化、病原菌なども情け容赦なく攻め入っていった。...とはいっても、「ビトゥイーン・スレイプニルズ・ブレス」がヨーロッパによる侵略を題材にしていると主張するのではない。物事はいろいろな解釈が可能だ。スレイプニルは北欧神話以前、中央アジアの神話まで遡ることが可能だ。異文化同士の交流や闘争はスリルを感じるし、失われた文化を掘り下げてみることも興味深い。アステカ帝国以前の詩に現代の光を当ててみることで、新鮮な視点から見ることが出来るんだ。

●以前、メキシコの古代遺跡でサン O)))のフォト・セッションをやっていましたが、「ビトゥイーン・スレイプニルズ・ブレス」との繋がりはあるでしょうか?

うん、『モノリス・アンド・ディメンションズ』(2009)のとき、テオティワカンのピラミッドで撮影をしたんだ。キリスト教がやって来る前の宗教観に基づく建築物で、感銘を受けたよ。はたしてそれが「ビトゥイーン・スレイプニルズ・ブレス」と関係しているか?...それは俺が決めることではない。あるかも知れないし、ないかも知れない。でも、君があのフォト・セッションを思い出してくれたのは面白いよ。 “繋がりがあるかも知れない”という選択肢が、君の中で生まれたわけだからね。

『Life Metal』ジャケット(デイメア・レコーディングス/現在発売中)
『Life Metal』ジャケット(デイメア・レコーディングス/現在発売中)

<天体について調べると、理解を超えたスケールに言葉を失う>

●アルバムの参加メンバーについて教えて下さい。トス(T.O.S.)ニューウェンフイゼンとサン O)))は長年にわたって共演を行い、2007年の初来日公演にも同行していますが、彼はどんな役割を果たしていますか?

トスとはサン O)))初のヨーロッパ・ツアー以来の付き合いだから、2000年かな。もう20年近くの付き合いだ。 彼はグレッグがやっていたゴートスネイクのシンガー、ピート・スタールの友人だった。SunnのモデルTアンプを彼から借りたり、ヨーロッパ・ツアーのマネージャー兼クルー、バンの運転など、何でもやってもらっていたんだ。あるとき、それまでシンセを担当していたレックス・リッターが抜けたんで、彼に弾いてもらうことになったんだ。そのときはほとんど助っ人みたいな感じだったけど、それから10年、一緒にツアーしてきた。彼はファミリーの一員だけど、不思議なことに、彼とレコーディングする機会は少なかった。思いつくのは『Oracle』(2007)ぐらいかな。スコット・ウォーカーとサン O)))のコラボレーション・アルバムとして『サウスド』(2014)を作るにあたって、トスを招いたんだ。『ライフ・メタル』で彼がプレイするのは、俺たち全員にとって最も自然な形だった。近年のサン O)))のライヴに彼が参加していて、『ライフ・メタル』がライヴのノリを重視した作品だったこともあるしね。グレッグと俺にトスが加わった3人編成が、今のサン O)))の核なんだ。『ライフ・メタル』ではモーグが極めて重要な位置を占めているし、彼の力が必要だった。2本のギターとモーグが三角形を成して、それにさまざまな要素を加えていったんだ。

●ティム・ミドイェット(ベース、ベース・クロテイル)とは長い付き合いですか?

スティーヴ・アルビニは彼のいたシルクワームのレコーディングを担当したことがあるし、グレッグのエンジン・キッドはシルクワームと何度も一緒にツアーしたことがある。彼らは旧知の仲だし、俺もティムとはシアトルで会ってよく知っている。

●ヒルドゥール・グドナドッティル(ハルドロフォン、エレクトリック・チェロ、ヴォーカル)は?

ヒルドゥールは俺の親しい友人で、ファミリーの一員だよ。彼女はビューティフルでマジカルな人間であり、素晴らしい才能と存在感を持っている。サン O)))とはステージで何度も共演してきたし、 とてもオープンなミュージシャンだ。映画音楽も多数手がけてきて、ヨハン・ヨハンソンと長い間コラボレートしてきた。彼女がプレイしたハルドロフォンは実験的なフィードバックを出すチェロというか...彼女ならではのユニークなサウンドを得ることが出来る。

●「トラブルド・エアー」でパイプオルガンを弾いているアンソニー・パテラスは?

アンソニーはオーストラリア出身のアーティストで、俺とは長い付き合いなんだ。ロビン・フォックスやオーレン・アンバーチなどと一緒にメルボルンのシーンで活動してきたし、 “エディション・メゴ”から作品を発表してきたという点で、俺とコネクションがあったしね。彼とはコラボレーション作『Reve Noir』(2018)も出したし、親しい友人だよ。俺たちがアルバムをシカゴでレコーディングしているとき、彼は自分のトラックをドイツで録ったんだ。

●「オーロラ」「ノヴァ」はどちらもタイトル通り、でかいスケールを感じさせる楽曲ですね。

うん、「オーロラ」「ノヴァ」は“シンフォニック”に近い曲だし、雰囲気を表したタイトルだと思う。オーロラは北極・南極の両方にある電磁波による発光で、凄まじいパワーに圧倒される。“ノヴァ=新星”もまた、星の表面に爆発が起こる現象だ。天体のことを調べていくと、理解を超えたスケールの大きさに言葉を失うよ。このような自然現象について読んだり、映像を見たりするのはディープな哲学的経験だし、自分の人生を見つめ直すきっかけともなる。「ノヴァ」でグレッグと俺のギター、そしてヒルドゥールのハルドロフォンが交錯するのを新星に例えるのは誇張し過ぎかも知れないけど、それぐらいの威力を持った曲にしたかったんだよ。数千人が聴く、ちょっとした音楽に過ぎないのかも知れないけど、俺たちにとっては何よりも大きな表現なんだ。

(C)2019 SUNN O))) & RONALD DICK
(C)2019 SUNN O))) & RONALD DICK

<『パイロクラスト』は瞑想的でありながら爆発的>

●「トラブルド・エアー」はインストルメンタルですが、そのタイトルにはどんな意味があるのですか?

「トラブルド・エアー」というタイトルは、アリザ・シュヴァーツの随筆から取ったんだ。彼女はサン O)))に関するエッセイを幾つか書いていて、そのうちのひとつの題名が『Troubled Air』だった。ある意味、そのフレーズから曲のインスピレーションが生まれたんだよ。

●アリザ・シュヴァーツは『カンノン KANNON』(2015)ブックレットの随筆を書いていますが、サン O)))の音楽をジェンダー論と結びつけるという発想に驚きました。あなたはどう感じましたか?彼女の随筆の内容に合意しますか?

アリザの書くことに自分が合意する必要はないよ。アルバムに付属しているテキストであっても、それが絶対的な解釈ではない。サン O)))の音楽を聴く人、それぞれが独自の解釈をすることが可能なんだ。サン O)))の1枚のアルバムでも、聴く人の数だけ解釈が存在し得る。だからこそ、サン O)))の音楽は常に新鮮なのだと思う。俺たちの音楽を自分なりのフィルターを通して探求してくれるリスナーがいることは、俺たちにとって非常に重要なことだよ。アリザの解釈には彼女の人生や経験、思想、受けてきた教育などが反映されていて、俺たち自身には持ち得ない視点がある。深い感銘を受けたよ。俺には書けない文章だ。もちろん、それは俺の役割ではないし、文章で自分の作品を評するつもりはないけどね。

●2019年後半には『パイロクラスト』というニュー・アルバムが出るそうですが、どんな性質の作品なのでしょうか?

『パイロクラスト』は『ライフ・メタル』と同じシカゴのセッションでレコーディングしたんだ。『ライフ・メタル』のセッション中は毎日の午前中、スタジオに集まって、まず15分のドローンをプレイして、気分を高めていったんだ。仏教寺院で鐘を鳴らして空気を浄めるのと同じで、シンプルでありながら効果的な作業だった。それをスティーヴ・アルビニが録音していたんだ。作品としてリリースすることを前提としたわけではなく、ミュージシャン達をコネクトするためだったんだ。『ライフ・メタル』をミックスするにあたって、その音源も聴き直してみて、ひとつの作品として発表するべきだと考えた。それが『パイロクラスト』なんだ。既にここ2回のツアーでは“瞑想的”な要素を取り入れてきたし、『パイロクラスト』はその延長線上にありながら、新しい構成と新しい意味を持つことになったんだ。サン O)))は常に異なった表現の可能性を探ってきたし、とてもエキサイティングな時期だよ。“パイロクラスト”とは火山から噴き出す、マグマや溶岩などの火砕物のことだ。瞑想的でありながら爆発的な、サン O)))らしい作品だよ。

●『パイロクラスト』、そしてサン O)))としての日本公演を楽しみにしています!...ところで、あなたが飼っている猫の名前が“オズマ”だそうですが、それはメルヴィンズのアルバムから取ったのでしょうか?

もちろん、その通りだよ!

【アルバム情報】

サン O)))

『ライフ・メタル』

現在発売中

デイメア・レコーディングス DYMC-321

http://daymarerecordings.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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