ゲイリー・ムーア生前の発掘音源はミュージカル『キャッツ』

Gary Moore(写真:Shutterstock/アフロ)

1952年4月4日は、ゲイリー・ムーアが生まれて67回目の誕生日となる。

2011年2月6日に亡くなったゲイリーだが、現在でもその人気は衰えることがない。ハード・ロックからブルースに転向して成功を収めた彼はシン・リジィ、コロシアムIIなどのバンドに在籍したことでも知られている。ハンガリーのブダペストでは毎年、誕生日近辺にトリビュート・コンサートが行われているし、出身地である北アイルランドのベルファストに彼の銅像を建てようという動きもある。

ゲイリーの人気の理由はまず第一に、そのギター・プレイや作曲能力にあるだろう。「パリの散歩道」「スティル・ゴット・ザ・ブルース」「アウト・イン・ザ・フィールズ」などは、時代を超えた名演・名曲として愛されている。

それに加えて、さまざまなアーティストとの“他流試合”もまた、ゲイリーの魅力だ。ジャック・ブルースやアルバート・コリンズ、キース・エマーソン、グレッグ・レイク、ビーチ・ボーイズ、トラヴェリング・ウィルベリーズ、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド、本多美奈子などの作品で、彼のギターを聴くことが可能だ。彼はまたジョージ・ハリスンやミック・ジャガーともライヴ共演を行ったことがある。

それらセッション音源に良い演奏が多く、ファンの蒐集欲をそそることもあり、ゲイリーの参加レコード/CDのコレクターが世界中におり、血まなこになってレア盤を探してきた。彼が1969年にスキッド・ロウの一員としてアイルランドで発表した2枚のシングル、ザ・ジェイコバイツ「Like Now b/w Choo Choo Charlie」(1969)、キャロル・クリスチャンの「Love City b/w The Groove」(1981)などは究極のコレクターズアイテムと呼ばれてきた。

ゲイリーが参加した音源はほとんどが発掘され、レコード/CDとなっているものは熱心なファンが所有しているが最近、彼がノークレジットで参加したレコードの存在が明らかになり、コレクターを騒然とさせている。

しかもそれが人気ミュージカル『キャッツ』の挿入曲「メモリー」だというから驚きだ。

『'Memory' The Theme From Cats』ジャケット(英MCA 698)
『'Memory' The Theme From Cats』ジャケット(英MCA 698)

これは『キャッツ』『エビータ』『オペラ座の怪人』などのミュージカルで知られる作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーの自伝『Unmasked: A Memoir』で明らかになった情報だ。この書籍自体は2018年3月に刊行されているが、ゲイリー・コレクターのアンテナには引っかかっていなかった。

ゲイリーが1974年から1978年まで在籍したバンド、コロシアムIIがウェバーのロック・アルバム『スーパー・ヴァリエーション Variations』(1978)に参加したことは、ファンにはよく知られた事実だ。彼らは英ITVのテレビ番組『サウス・パンク・ショー』にも出演、アルバムの楽曲を演奏する映像も残されている。

その後、ウェバーは新作ミュージカル『キャッツ』の構想を練るが、デモのレコーディング費用を捻出するために、まずシングルを出すことに。そうして再びコロシアムIIのメンバー達が召集された。この時点でゲイリーはバンドを脱退していたが、喜んで参加することにしたという。

ウェバーは自伝でゲイリーを“元ジューシー・ルーシー”などと間違った記述もしているが(ホワイトスネイクのミッキー・ムーディと混同した?)、“最も偉大な、最も過小評価されたロック・ギタリスト”と絶賛している。

ゲイリーが参加したインストゥルメンタル・ヴァージョンの「メモリー」は1981年、イギリスとヨーロッパでアナログ・シングルとして発表された(英MCA 698)。演奏者のクレジットは“アンドリュー・ロイド・ウェバー・ウィズ・ザ・ヴァリエーションズ・バンド”。ウェバー曰く“まったく売れなかった”そうだ。もちろん後のミュージカル版アルバムでは、ゲイリーのいない別ヴァージョンが新たに録音されている。

Gary Moore, Jack Bruce & Gary Husband 1998 / photo by yamazaki666
Gary Moore, Jack Bruce & Gary Husband 1998 / photo by yamazaki666

その後、ミュージカル『キャッツ』は世界的な大成功を収めるが、ウェバーがレコード会社を移籍するなどしたため、ゲイリー参加ヴァージョンのシングル盤はひっそりと中古レコード店のバーゲンコーナーでホコリを被ってきた。現在CDやベスト盤で聴くことが出来る「メモリー」は(筆者の知る限り)いずれも別ヴァージョンだ。

そんな中からサルベージしてきた「メモリー」を聴くと、ゲイリーならではのギター・プレイがフィーチュアされている。もちろんハードな速弾きなどはないし、暑苦しい“泣き”のギターも聴くことは出来ないが、オリジナルのメロディを生かした詩情あふれるリードは素晴らしいもので、聴き惚れてしまう。

(シングルB面は「Lost Variation」という、やはりアルバム未収録曲だが、おそらくゲイリーは不参加。同じく元コロシアムIIのキーボード奏者ドン・エイリーは参加している可能性もある)

ウェバーはこのヴァージョンについて“偉大なるヘヴィ・メタル・ギタリストのゴージャスでリリカルなギター・ヴァージョン”と表現している。同書では複数箇所でゲイリーを“ヘヴィ・メタル”と表現しているのが気に入らないが、彼のことをかなり気に入っていたことは確かで、1996年の『エビータ』映画版(マドンナが主演した)サウンドトラックでもゲイリーを起用している。

なおゲイリーは筆者との取材で、『エビータ』参加についてこう語っている。

「何てことない、ただのセッションだよ。アンドリュー卿とは昔からの知り合いでね。俺がリハーサルしているところに現れて、プロデューサーのクリス(サンガリーデス)を追い出して“ゲイリーが1曲弾くまで戻ってくるな!”と命令したんだ。でも俺は1時間ぐらいで完成させてしまったから、すぐ戻ってきた。クソみたいなミックスだし、話すべきことはあまりないよ」

これからもゲイリー・ムーアの未発表音源の発掘と研究は続けられるだろう。はたしてゲイリーvs『キャッツ』以上の珍品、しかも優れたギター・プレイが発掘される日は来るだろうか?それが実現する日を楽しみにしたい。