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野田市虐待死事件公判 新たに見えてきた勇一郎被告の虐待と母親の心理

山脇由貴子元東京都児童相談所児童心理司 家族問題・心理カウンセラー
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

千葉県野田市で栗原 心愛ちゃんが自宅浴室で死亡した虐待事件で、傷害致死などの容疑で起訴された栗原 勇一郎被告の裁判員裁判の公判が行われている。母親の証言から、父親の栗原 勇一郎被告の新たな虐待内容が明らかとなった。また、自身も暴力被害に遭い、支配されていたことによって、心愛ちゃんを救えなかった母親の心理が見えてくる。

勇一郎被告の主張から見えてくるもの

 勇一郎被告は、21日の初公判で罪について謝罪し、傷害致死については争わない、と述べながらも、「冷水のシャワーを浴びせる」という検察側の述べた暴行の一部を否認した、と報じられている。しかし、勇一郎被告は完全に争っているとしか思えない。虐待を全く認めていないのだ。いまだに、自分は正しいことをしたのだ、と信じている。すべては心愛ちゃんの教育のためであったと信じているのだ。だから勇一郎容疑者は、心愛ちゃんの死を自分の行為の結果とは認めていないのだろう。

 虐待を認めず、自分の行為を正当化する虐待者は必ず虐待を繰り返す。児童相談所への言い訳として「しつけ」というのではなく、心の底から、子どものため、家族のためだと信じているからだ。その考えを覆すのは私の経験上はほぼ無理だと言える。その意味で、勇一郎容疑者の主張は、虐待を繰り返す虐待者の本質をあらわしていると言えるだろう。保護当時の児童相談所に対しては、もっと激しい怒りを込めて虐待を否定したのだろうから、やはり勇一郎容疑者の本質を見抜けなかった柏児童相談所の責任は重い。

母の証言

 心愛ちゃんの母親は、証人として出廷し、ビデオリンク方式で行われた。その中で母は心愛ちゃんが「毎日が地獄だった」と話した、と説明した。母は、その言葉をどんな思いで受け止めたのだろう。心愛ちゃんの母親も勇一郎容疑者から暴力を受け、支配されていたことで、虐待を制止することが出来なかった、と述べており、毎日勇一郎被告から心愛ちゃんへの虐待を見続け、限界だった、ストレスから心愛ちゃんに当たってしまった、とも述べている。勇一郎被告への恐怖心があったのは確かだろう。そして勇一郎容疑者と心愛ちゃんの母親のLINEのやり取りから、母親が正常な判断力を失い、虐待に加担していたことが見えてくる。毎日虐待を見続け、精神的に限界だった、という母親の言葉も本心だろう。しかしそれでも、母親ならば、心愛ちゃんを救うべきだった、と誰もが考えてしまう。私は多くのDV被害に遭った母親達に会って来ているので、彼女達の恐怖心や無力感は分かっている。だから身動き出来なかった心愛ちゃんの母親の心理も理解出来る。けれども母親は、児童相談所の一時保護について「正直ほっとした」と語っている。そう思ったなら、児童相談所に「心愛を家に帰さないでください」とお願い出来なかっただろうか。勇一郎容疑者が心愛ちゃんを虐待するから、どうか家には帰さないで下さい、とお願い出来なかっただろうか。

立たせる、正座、スクワット

 母親は、勇一郎被告が心愛ちゃんを立たせ続けたり、正座をさせ続けたり、スクワットをさせ続けた、という虐待内容も証言した。スクワットには驚かれる方も多いのではないかと思う。しかし私も児童相談所勤務時代にスクワットを強要させる虐待者には出会ったことがある。そして立たせる、正座させる、眠らせない、などの虐待は、少なくない。衝動的暴力と違い、子どもを苦しめたい、という思いがある人間の行う虐待だ。それに加えてスクワットをさせた、という勇一郎被告は、本当に子どもを苦しめたいという気持ちがあり、そして苦しんでいる姿を見たい、という欲求があった、ということだ。勇一郎被告は、自分が虐待に依存し、中毒状態にあることに気づかず、しかしその欲求を満たし続けたのだ。証拠として提出された勇一郎被告が撮影した動画がそれを物語っている。勇一郎被告は、動画を何度も見たのだろう。自分の欲求を満たすために。

裁判の今後

 勇一郎被告が暴行を否認し続けた結果、判決はどうなるのか。誰もが関心を持っている。心愛ちゃんを救えなかった母親だが、勇一郎被告が心愛ちゃんを床に叩きつけたことや、心愛ちゃんが亡くなった当日も勇一郎被告が心愛ちゃんに冷水を浴びせたことも証言している。勇一郎被告への恐怖心はまだ残っているだろう。出所後につきまとわれる不安もあるだろう。それでも勇一郎容疑者の虐待について証言したのは、最後に心愛ちゃんに母として出来ること、と考えたのではないだろうか。今は本当に勇一郎被告を重い罪にして欲しいと望んでいるのだろう。

 今後は、児童相談所職員が証人として出廷する。児童相談所の職員は、心愛ちゃんから保護中に虐待の詳細な聞き取りをしているはずだ。心愛ちゃんの言葉すべてをしっかり証言して欲しい。そして心愛ちゃんの言葉を裁判でも一番重要に扱って欲しい。彼女が残した証言なのだ。そして心愛ちゃんが何を児童相談所職員に語ったが明らかになることで、児童相談所職員の課題もまた見えてくるだろう。

※記事の一部を加筆・修正しました。

元東京都児童相談所児童心理司 家族問題・心理カウンセラー

都内児童相談所に19年間勤務。現在山脇 由貴子心理オフィス代表

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