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【インタビュー後編】コヴェットの新世代ギター女王イヴェット・ヤングが語る『Effloresce』

山崎智之音楽ライター
Covet / courtesy of Sony Music Japan

2019年のギター・ミュージックを牽引するインストゥルメンタル・トリオ、コヴェット(Covet)へのインタビュー後編。前編に続いてイヴェット・ヤング(ギター)、デヴィッド・アデミアック(ベース)、フォレスト・ライス(ドラムス)の3人に、最新アルバム『Effloresce』の話題を中心に語ってもらおう。

<『Effloresce』は“開花”するアルバム>

●コヴェット Covetというバンド名にはどんな意味が込められていますか?

イヴェット:“Covet”というのは“渇望する”という意味で、私たちの音楽に対する欲求をバンド名にしているのよ。ビジネス面で成功したい、というのではなく、クリエイティヴな衝動を意味している。

●コヴェットとしての初のジャパン・ツアーの東京公演は渋谷O-Eastで行われましたが、代表曲のひとつ「Shibuya」を渋谷でプレイすることへの感慨はありますか?

イヴェット:もちろん!「Shibuya」は前回(2014年10月)日本に来たとき、渋谷に行って受けたインパクトを曲にしたのよ。すべてがエネルギーと躍動感に溢れていて、とてもエキサイティングだった。そんな経験からインスピレーションを得て書いた「Shibuya」を渋谷でプレイするなんて、現実のこととは思えないわ。

●『Effloresce』というアルバム・タイトルについて教えて下さい。

Covet『Effloresce』ジャケット/courtesy of Sony Music Japan 現在発売中
Covet『Effloresce』ジャケット/courtesy of Sony Music Japan 現在発売中

イヴェット:“Effloresce”というタイトルは“開花”という意味で、アルバムの音楽のイメージを言葉にしたものね。ジャケットのアートワークも私が描いたもので、音楽とジャケット、タイトルがひとつの表現となっているのよ。全曲インストゥルメンタルだから具体的に歌詞で“開花”を歌っているわけではないけど、私たちの中ではそれがトータルなイメージになっている。あと“Effloresce”はオーシャンサイズの同題アルバム(2003年)へのオマージュでもあるのよ。音楽性はコヴェットとまったく異なっているけどね。

●近年、ポピュラー音楽においてアルバムという単位が崩れつつあるとも言われますが、『Effloresce』は当初からフルレンス・アルバムとして作られたのですか?

イヴェット:アルバムを通じてのテーマやコンセプトはなくて、曲を書いて、アルバムを作れるぐらいの曲数が揃ったところで出すことにした。ただ、曲順は書いた順ではなく、起承転結を付けているけどね。昂揚感のある曲からメランコリックに落ち込んでいって、それからまた盛り上がっていく...みたいに、ドラマチックな展開を意識したわ。

フォレスト:かなり前に書いた曲も収録されているんだ。「Falkor」は俺がバンドに加入する前からライヴでやっていた曲だし、「Sea Dragon」はEP『Currents』(2015)に収録されていた曲のニュー・ヴァージョンだ。

デヴィッド:このアルバムは32分ぐらいだから、フルレンス・アルバムとEPのギリギリの境界線なんだ。厳密に定義すると、EPは30分未満らしいよ。もちろん大事なのは音楽そのものだけどね。

●今後もフルレンス・アルバムというフォーマットで作品を発表し続けますか?

イヴェット:そうしたいと考えている。ただ、アルバムの体裁を整えるために捨て曲を収録するつもりはないわ。全曲を良いものにしなければ意味がない。『Effloresce』をもっと長くして、45分ぐらいにすることだって出来たと思うわ。でも、アルバムのためのアルバムにはしたくなかった。曲が完成する瞬間というのは直感的に判るものだし、その瞬間を捉えて、必要以上にアレンジを加えたりしないでレコーディングするのよ。現代は音楽リスナーの集中力もないし、少しでもつまらない部分があったら「ダメだった。はい次!」となってしまう。出し惜しみする余裕なんてないのよ。

フォレスト:俺たちは水増しなんてしたことがない。むしろ曲の初期のアレンジよりもシンプルになることが多いぐらいだ。情報を絞ることによって、聴き手が頭でなくハートで感じることが出来るんだよ。

イヴェット:ギター・プレイについても、あまりに速弾き一辺倒だと呼吸する隙間がなくなってしまう。大事なのは緩急を付けることね。濃淡を付けることで、音楽はより豊かになると思う。

フォレスト:「Shibuya」は良い例だよね。マス・ロック的なイントロからキャッチーなリフがあって、中盤に外宇宙に飛び出すみたいなパートがある。起伏に富んだアレンジで、コヴェットの多様性を象徴しているよ。

●曲作りはどのようにして行っていますか?

イヴェット:多くの場合は私がイントロとメイン・リフを大雑把に書いて、おおよそ80%ぐらいの段階でフォレストとデヴィッドに聴かせて、彼らの意見を聞きながらまとめていく。レコーディングする段階でアレンジやサウンドのトーンはある程度きっちり固めていくわ。だいたいコヴェットで曲を仕上げる所要時間は1日ね。「Shibuya」も1日で書いたわ。「Falkor」はもっと時間がかかったけど、せいぜい数日だった。

フォレスト:イヴェットが書いた曲の原型に、俺がバックビートを加えていったり、リズムを組み立てていく。そこにデヴィッドが入ってきて、全体のグルーヴを作るんだ。イヴェットのギターの世界があって、それを俺のビートの世界との橋渡しをするのがデヴィッドの役割なんだ。

イヴェット:デヴィッドはリズム・セクションの一員というだけでなく、メロディ奏者の一角でもある。3人それぞれがコヴェットにとって不可欠な部分を占めているのよ。

Yvette Young / photo by Kayoko Yamamoto
Yvette Young / photo by Kayoko Yamamoto

<インプロヴィゼーション(即興)は少なめ。やるならばきっちりリハーサルを>

●コヴェットの音楽において、インプロヴィゼーションの要素はどの程度ありますか?

フォレスト:『Effloresce』にはインプロヴィゼーションの要素はほとんどない。スタジオで1時間ぐらいかけてパターンを組み立てて、すぐにレコーディングしたんだ。レコーディング作業はとてもエキサイティングなものだった。初日に「Shibuya」「Glimmer」を録ったけど、その晩は眠れなかったほどだよ。次の日は「Gleam」と「Howl」「Sea Dragon」、そして最終日に「Falkor」をレコーディングした。即興でプレイしたのは「Falkor」のドラムスぐらいだよ。7分半の曲でドラム・ソロもあって、一番難しい曲だった。

●ライヴでもインプロヴィゼーションはありませんか?

フォレスト:決して多くはないけど、少しはあったね。ライヴではお互いに、そして自分自身に刺激を与えるために、その場でちょっと違ったことをしたりするんだ。ただ曲の骨組みを変えるほどではないし、何十分もソロ合戦をすることはないよ。インプロヴィゼーションは最大でも、せいぜい10%程度だね。デヴィッドと俺は、イヴェットがギターを替えたりチューニングするときにちょっとしたフリーフォームのジャムをすることもあるけど、1分やれば長い方だ。

イヴェット:私のインプロヴィゼーションの割合は2%ぐらいかな。自分の出す音には意味があるし、その場の思いつきで弾くことはほとんどないわ。ただ、プレイではなくて、日によってエフェクトを少し変えることはある。会場によってEQを変えたり、ディストーションやリヴァーブを少し深めにかけたり、その逆にクリーンにしたり...そうすることで自分のムードを切り替えているわ。

●コヴェットはさまざまなバンドとツアーしていますが、「アンコールでジャムをやらない?『ジョニー・B・グッド』をやろうぜ」と提案されたらどうしますか?

イヴェット:私は基本的にコンポーザーでソングライターだし、ジャムは得意じゃないのよ。やるならばきっちりリハーサルしてやりたいから、断ると思うわ。今後そう言われる可能性もあるし、今のうちに「ジョニー・B・グッド」を練習しておこうかな(苦笑)。

●「Falkor」は『ネバーエンディングストーリー』のファルコンをタイトルにしたそうですが、映画版が公開された1984年には、まだバンドの誰も生まれていなかったのでは?

イヴェット:うん、3人とも1991年生まれよ。でも私は1980年代の映画を見て育ったし、『ネバーエンディングストーリー』は大好きだった。あとは『ラビリンス 魔王の迷宮』(1986)、『The BFG』(1989)もね。ホラー映画も好きだったわ。『サマーキャンプ・インフェルノ』(1983)、『遊星からの物体X』(1982)、それから昔の映画だと『大アマゾンの半魚人』(1954)...。

デヴィッド:「Howl」のミュージック・ビデオは『シャイニング』(1980)からインスパイアされたんだよ。直接的にシーンをパクったわけではなく、幽霊屋敷みたいな奇妙なムードを出したかったんだ。よくバンド全員でDVDを持ち寄って、ホラー映画大会をやっているよ。最近では『ディセント』(2005)が良かった。

●「Falkor」の曲展開はある意味、プログレッシヴ・ロック的なアプローチですが、プログレに興味はありますか?

デヴィッド:うん、「Falkor」のコード進行はaugコードがあったりして、プログレッシヴといえるんじゃないかな。あまり1970年代のプログレッシヴ・ロックを聴き込んでいるわけではないけど、自分たちの音楽で先進的(プログレッシヴ)でありたいと考えているよ。

Covet / photo by Kayoko Yamamoto
Covet / photo by Kayoko Yamamoto

<2019年はあらゆることにチャレンジしたい>

●イヴェットはどんなギターを弾いていますか?

イヴェット:最近のライヴでは「Ares」「Sea Dragon」「Hydra」「Falkor」でストランドバーグのBoden 7をメインに弾いているわ。あと「Shibuya」「Howl」のビデオではアイバニーズTalman 6弦ギターを弾いている。6弦と7弦ギターでは、トーンがまったく異なっているわね。エモでマス・ロック的な曲は6弦、ヘヴィでプログレ的な曲は7弦を弾くようにしている。もちろん厳密なルールがあるわけではないけどね。どちらかというと、6弦ギターの方が好みだわ。ネックが太すぎないし、6弦のシングルコイル・ピックアップの音を気に入っているからね。

●フェンダー・テレキャスターを弾くのはライヴだけですか?

イヴェット:そうね。あのテレキャスターは初めての本格的なエレクトリック・ギターで、友達が持っていて、私のドラムマシンとトレードしたものだった。イーサン・ディラードという友達だけど、彼には感謝しているわ。

●2019年の予定を教えて下さい。

イヴェット:2019年2月にポリフィアとイギリスで数回ショーをやって、春には北米ツアーをやる予定よ。既に新曲を2、3曲書いているし、2019年にはEPを録音するつもりでいるわ。そのうち1曲は「Falkor」の続編的な曲で、「Atreyu」というタイトルなのよ。これから時々『ネバーエンディングストーリー』ネタをやっても面白いかもね(笑)。コヴェットとしての活動以外では、ソロとしてピアノEPも出したいし、世界中を旅したいし、あらゆることにチャレンジしていきたい。すべての可能性に対してオープンでありたいと考えているわ。

コヴェット

『Effloresce』

ソニーミュージック XSCP-11

現在発売中

https://www.sonymusic.co.jp/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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