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【インタビュー後編】クレイドル・オブ・フィルスと鋼鉄の幻影城/2018年5月来日

山崎智之音楽ライター
photo by Alexander Trinitatov

2018年5月に来日公演を行うクレイドル・オブ・フィルスのヴォーカリスト、ダニ・フィルスへのインタビュー後編をお届けする。

インタビュー前編では英国幻想文学やNWOBHMに対するディレッタント(好事家)ぶりを見せつけたダニだが、後編ではさらに深く、鬱蒼とした暗い森を導いてもらおう。決して手を離してはいけない。

グラミー賞を獲ることをバンドの最大目標としているわけではない

●『クリプトリアナ~腐蝕への誘惑』の「ヴェンジフル・スピリット」ではリヴ・クリスティンをゲストに迎えていますが、彼女を起用することにしたのは?

Cryptoriana / The Seductiveness of Decay (現在発売中)
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リヴは『ニンフェタミン』(2004)にもゲスト参加してくれたんだ。そのときの彼女は無垢な乙女という感じだったけど、今回は怒りの女神として歌っている。曲調もキャラクターも異なっているんだ。実は今回、彼女と一緒にやることは最後のギリギリで決まったんだよ。「ヴェンジフル・スピリット」は75%ぐらいの出来映えだった。良い曲だったけど、何かが欠けていたんだ。それでゲスト・ヴォーカリストを迎えることにした。数人候補が挙がった中で、またリヴに頼むことにしたんだ。彼女とはしばらく連絡を取っていなかったけど、相変わらず最高のヴォイスをしていた。彼女が参加することになって、少し曲の構成をいじってみたんだ。『美女と野獣』みたいなデュエットになった(笑)。

●前回共演した『ニンフェタミン』はグラミー賞にノミネートされましたが、あなたにとってグラミー賞はどの程度価値のあるものでしょうか?

俺はグラミー賞は音楽そのものよりも、音楽業界向けのイベントだと考えている。すべてビジネスさ。俺たちが候補になったとき、受賞したのはモーターヘッドがメタリカの「ウィップラッシュ」をカヴァーしたヴァージョンだったんだ。それでだいたい判るだろ(苦笑)。まあ、くれるんだったら有り難くいただくけど、グラミー賞を獲ることをバンドの最大目標としているわけでもないよ。

●グラミー賞のメタル部門というとジェスロ・タルやテネイシャスDが受賞したり、首を傾げてしまうこともありますが...。

俺たちが受賞しても「ハァ?何だこいつらは」って思う人がいるんじゃないの(笑)?ノミネートされてから、当時契約していた『ロードランナー・レコーズ』に同じような曲をやれと何度も言われたんだ。サヴァイヴァーが「アイ・オブ・ザ・タイガー」でヒットを飛ばした後に「バーニング・ハート」をやったみたいに、同じことを繰り返すことを求められた。そんなのはもちろん却下したけどね。クレイドル・オブ・フィルスはそういうバンドじゃない。作品ごとに新鮮なアプローチを追求するのが俺たちなんだ。

●『クリプトリアナ~腐蝕への誘惑』のボーナス・トラック「ザ・ナイト・アット・カタファルク・マナー」について教えて下さい。

この曲は元々は「エイキングリー・ビューティフル」の姉妹編といえる曲だったんだ。今では別の物語といっていい内容になったけどね。ゴシック・ホラー・ストーリーだよ。Catafalque(棺台)の荘園とは、怪奇物語によくある“断頭台の丘”とか、不吉なネーミングの土地を舞台にしたかったんだ。

●同じくボーナス・トラックで、アナイアレイターの「アリソン・ヘル」をカヴァーしたのは?

バンドを結成した頃からカヴァーしたかったんだ。ただ簡単な曲ではないし、リハーサルするきっかけがなかった。でも、ここ数年でジェフ・ウォーターズと2回ぐらい出くわしたんだ。それで「アリソン・ヘル」をカヴァーしたいと言ったら「それは良いアイディアだ。ぜひやるべきだ!」と背中を押してくれたんだよ。なかなか良いカヴァーになったと思う。オリジナルへの敬意も込めているしね。

●他にカヴァー曲の候補はありましたか?

過去にいろんなバンドの曲をカヴァーしてきたし、今回は他には考えていなかった。俺の脳内にはやりたいカヴァー曲のリストがあるけど、秘密にしておくよ。今後やるかも知れないし、サプライズにしたいからね。

●アルトゥルス・ベルジンシュによるジャケット・アートはボッティチェリの絵画『ヴィーナスの誕生』をモチーフにしていますが、彼にはどんなアートワークを求めましたか?

アルトゥルスとは前作『ハンマー・オブ・ザ・ウィッチズ』でも一緒にやったし、最高のアートワークを提供してくれることを確信していた。でもベストをさらにベターにするために、ラトヴィアまで彼に会いにいったんだ。単にメールのやりとりではなく、直接話し合うことで、俺の求めているものを明らかにしたかった。彼とは「ハートブレイク・アンド・セアンス」のミュージック・ビデオも作って、そうすることで更にアートワークのヴィジョンが拡がっていった。彼のルネサンス的なアプローチが素晴らしかったよ。『ヴィーナスの誕生』を元ネタにするのはアルトゥルスのアイディアだったんだ。それと同時にヴィクトリア時代の死生観をアートワーク化したものだった。当時の人々は“死”に対してほろんどロマンチックといっていい意識を持っていた。降霊術やウィジャ・ボード(西洋のコックリさん)は彼らにとって死者とコミュニケーションを取る感傷的な行為であるのと同時に、“科学”でもあったんだ。

●CDブックレットのアートもアルトゥルスの才能が溢れる素晴らしいものですね。

うん、CDブックレットもアルバムのコンセプトに沿ったものだ。ヴィクトリア時代のさまざまな幻想と怪奇を描いた連作のような作品だよ。そのうち1曲だけコンセプトから外れるけど、すごく気に入っているのは「デス・アンド・ザ・メイデン」なんだ。セックス魔獣が裸女にのしかかり、それをヴィクトリア時代風の人々が見ているという、グランギニョール的な作品だよ。この魔獣はH.P.ラヴクラフトのクトゥルー風でもあるし、日本の触手セックスっぽくもある。

photo by Arturs Berzins
photo by Arturs Berzins

H.P.ラヴクラフトの奇怪な世界観から多大なインスピレーションを得た

●『クリプトリアナ~腐蝕への誘惑』のコンセプトにはアレイスター・クロウリーやジーグムント・フロイトは当てはまらないでしょうか?

彼らはどちらかといえばエドワード七世(在位1901〜1910年)の時代だよね?まあ、これはロックのアルバムだし、厳密なルールを設けるつもりはなかった。たまたま彼らについて歌詞を書かなかっただけなんだ。クロウリーの場合はオジー・オズボーンの「ミスター・クロウリー」とか、既に有名な曲があるしね。それを言ったらラヴクラフトもヴィクトリア時代ではないしアメリカ人だ。「デス・アンド・ザ・メイデン」を書いたときにイメージしていたのはラヴクラフトよりも、彼が影響を受けたアルジャーノン・ブラックウッドやアーサー・マッケンなど、ヴィクトリア時代のイギリスおよびアイルランドの作家だった。彼らはH.G.ウェルズが作ったジャンルをより奇怪でエクストリームな方向に持っていったんだ。それがさらにラヴクラフトやオーガスト・ダーレスみたいなアメリカの幻想怪奇小説へと受け継がれていった。『タイムマシン』に出てくるモーロック族は、クトゥルーの先祖なんだ。実際にはずっと未来の種族なんだけどね(笑)。いつか俺がやりたいのは、自分で幻想怪奇小説を書いて、それを原作にしたアルバムを作ることなんだ。これまでもエリーザベト・バートリを題材にした『鬼女と野獣』(1998)やジル・ド・レについての『ゴッドスピード・オン・デヴィルズ・サンダー』(2008)など、トータル・アルバムを作ってきたけど、オリジナルの物語を描いてみたい。

●クレイドル・オブ・フィルスの作品を通じて、幻想怪奇文学などについて若いリスナーを啓蒙することを考えていますか?

そんな大それたことは考えていないよ。基本的に、俺が好きだから題材にしているんだ。もちろん若いファンが俺たちのアルバムを聴いて、それを掘り下げてくれたら嬉しいけどね。ネット書店などのサイトを見るだけで、毎日すごい数の本が刊行されていることが判る。だから100年以上前の本が時代の狭間に埋もれつつあるのは仕方ない気もする。実際、当時の小説は表現が大時代的でまだるっこいと感じるかも知れない。でもブラム・ストーカーの『ドラキュラ』やジョン・ポリドリの『吸血鬼』、メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』、オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』などは優れた文学作品だし、きっと大きな感動を与えてくれるだろう。

●ラヴクラフトの小説は文体が独特で、慣れないとなかなか読みこなせないとよくいわれますね。

確かにクセがあって回りくどいね。でも、それがラヴクラフトの魅力でもあるんだ。彼の詩を集めた『古えの道』を読み通すのは楽ではないけど、謎の古文書を読むようで、それがまた良いんだよ(笑)。俺のソングライティングはラヴクラフトの文体から直接の影響は受けていないかも知れないけど、彼のダークで奇怪な世界観からは多大なインスピレーションを得た。「ダニッチの怪」や「魔犬」のような短編小説は、きわめて短いページ数でストーリーに起承転結を付けているし、歌詞のドラマを組み立てるのに参考になるよ。

●2017年10月の『ラウド・パーク17』ではアリス・クーパーやジーン・シモンズのような、ロックにホラー・テイストのヴィジュアル要素を取り入れたアーティストが出演しましたが、彼らはクレイドル・オブ・フィルスのルーツだといえるでしょうか?

彼らがクレイドルの先祖であることは間違いないだろうね。でも直接的な影響は受けていないと思う。それよりもケルティック・フロスト、そしてマーシフル・フェイトのキング・ダイアモンドがルーツだよ。『ニンフェタミン』(2004)デラックス・エディションでキング・ダイアモンドとクリフ・リチャードの「デヴィル・ウーマン」をデュエットしたんだ。残念ながら彼のショーを見に行く機会がなくてね。俺のプロジェクト、デヴィルメントとしてのアルバムをミックスしているときに、友人に「キング・ダイアモンドのショーのVIPパスがあるよ。行かない?」と誘われた。当日に言われてもスケジュールが埋まっていたし、行けなくて残念だった!いつか彼とステージで共演するのが夢だよ。それが実現する日が来るのを祈って欲しいね。

【CRYPTORIANA WORLD TOUR 2018 IN JAPAN】

-- 東京 2018/5/1(火) LIQUIDROOM

OPEN 18:00 / START 19:00

-- 大阪 2018/5/2(水) 梅田 CLUB QUATTRO

OPEN 18:00 / START 19:00

-- 愛知 2018/5/3(木・祝) 名古屋 CLUB QUATTRO

OPEN 18:00 / START 19:00

公演公式サイト https://www.creativeman.co.jp/event/cof2018/

クレイドル・オブ・フィルス『クリプトリアナ~腐蝕への誘惑』【CD】

ワードレコーズ GQCS-90427

現在発売中

日本レーベル公式サイト  https://wardrecords.com/products/list.php?name=CRADLE+OF+FILTH

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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