子どもが親などから虐待をうけたとして、児童相談所が対応した件数はことし1月からの半年間で9万9000件を超え、過去最多のペースとなっていることが厚生労働省のまとめでわかりました。

 緊急事態宣言が出されていた5月は1万3,551件と2パーセント減少しましたが、これは休校措置が取られたことで、学校などからの情報提供が減り、児童虐待が潜在化したことによるものとみられます。また、新型コロナ感染対策のための外出自粛により、子どもが外に出る機会がほとんどなくなったことも関係があると考えられます。育児や家庭に関することを相談したい、という意思がある親も、密を避けるため、相談に行きづらくなっていたのではないでしょうか。

休校やテレワークで家族が1日中家に 子どもに向いたストレスの矛先

 実際、私のオフィスに相談に来る親が増えたのも、6月からでした。多くはお母さんからの「子どもを虐待してしまいそう」「以前は絶対に手をあげなかったのに、手をあげてしまう」といった相談でした。

 小学校5年生の息子と3歳の娘を持つお母さんからの相談です。

「もともと、反抗することが多い子で、言うことを聞かせるのは大変でしたが、これまではそれほどストレスは感じていませんでした。」

自らも仕事をしながら育児をし、日々を過ごすのに精いっぱいで、子どもの反抗も、年齢的にも仕方ないのだろうと思っていた、と言います。

「イライラしたらママ友とLINEしたりもできましたし。みんな苦労しているのは同じなんだろうと思っていました。」

ところが、学校が休校となり、保育園も休園。お母さんとお父さんもテレワークとなりました。

「仕事をしなくてはならないのに、同時に子どもの面倒をみなければいけなくなって。3歳の娘は放っておけませんし、仕事をしながら、勉強をさせ、娘を遊ばせて。主人も1日中家にいますから、食事も3食、作らなくちゃいけないし、洗濯も掃除も・・・。目が回りそうでした。」

そんな中、息子にいら立つことが増えたというのです。

「言うことを聞かないんです。勉強を促してもしない。朝も起きないし、食事も『あとでいい』と食べようとしなかったり。息子に構っていると娘が『ママ、ママ』と寄ってきて、すぐに構ってあげないと泣き出すし。」

パニック状態だった、といいます。

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「主人はテレワークでも忙しくて、何も手伝ってくれませんでした。むしろ子どもが泣いていると『静かにさせろ』と言われてしまって。」

ママ友とLINEといっても、忙しいのは皆同じ。家族と以外会えない、話が出来ない、というストレスも加わりました。

イライラは募ってゆく一方。そして学校も保育園も再開しない為、子ども達もイライラし始めました。

「息子の方はとにかく『外に出たい』、土日になると『退屈だからどっか連れてってよ!』と騒ぎます。叱ると怒って妹のおもちゃを投げたり、妹に意地悪し始めたり、手がつけられませんでした。」

息子も友だちにも会えないし、退屈なのもわかるけれど、イライラが抑えられなくなって、手をあげるようになってしまった、というのです。

「息子が騒ぐと、『静かにしなさい!』と、叩いてしまうようになりました。最初はお尻を軽くだったのが、頬を平手で叩いてしまったことがあって・・・。自分が怖くなりました。」

ご主人にも相談したそうですが、「我慢するしかないだろう」と言われたそうです。

「我慢するしかないというのは分かっていたのですが、出口の見えないトンネルの中にいるようでした。」

多くのお母さんが言いました。いつまで続くのか。いつ解放されるのか。

1人の時間を確保 父親の協力で解消されたイライラ

 相談にももっと早く来たかったそうなのですが、緊急事態宣言が解除されるまでは、外出自粛だし、自分が感染するのも、させるのも怖かった、と言うのです。

 お母さんには何度かカウンセリングに来てもらいました。ご主人にも来てもらい、お母さんが精神的に追い詰められており、このままだと深刻な虐待にエスカレートしかねないことを理解してもらいました。ご主人には忙しくても息子の面倒を見る時間を作るようお願いしたところ、会社に事情を話してくれ、時間を作ってくれるようになりました。

 お母さんを一人にする時間を作ってあげること、料理の負担を減らすよう、レトルトや冷凍食品を取り入れるようにすること。そしてお母さんの「辛い」などの愚痴を聞いてあげること。公園など、家族で安全な場所を決めて、週1回くらいは出かけること。お母さんは手をあげてしまうくらいなら、息子がゲームするのはOKにすること。勉強していないのは皆同じ、とアドバイスしました。

 この家族はお父さんがとても頑張ってくれたので、お母さんのイライラは解消してゆきました。ですが、お父さんの協力が得られず、追い詰められてゆく一方、というお母さんもたくさんいました。

気づいて、子どもの「SOS」

 新型コロナ「第3波」のいま、各地で飲食店に時短要請が出されるなど警戒感がまた高まってきています。感染予防の観点から友人と外で気軽にあったり、外食したりする機会も減ってくるでしょう。家族だけで家にいる時間が増えると、上記でご紹介した相談者のようにストレスが溜まり、子どもに対するいら立ちから児童虐待につながるケースが懸念されます。

 家庭内にいる時間が増えると外からの目が届きにくく、虐待の発覚の遅れにもつながります。

 では、私たちは早期に子どもの虐待に気づくためには何に気を付ければよいのでしょうか。わたしは、学校の先生たちには以下のような子どもの変化に注意して欲しいと伝えています。

 以前より痩せている。給食を何度もおかわりして大量に食べている。衣服が汚れている。家に帰りたがらない。

画像制作:Yahoo!JAPAN
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 また、このほかにも、お父さん、お母さんのことを話したがらない、家のことを聞かれると返事に困る、お父さん、お母さんに連絡するのを極端に嫌がる、なども虐待の兆候です。こうした兆候は同学年のお母さんやママ友、近所の方でも発見することは出来ます。

虐待は親にも兆候がある 育児に悩んでいる人がいたらまず話を聞いてあげて

 虐待が疑われる子どもをみつけたら、児童相談所や子ども家庭支援センターに通報するのは子どもを助ける手段の一つです。

厚生労働省
厚生労働省

 虐待の兆候は子どもからだけでなく、親から見える場合もあります。子育てに悩み、苦しみ、相談したいと思っているお母さんもたくさんいるのです。また、子どもを叩いてしまう、など誰かに相談すれば、怒られてしまう、虐待だ、と通報されてしまうかも、と思っているお母さんもいます。

 子育てに悩んでいる様子が見えたら、まずは話を聞いてあげて下さい。親本人は追い詰められていることに気づいていない場合もあります。どんな時にイライラしてしまうのか、カッとなると子どもに何をしてしまうのか。まずはゆっくり話を聞いて、何か手伝えることがないかを尋ねてあげて下さい。辛い時に1人で抱え込まない状態を作ってあげることが大切です。本人が良いと言ってくれれば、パートナー(夫あるいは妻)に連絡してあげても良いかもしれません。自分ではパートナーに苦しさを伝えづらいのかもしれません。

 また、子育てに悩んでいるような発言はなくとも、LINEが既読にならない、電話しても出ない、あるいは「忙しいから」とすぐ切ってしまう、などの変化も虐待の兆候と言えます。会った時に、子どもの話をしなくなったり、親子同士で会った時、子どもに話しかけない、子どもを放っておくことなども兆候と言えます。

もしそんな姿を見かけたら、「何か、疲れてる?」「何か力になれることがあったら言ってね」と声をかけて下さい。頼れる人、相談出来る人が身近にいることを伝えることは大事なことです。

頑張ってはNG わたしたちに出来ること

 本人に悩んでいる自覚があったら、児童相談所や子ども家庭支援センターなどの専門機関への相談を勧めましょう。今、コロナ対応で忙しいですが、保健所も子育ての相談に乗ってくれます。また、学校の先生やスクールカウンセラー、保育園や幼稚園の先生も、相談に乗ってくれます。本人が相談しやすい人を探すお手伝いをしてあげるのも救ってあげる方法です。

 また、苦しんでいる本人自身が相談するのが難しい場合には、本人の了承を得て、親族やパートナーなどに連絡を入れ、周りの人が代わりに相談することでも、相談機関は力になってくれます。自分自身の状態を客観的に他人に話すのは難しいもの。見ていて、心配なところをまわりが専門家に話し、どのようなサポートが受けられるかを聞きましょう。

厚生労働省
厚生労働省

                                                   

 子育てに悩んでいる人、苦しんでいる人に、「頑張って」や「我慢するしかないよ」などの声かけはしないようにして下さい。本当に頑張って欲しいだけなのかもしれませんが、本人は責められている、ダメな親と思われている、と受け取ってしまうかもしれません。

 年々増え続ける児童虐待。新型コロナの影響も少なからずあったと考えられます。そしてまだ新型コロナは終わっていません。潜在化している虐待の発見、そして苦しんでいる親を発見し、救ってあげるために、私たちも出来ることを続けてゆきましょう。