東日本大震災を超えて、メルヴィンズが全米50州+ワシントンDCを回るツアーDVDを発表

The Melvins(2012年全米ツアーは3人編成で行われた)

メルヴィンズが2012年秋、アメリカの50州それぞれの都市+ワシントンD.C.=合計51都市でライヴを行ったツアーのドキュメントDVD『Across The USA In 51 Days: The Movie!』がアメリカで発売された(日本盤の予定はなし)。

2011年3月の来日公演では大阪と名古屋で凄まじいライヴ・パフォーマンスを見せたメルヴィンズだが最終日、東京公演を前にしたサウンドチェック時に東日本大震災に見舞われて、ライヴは中止に。彼らはそのまま帰国している。

だが彼らは2015年11月には『Hostess Club Weekender』のヘッドライナーとして日本に帰ってきて、最高のステージで魅せてくれた。名盤『フーディニ』(1993年)からの「ハグ・ミー」、続いて幻と化した2011年の東京公演でオープニング・ナンバーになる筈だった「ザ・ウォーター・グラス」と畳みかける演奏は、2015年のベスト・ライヴのひとつだった。

そんな日本公演から間を置かずメルヴィンズの映像作品が出る!…ということで、DVD『Across The USA In 51 Days: The Movie!』は大きな注目を集めている。

本作は2012年アメリカ・ツアーのドキュメントであり、ライヴ演奏は1曲もフル収録されていない。それにも関わらず、本作はどこを切ってもメルヴィンズらしさが漂ってくる、ファンにとってはたまらない作品だ。

●バンドとクルーがスマホで撮影した、手作り感あふれるDVD

Ipecac Recordings IPC175 (アメリカ盤DVD)
Ipecac Recordings IPC175 (アメリカ盤DVD)

2012年9月5日、アラスカ州アンカレッジから10月25日、ハワイ州ホノルルまで、全51日・51公演からなるこのツアーの模様は、バンドのギタリスト兼ヴォーカリスト、バズ・オズボーンが米『SPIN』誌ウェブサイトに連載したツアー・ダイアリーで読むことが可能だ。

ちなみに“アメリカ全50州+ワシントンD.C.を51日間でツアー”というコンセプトは1981年にジョージ・サラグッド&ザ・デストロイヤーズが達成済だそうだが(しかも1日2公演の日もあり、50日で達成したとのこと)、その記録には疑問もあるらしく、バズはダイアリーでサラグッドの元ブッキング・エージェントを「ウソつきビッチ」と罵っている。

『Across The USA In 51 Days: The Movie!』はメルヴィンズのメンバー達とクルーがスマホやビデオカメラで撮影した映像を編集、各都市ごとにまとめたものだ。

このツアーでのバンド編成はバズとデイル・クローヴァー(ドラムス)、そしてトレヴァー・ダン(ベース)というトリオ。いわゆる“メルヴィンズ・ライト”によるものだ。DVDのインデックス画面ではトレヴァーのアップライト・ベース音源がリピートで流されている。

ツアー初日のアラスカ州アンカレッジといえば、冷戦中でソ連上空を飛べなかった時代には日本からヨーロッパに行くときの中継地だったが、本作にもアンカレッジ空港が出てくる。1960年代から名物だったシロクマの剥製が映されているのは、かつての北回りヨーロッパ線を知る人には懐かしいだろう。

いきなり度肝を抜かれるのは、アンカレッジ空港に向かう飛行機のエンジンが火を噴いていることだ。えええっ!?とショックを受けるが、実はこれは視覚効果を使ったネタである。ユタ州ソルトレイクシティではツアーバスの窓の外を隕石が落ちてきたり、ワイオミング州シャイアンではインベーダーゲームのインベーダーが空から下りてくるのを始め、ミサイルが飛んできたり原爆のキノコ雲が上がったり、ホテルの廊下では映画『シャイニング』の双子姉妹が「一緒に遊ぼうよ…」と招いてくる。

メルヴィンズが音楽作品で垣間見させる悪質なユーモアが本作でも表れているこの視覚効果は、バンドの友人のデイヴ・カランが手がけている。

コミック・アーティストのブライアン・ウォルズビーが描く各公演州のテロップもツボを突いたものだ。ウォルズビーのコミック『Manchild』シリーズにはしばしばメルヴィンズが登場、単行本の特典にメルヴィンズのデモCDが付けられるなど交友関係があるが、メリーランド州は映画『ピンクフラミンゴ』の舞台ということで主演女優(?)のディヴァインが描かれていたり、ノースカロライナ州は同州出身のバンド、コロージョン・オブ・コンフォーミティのイメージ・キャラだったりして、テロップだけでもウケを取れる作品となっている。

●感慨深く、学ばされる映像作品

まったくオフ日がないツアーゆえ、オフショットは長々と収録されてはいないが、メンバー達が変顔をしてみたり、ちょっとした雑談をするシーンはふんだんに収録されている。彼らがリスペクトするスワンズのMichael Giraは本人によってマイケル・“ジラ”と発音されることが明言されているが、バズがマイケル・“ギラ”と発音しているのも面白い。

ルイジアナ州バトンルージュでは食堂に“シャツなし靴なしお断り”という貼り紙がされている。映画『初体験リッジモント・ハイ』でショーン・ペンが上半身裸で食堂に入ろうとして追い出されるシーンでは同様のポスターが貼られていて、ギャグなのかと思ったら、実際に貼られている店もあるのだと感慨深い。

ニューメキシコ州アルバカーキでは『ニューメキシコ州ホロコースト博物館』が映し出される。ホロコーストというと第2次世界大戦中のドイツによるユダヤ人虐殺が頭に浮かびがちだが、アメリカ先住民やアルメニア人の虐殺もここではホロコーストのひとつとして扱われている。バンドのツアーの日常から、学ばされることもあるのが本作だ。

ラスト2回のショーが行われたのはカリフォルニア州ロサンゼルスの『ハリウッド・フォーエヴァー』墓地のホールでプレイしている。ラモーンズのジョニーとディー・ディー、ジャズ音楽家のアート・ペッパー、『キング・コング』(1933年)の主演女優フェイ・レイ、そして2015年12月3日に亡くなったスコット・ウェイランドも埋葬されたこの墓地でライヴを行うというのが、いかにもメルヴィンズらしくもある。

現在、バンドの30年におよぶ軌跡を描いたドキュメンタリー映画『The Colossus Of Destiny』が制作中。さまざまなバンド編成でのアルバムやシングルなど、変則的な活動で知られるメルヴィンズだが、『Across The USA In 51 Days: The Movie!』はそんな彼らの魂とヒネりを入れたユーモアが込められた作品だ。本作に耽りながら、彼らの再来日を待ちたい。