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【来日直前インタビュー後編】プリティ・メイズ、さらに『フューチャー・ワールド』を語る

山崎智之音楽ライター
Pretty Maids / photo by Mikio Ariga

2018年11月に来日公演“Back To The Future World- 30th Special Maid In Japan”を行うプリティ・メイズへのインタビュー後編。

前編に引き続き、シンガーのロニー・アトキンスは今回のライヴで完全再現される『フューチャー・ワールド』についての秘話、そして今後の展望を語ってくれた。

<「ラヴ・ゲームス」は第2の「ファイナル・カウントダウン」になる筈だった>

●「ラヴ・ゲームス」のポップ路線は全米ラジオやMTVを狙ったものでしょうか?

『Future World』ジャケット/courtesy of Sony Music Japan
『Future World』ジャケット/courtesy of Sony Music Japan

「ラヴ・ゲームス」は確かにポップだけど、バンドの音楽性が正しく表現された曲だった。決して妥協の産物ではないよ。俺たちが『フューチャー・ワールド』を作っている頃、ヨーロッパの「ファイナル・カウントダウン」が世界的なヒットになったんだ。それで彼らのレコード会社だった『エピック・レコーズ』は北欧のハード・ロックに注目するようになって、白羽の矢を立てたのが、同じ『エピック』と契約していたプリティ・メイズだった。彼らは「ラヴ・ゲームス」をプッシュして、柳の下のドジョウを狙ったんだ。それで「ラヴ・ゲームス」と「ロデオ」「ロング・ウェイ・トゥ・ゴー」をケヴィン・エルソンにリミックスさせた。ケヴィンが『ファイナル・カウントダウン』をプロデュースしたことからも、プリティ・メイズを“第2のヨーロッパ”にしようとしていたことが判るよね。「ラヴ・ゲームス」は決して大ヒットはしなかったけど、当時MTVでオンエアされたし、それでプリティ・メイズを知った音楽リスナーも大勢いた。アルバムのヘヴィな曲は、メタリカやレインボーを手がけたフレミング・ラスムッセンがミックスしたんだ。

(注:1箇所で記載ミスがあったため、訂正しました)

●グラハム・ボネットがバック・ヴォーカルでゲスト参加していますが、どんな関係があったのですか?

プロデューサーのエディ・クレイマーに紹介されたんだよ。エディはアルカトラスのアルバム(『ディスタービング・ザ・ピース』)をプロデュースしていたからね。誰かにバック・ヴォーカルを頼もうというとき、エディが「グラハムはどう?」と提案してきた。俺たちはみんなレインボーやマイケル・シェンカー・グループのファンだし、「マジか!」と色めき立ったよ。グラハムとは面識がなかったけど、2日ぐらいかけて「ウィ・ケイム・トゥ・ロック」と「ラウド・アンド・プラウド」のバック・ヴォーカルを録ったんだ。彼の声はとてつもなくデカかった。スタジオ・ルームの分厚い鋼鉄の扉を通しても、彼のシャウトが聞こえたほどだからね!ただ実際に話してみると、すごく良い人だったよ。それからずっと接点がなかったけど数年前、ドイツのフェスティバルでアクセル・ルディ・ペルのショーで再会したんだ(2014年7月11日、『バング・ユア・ヘッド』フェスティバル)。そのショーでアクセルはいろんなゲストを迎えたスペシャル・ライヴをやって、その中にグラハムや俺もいたんだ。ライヴ前にバックステージで彼は俺に気付いて「よお、元気?久しぶりだね」と言ってくれた。数十年ぶりなのに俺のことを覚えていてくれて、すごく光栄だったよ。

●『フューチャー・ワールド』制作中の有名なエピソードでエディ・クレイマーがミックス・デスクで居眠りしていたというものがありますが...?

うん、それはね。『フューチャー・ワールド』のレコーディングは深夜に及ぶこともあった。ヴォーカル・ブースで俺が歌っていて、「どうだった?」とエディに意見を求めたんだ。そのときデスクでウトウトしていたように見えた。「良かったよ!もう1テイク録ってみよう」とは言っていたけどね。それにアルバム作りに時間がかかり過ぎて、レコード会社からもプレッシャーをかけられることになったんだ。エディ1人のせいではなかったと思うけど、何度も録り直しがあったことも事実だ。あの後、エディとは一度も会っていない。偶然どこかで出くわすこともなかったし、どうしているかも知らないよ。

(注:1箇所で記載ミスがあったため、訂正しました)

●エディはジミ・ヘンドリックス『エレクトリック・レディランド』50周年アニヴァーサリー・エディションのプロデュースをしています。

まあ、エディはスタジオで独裁者になることもあったけど、基本的に紳士的で良い人だったよ。アメリカでレコーディングをする前、デンマークまでプリプロダクションのために来てくれたしね。仕事を離れたら、友達になれたかも知れない。

Ronnie Atkins / photo by Mikio Ariga
Ronnie Atkins / photo by Mikio Ariga

<ケンと初めて会ったのはシン・リジィのコンサートだった>

●「ラウド・アンド・プラウド」などでケン・ハマーのリード・ギターを重ねたハーモニーが効果的ですが、どんなところから影響を受けたのでしょうか?

ケンはシン・リジィの大ファンだから、その影響だと思う。彼も俺もクイーンのブライアン・メイは好きだけど、それよりもシン・リジィからインスパイアされたんじゃないかな。

●これまでシン・リジィの「リトル・ダーリン」やジョン・サイクスの「プリーズ・ドント・リーヴ・ミー」をカヴァーしてきましたが、シン・リジィに対する想いを教えて下さい。

ケンと俺が初めて会ったのがシン・リジィのコンサートだったし、バンド全員がファンだったんだ。「リトル・ダーリン」は“ダーク・ホース”というか、隠れた名曲だと思った。「ヤツらは町へ」みたいな有名曲は誰だってカヴァーしているだろ?それよりレアな曲をやりたかったんだ。まだファースト・アルバムだったし、知られざる名曲に光を当てる!なんて大それたことは考えていなかった。正直、今となっては何故あの曲をカヴァーしたか、記憶があやふやだけど、すごく良い曲だし、今でも好きだよ。

●「プリーズ・ドント・リーヴ・ミー」は?

「プリーズ・ドント・リーヴ・ミー」はまた別の話だ。『ジャンプ・ザ・ガン』を作った後、俺たちはもっと生々しくヘヴィなアルバムを作りたかった。それが『シン・ディケイド』だったんだ。だからあの曲はアルバムに入れるつもりはなく、シングルB面かCDのボーナス・トラックにでもなればいいと思っていた。でも、俺たちと一緒にカーステレオでデモを聴いたレコード会社の担当が「これはヒットする!行けるよ」と言い出したんだ。

●「プリーズ・ドント・リーヴ・ミー」はジョン・サイクスがシン・リジィ加入前にレコーディングしたシングルで、フィル・ライノットやブライアン・ダウニーなどシン・リジィのメンバーが参加していましたね。

うん、ケンがシングルを持っていたんだ。当時ジョン・サイクスが所属していたレコード会社との契約を消化するためのシングルで、シン・リジィに加入する前に発表したものだった。でもヒットはしなかったし、よっぽどのシン・リジィ・マニア以外には存在すら知られていなかった。それでスタジオでやってみたんだ。『シン・ディケイド』はヘヴィなアルバムにするつもりだったし、雰囲気が合わないと思っていた。でもレコード会社の担当に押し切られる形でアルバムに入れて、シングル・カットもすることになった。それでデンマークのシングル・チャートで1位になってしまったんだ。今ではライヴで欠かせない曲だよ。今でもあの曲をカヴァーだと知らないファンが多いけど、訊かれれば「あれは俺たちが書いた曲ではなく、ジョン・サイクスとフィル・ライノットという人たちのカヴァーなんだ。オリジナルも聴いてごらん」と答えるようにしている。

●「リトル・ダーリン」「プリーズ・ドント・リーヴ・ミー」に続くシン・リジィ系のカヴァーをやる可能性はありますか?

うーん、プリティ・メイズでたくさんの自作曲を発表してきたし、新しいアイディアもいくつもある。カヴァー曲をやるよりも、自分たちの音楽をやっていきたいんだ。ただ、永久にシン・リジィの曲をカヴァーしないと宣言するわけではないよ。もしやるとしたら...「帰らぬお前はワイルド・ワン」とかいいんじゃない?

<約2時間の“フューチャー・ワールド”への旅だ>

●ジャケットの女神は『ジャンプ・ザ・ガン』や『ウェイク・アップ・トゥ・ザ・リアル・ワールド』にも登場しますが、彼女にバックグラウンド・ストーリーはありますか?アイアン・メイデンの“エディ”のような名前は?

特に考えていないよ。あれが女神なのかも判らない(笑)。アートワークを手がけたジョー・ペタグノのアイディアなんだ。彼はモーターヘッドのアルバム・アートで有名だけど、コペンハーゲンに住んでいるんだ。俺たちは何もリクエストしなかった。とてもカラフルで素晴らしいアートワークだと思ったし、プリティ・メイズのジャケットで一番気に入っている。

●2016年のアルバム『キングメイカー』からしばらく経ちますが、新しいアルバムの予定はありますか?

最新アルバム『Kingmaker』現在発売中 courtesy of Ward Records
最新アルバム『Kingmaker』現在発売中 courtesy of Ward Records

既に曲作りを始めていて、2019年の2月から3月にかけてレコーディングする予定だ。最近のアルバムを手がけているジェイコブ・ハンセンがプロデュースすることが決まっている。おそらく2019年の秋にはみんなに聴いてもらえるだろう。その後、ニュー・アルバムを引っ提げてライヴをやるよ!

●プリティ・メイズのライヴをまだ見たことがない音楽ファンに、どんなショーなのか教えて下さい。

ハードでエキサイティングで、一緒に歌えるメロディがあって、誰もがハッピーになって帰途に着くようなショーだ。バンドが演奏するだけでなく、お客さん達と一体になって盛り上がるライヴだよ。約2時間の“フューチャー・ワールド”への旅なんだ。

courtesy of Club Citta'
courtesy of Club Citta'

【公演日程】

PRETTY MAIDS

“Back To The Future World - 30th Special Maid In Japan”

川崎CLUB CITTA'

2018年11月17日(土)

『Future World』完全再現

+ Greatest Hits & The Band's favorites

2018年11月18日(日)

『Future World』完全再現

+ Rare Songs & Fans' Favorites

日本公演特設サイト

http://clubcitta.co.jp/001/pretty-maids/

【2017年の来日ライヴ・レポート】

https://www.barks.jp/news/?id=1000143169

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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