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【インタビュー前編】ミューテイション日本初見参。ジンジャー・ワイルドハートが語るノイズ・ロック

山崎智之音楽ライター
Mutation

ジンジャー・ワイルドハート率いるエクストリーム・ノイズ・ロック・バンド、ミューテイションが2017年、3作目のアルバム『ダーク・ブラック』で日本デビュー。さらに11月にはミューテイションとして初となるジャパン・ツアーを行うことになった。

2017年1月のワイルドハーツの来日公演、そして2月に行われたアコースティック・ソロ・ライヴでは精神的に疲れているところを見せて、日本のファンを心配させたジンジャーだが、インタビューで電話口に出た声は元気そのもの。ミューテイションの本格攻撃開始について、熱い口調で話してくれた。

完全復活を宣言するように、さまざまな話題のトークが飛び出したインタビュー。全2回でお届けしよう。

まずは前編、ジンジャーが『ダーク・ブラック』を語った。

<ノイズには“自由”がある>

●前回の来日公演では精神的に疲れていたようでしたが、もう元気になりましたか?

有り難う、すっかりGENKIになったよ。俺にとって2016年は辛い1年だった。良くない時期だったんだ。2017年に入ってもそれを引き摺っていた。でも日本のファンは暖かく、時に熱いエネルギーで俺を迎えてくれた。それで元気を取り戻すことが出来たんだ。もうひとつ、こないだイギリスで総選挙があって、保守党がこの国を地べたに引き摺り下ろそうとしていることに対する怒りがあった。俺には倒さなければならない敵がいる。戦わなければならないし、落ち込んでいる場合ではない。そして俺が持っている最大の武器は、ミューテイションだと確信したんだ。

●東京でのアコースティック・ギグでは「もう音楽なんて止めたい」とボヤキながらも、「もし今日の公演を中止にしたら、今後2年ぐらい日本に呼んでもらえなくなるから、何が何でもやることにした」と、音楽活動を続ける意欲まんまんだったのが嬉しかったです。

たまに音楽を止めたくなるときがあるけど、日本に戻りたくないときは一度もないからね。今はイギリスより日本の方が好きだよ。あまり褒め言葉にならないけどな。現状だと、どこだってイギリスよりマシだ。イギリスには無知で馬鹿で貪欲な人間が多すぎて、ドナルド・トランプ政権下のアメリカと五十歩百歩だ。自分の国が金持ちによってトイレに流されようというのは、憂鬱な気分にさせられる。それに対してどうするか?選択肢は2つある。ひとつは、ウォッカのボトルを持って寝床に入ることだ。そしてもうひとつは、ジムに行って全身をシャキッとさせて戦うことだ。俺は戦うことを選んだ。ミューテイションは音楽の気付け薬なんだ。

●もちろん日本の政治もたくさんの問題を抱えているし、イギリスと同じように嫌いになるかも知れませんよ。

うん、その国に住むと問題が見えてくるんだろうけど、今のイギリスは正視できない悲惨な状況だよ。貪欲な連中が政権を握って、富裕層だけに富が回るようにしている。それを馬鹿な人間たちが支持しているんだ。ただ、イギリスの若年層がそんな状況に気付いて、より政治的にアクティヴになっているのは良いことだ。自分の子供たちの未来に希望が少しだけ見えてきたよ。少しだけね。

●ミューテイションとしての第3作『ダーク・ブラック』が2017年6月、前2作(『ザ・フランケンシュタイン・エフェクト』『エラー500』)リマスター盤と日本で同時発売されることになりました。

『Dark Black』(VJR3213 現在発売中)
『Dark Black』(VJR3213 現在発売中)

ミューテイションの作品が日本で発売になることは大きな意味があるし、すごく嬉しいんだ。日本にはディープなノイズ文化があるし、きっとこの音楽を受け入れてくれると信じているからね。メルツバウやTHE MAD CAPSULE MARKETSは、ノイズを使った素晴らしい音楽を生み出している。ミューテイションは非コマーシャルなプロジェクトで、ネガティヴなエネルギーを純粋な形で噴出させるポジティヴなプロジェクトだ。1枚目の『ザ・フランケンシュタイン・エフェクト』の頃からジャパノイズからの影響があったし、『エラー500』ではメルツバウとコラボレートすることが出来た。秋田昌美と会うことが出来て、光栄だったよ。彼の音楽は、“メルツバウ”というひとつのジャンルだ。誰とも似ていないし、模倣することも不可能だ。

●ノイズの魅力とは何でしょうか?

ノイズには“自由”がある。約束事に囚われず、何をやってもいいんだ。ミューテイションでプレイするときに感じる開放感は、日本に滞在しているときと同じものなんだ。俺が音楽をシリアスに聴くようになった頃、スロッビング・グリッスルやサイキックTVを聴いている友達が何人もいた。俺はノイズのレコードよりも、ジェネシス・P・オリッジがモチーフにしていたアントン・ラヴェイやメカニカルなスタイル、それにライフスタイルに魅了されていた。ただ俺は、もう少し楽曲の体裁を成している音楽が好きだったかも知れない。ビッグ・ブラックとかミニストリーとかね。それからディスチャージのようなハードコア・パンク、初期メタリカやヴェノム、モーターヘッドみたいなメタル...すべてをひとつの塊として聴いていたんだ。ジャンルと関係ない、“エクストリーム・ギター・ミュージック”としてね。すべてエレクトロニックなノイズは好きではなくて、ギター・ノイズが好きだったんだ。

●ミューテイションの音楽性とエクストリーム・メタルには、どれぐらい距離があるでしょうか?

元々、ヘヴィなリフは好きなんだ。そういう意味で、初期のメタリカやアンスラックス、スイサイダル・テンデンシーズ、ニュークリア・アソルトなどからは影響を受けてきた。パンテラやセパルトゥラも大好きだよ。ただ実は、ジューダス・プリーストやアイアン・メイデンはあまり好きではないんだ。ファンタジー色が強すぎて、 好みのタイプではない。社会に対する不満や怒りの方が、自分にはリアルに感じるんだ。周りの友人がアイアン・メイデンを聴いているとき、俺はジェイソン&ザ・スコーチャーズのようなカントリー・パンク、バッド・ブレインズのようなUSハードコアを聴いていた。もちろんアイアン・メイデンは伝説的バンドだし、悪く言うつもりはない。単に俺の趣味じゃないというだけだ。

<やりたかったのは“記憶に残るノイズ”>

●『ダーク・ブラック』は最初の2枚よりもエレクトロニックな要素が強いといえるでしょうか?

いや、そうでもないよ?俺とスコットが共作して目指したのは、あらゆる意味で不適切なアルバムを作ることだった。ギターはブルドーザーみたいで、ドラムスは地震のようで...非人間的なまでにアグレッシヴでファックド・アップにしようと試みた。人間の領域を超えているから、それでマシン的に聞こえるのかもね。“ロック・バンド”らしくしたくなかったんだ。

●「オーセンティシティ」のヴォーカル・エフェクトが際だっていることも、エレクトロニックな印象を与えているかも知れませんね。

うん、それはあるだろうね。曲を書いて、レコーディングして、編集過程でブチ壊して、ヴォーカルを入れて、エフェクトをかけてブチ壊して...そういうスタジオ作業を繰り返したんだ。ある意味、EDMとも共通するアプローチだと思う。ミューテイションはあくまで人間が演奏する音楽で、ダンスではなく暴れるための音楽だという大きな違いがあるけどね。ブラック・サバスの墓を掘り起こすよりも、未来に向けたヘヴィ・ミュージックをやりたいんだ。

●最近のEDMはチェックしていますか?

自分が望むほど掘り下げていないけど、耳に入ってくるものの中には魅力的なものもあるよ。エレクトロニック・ミュージックは編集やエフェクト、サンプリングによって、最高に醜いサウンドを出すことが出来る。最新のバンドではないけど、ミニストリーは30年ぐらい前から好きだったんだ。アル・ジュールゲンセンはドラッグをやりまくったことで、さらに頭がおかしい音楽をやるようになった。『ザ・マインド・イズ・ア・テリブル・シング・トゥ・テイスト』(1989)は今聴いても革命的なアルバムだよ。当時「こんな凄い作品が出てしまったら、もうヘヴィ・メタルのレコードには居場所がないだろう」と思った。アル・ジュールゲンセンの別プロジェクト、1000ホモDJsも最高だったよ。ブラック・サバスの「スーパーノウト」のカヴァーは本当に凄かった!彼のもうひとつのバンド、レヴォルティング・コックスの『ビアーズ、スティアーズ&クイアーズ』(1990)も素晴らしかった。1980年代前半のハードコア・パンクを電子的に再現したようでもあったよ。GBHやジ・エクスプロイテッド、ディスチャージの精神を受け継いでいたんだ。

●アル・ジュールゲンセンがハワード・ジョーンズみたいな髪型をして、カルチャー・クラブの前座をやっていた頃の初期ミニストリーは聴いたことがありますか?

ああ、聴いたことがあるよ。初期ミニストリーは好きではなかったけど、いちおう耳にはしていたんだ。ヴィジュアルは酷かったけど、当時から興味深い音楽をやっていたと思う。

●ミューテイションの曲はいずれもピュア・ノイズではなく、ロックの楽曲としての構成が成り立っていますが、それは意識したことでしょうか?

ノイズのためのノイズにはカタルシスを感じるし、それはそれで好きなんだ。ただ、ミューテイションで俺がやりたかったのは“記憶に残るノイズ”だった。その瞬間は轟音が襲撃するようであっても、思い出に残るような音楽をやりたかったんだ。コクトー・ツインズやビッグ・ブラックの曲はノイジーであっても、常にフックがあっただろ?

●「イリタント」のような、楽曲をノイズで覆ったようなスタイルは、ワイルドハーツの『エンドレス・ネームレス』を思い出す人もいるでしょうね。

確かに『エンドレス・ネームレス』とミューテイションに対するリスナーの反応には共通するものがあった。みんな最初は「何これ?プレイヤーが壊れてるのかな?ただの雑音にしか聞こえない」と言うけど、徐々に「ノイズの中に埋もれている曲もなかなか良いじゃないか」と気付くんだ。実際のところ、ミューテイションの曲を書くときにあのアルバムを思い出すことはないけどね。

●ミューテイションの『フランケンシュタイン・エフェクト』『エラー500』は2013年、よりポップなヘイ!ヘローのアルバム『ヘイ!ヘロー』と同時発売されましたが、そんな対照的な音楽性は意図したものでしたか?

いや、実は『フランケンシュタイン・エフェクト』はPledgemusicのクラウドファンディングを始める2年ぐらい前にレコーディングしていたんだ。ただ、ミックスをやる金がなかったんだよ。ケヴィン・ヴァンバーゲンを起用したかったんだ。ケヴィンはチキンホーク(後にホーク・アイズに改名)のアルバムをミックスしていて、最高のサウンドだった。彼を起用するために、Pledgemusicで費用を募ることにしたんだ。それでキャンペーンを行うにあたって、シングル用に数曲ポップ・ソングをレコーディングすることにした。2曲が4曲、さらに10曲に増えていって、ヘイ!ヘローのアルバムが出来上がってしまったんだ。だからミューテイションのファーストはヘイ!ヘローが生まれる前から存在したんだよ。元々俺はチープ・トリックのファンだし、ポップ志向は常にあったんだ。だから最初から「両極端の2つのプロジェクトをやろう」と考えたわけではないよ。

●『ダーク・ブラック』もまた、“カントリー・アルバム”『ゴースト・イン・ザ・タングルウッド』とコントラストを成しているのでは?

うん、その2作はだいたい同じタイミングで出来たんだ。『ゴースト・イン・ザ・タングルウッド』はカントリーというか何というか...とても正直なアルバムだよ。俺の感情を素直に描いた作品だ。今の俺は、フィクションやファンタジーに割く時間も、精神的な余裕もないんだ。俺の怒りを象徴するのがミューテイション、悲しみを象徴するのが『ゴースト・イン・ザ・タングルウッド』という感じかな。ヘイ!ヘローやワイルドハーツをもうやらないとは言わないけど、この世界に住む52歳の俺という人間の感情を表現しているのはミューテイションと『ゴースト・イン・ザ・タングルウッド』なんだ。

インタビュー後編ではジンジャーがミューテイション『ダーク・ブラック』をさらに掘り下げ、2017年11月のジャパン・ツアーの展望も語ってくれている。その博識な音楽トークも炸裂、乞うご期待!

【ミューテイション アルバム3作一挙日本発売】

- 『DARK BLACK』 (VINYL JUNKIE/2017:VJR-3213)

- 『ERROR 500-REMASTERED-』 (VINYL JUNKIE/2017:VJR-3212)

- 『THE FRANKENSTEIN EFFECT-REMASTERED-』 (VINYL JUNKIE/2017:VJR-3211)

レーベル公式サイト:Vinyl Junkie Recordings

【MUTATION JAPAN TOUR 2017】

- 11/13(月) 大阪・心斎橋 FANJ Twice OPEN 19:00 / START 20:00

- 11/14(火) 名古屋・栄TIGHT ROPE OPEN 19:00 / START 20:00

- 11/15(水) 東京・渋谷 TSUTAYA O-NEST OPEN 19:00 / START 20:00

- 11/16(木) 東京・渋谷 TSUTAYA O-NEST OPEN 19:00 / START 20:00

ツアー公式サイト:クリエイティブマン

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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