Go Toトラベル停止で逆境の宿泊業 「旅館甲子園」で決まった15000軒の頂点はどこ?
2月17日に東京ビックサイトで「第五回 旅館甲子園」が開催された。
「旅館甲子園」とは、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(以下、全旅連)に加盟する15000もの宿泊施設の頂点を決める祭典だ。
東日本大震災後、「旅館か日本の復興を目指す」をテーマに、2012年からスタートし、2年に一度催されてきた。
今回は117施設がエントリーし、一次書類審査で15施設まで絞られ、二次審査で歴代大会会長や業界の代表者による厳密な書類審査により3施設が選出。ファイナリストに残った3施設がビックサイトの大舞台で、独自のもてなしや企業理念を伝えるパフォーマンスで競い、会場の審査員と参加者の投票でグランプリを決める。審査基準は「宿泊業で働く魅力」「経営理念」「おもてなしへの想い」「業界の地位向上」「お客、地域、日本を元気に」の5点。
「旅館甲子園」の運営は、若手旅館オーナーである“若旦那”たちが事務局を担当し、次世代の宿泊業のために汗を流している。
「第五回 旅館甲子園」開催責任者である、全旅連青年部長・鈴木治彦さん(岡山県奥津温泉奥津荘社長)は、「コロナ禍での開催は賛否両論あると思いますが、あえて開催することを選んだのは勇気を届けたかったからです。そして、次世代の仲間達に挑戦する姿を示す使命を感じています」
そのような旅館甲子園の理念からすれば、今回の開催はむしろ必然だったのかもしれない。
地域に根付く宿泊業界が元気になれば、地域は活性化する。なぜならGOTOトラベルに付随する地域クーポンを使ってくれるから。まさに地方創生そのものだ。
1000人以上収容可能な会場だが、距離をあけて椅子を用意し、厳しい人数制限を設けた。例年なら密になる会場も、今年は人もまばらで、発表する人数もごくごく少数だったが、オンラインで地元と直結し、会場は熱気を帯びた。
最初のプレゼンテーションは滋賀県「グランエレメント」。滋賀県米原市の指定管理施設だったゴルフ場を草野丈太社長がグランピング施設への改修を提案し、実現した。豊富な動画や写真をスクリーンに投影し、「現在、全国で100程のグランピング施設があるが、宿泊業の人はまだ参入していない。皆さんにグランピングを誘いに来た」という草野社長の訴えかけは、宿泊業の可能性を見せてくれた。
次にプレゼンした山口県油谷湾(ゆやわん)温泉「ホテル楊貴館」は、「昨年の緊急事態宣言中に休業した時、地元の人から『楊貴館さんの灯りが消えると、真っ暗になる』と言われ、経費節減も大切だが、宿の外側の電気をつけた。私たちは地域の灯りであることを再認識した」という女将のコメントが映像で流れた。岡藤明史社長が社員や取引先、地域の人達へのお礼の手紙を読み上げる姿は胸に迫ってきたし、旅館はその地域のシンボルであることが鮮烈に伝わってくる発表だった。
最後の大分県別府温泉「テラス御堂原(みどうばる)」は、社員教育の「関屋アカデミー」に力を入れる。「コストより、人材育成を大事にした」と、昨年4月5月は前年度比95%減だったが、休業はせず、社員の士気を維持した。今も社員ひとりひとりの夢を実現する宿づくりを実践している。プレゼンターには2020年の新入社員が登場し、「テラス御堂原」で働くことの楽しさを元気いっぱいに語る。人材不足に悩む宿泊業において、大いに参考になる事例だった。
投票後、鈴木部長が栄えある頂点の施設を発表する。
「グランエレメント、山口県油谷湾温泉ホテル楊貴館、大分県別府温泉テラス御堂原の3施設全てをグランプリとします」
これまでは頂点に立つのは1施設だったから、3施設とは、異例中の異例。
「コロナ禍でも、よくぞ業界のために発表をして頂き、その勇姿に最大限の敬意を表しました。また、三者三様に個性が光る取組みでしたので、これからの旅館やホテルの持つ多様性と可能性を評価しました」(鈴木部長)
エンディングには、若女将6人で構成される「虹会」が宿泊業を盛り上げようと、着物姿で歌って踊るパフォーマンスの映像と、全国の旅館の女将が笑顔で手を振る映像が流れた。
旅館と言えばオーナーや女将といった経営者が表に立つことが多いが、「旅館甲子園」は、働くスタッフや関わる地域の人たちに光を当てることも大きな目的だ。オンライン上でも、現地から顔を見せたスタッフたちの瞳の輝きが見て取れた。
そして「グランエレメント」草野社長の「コロナ禍においても、座して待つのではなく、次への挑戦を」という言葉が心に残った。
もう1年以上、宿泊業は苦境が続き、私の知り合いの宿も閉じたところがある。しかし前を向いて未来を見据える旅館経営者はたくさんいる。
私は温泉旅館や宿泊業の取材をして20年以上が経つが、コロナ禍のこの1年程、旅館の底力を感じたことはない。