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鹿児島県出水市 4歳女児死亡事件 児童相談所の対応は?

山脇由貴子元東京都児童相談所児童心理司 家族問題・心理カウンセラー
(写真:アフロ)

璃愛来ちゃんは救えなかったのか

 鹿児島県出水市で4歳の女の子、大塚 璃愛来ちゃんが亡くなってしまうという事件が起こってしまいました。

 死因は水死。ですが、全身に殴られたような痕があったとのことです。加えて、8月上旬には、女の子が救急外来を受診し、全身に傷やあざがある、という情報が市に入っていたそうです。

出水市の前に住んでいた薩摩川内市では、璃愛来ちゃんは1人で徘徊しており、4回警察に通報があり、警察は2回、「一時保護の必要性がある」と児童相談所に通告しています。

 なぜ、児童相談所は、璃愛来ちゃんを保護しなかったのでしょうか。璃愛来ちゃんを救えるタイミングはなかったのでしょうか。

 8月上旬の傷、あざの情報を受け、保健師らが3回ほど家庭訪問をしたが留守で会えず。母子と面談が出来たのは8月26日でした。この時点で、子どもに傷やあざがなく、母子に不自然な様子が見られなければ、児童相談所が一時保護するのは難しいと言えるでしょう。情報が入ってから日にちが経ち過ぎていた、という問題はありますが、家庭訪問以外に子どもの姿を確認する手段がない場合、これも仕方がないと言えます。例えば、子どもが保育園や幼稚園に通っていれば、情報が入った翌日に園を訪問し、子どもの身体に傷やあざがあれば、即一時保護、という対応を取ることが出来ますが、どこにも通っていない場合、家庭訪問を繰り返すしかありません。

 家庭訪問で面談出来た際に、目に見える所に傷、あざがなかったと報道にはあります。全身、服を脱がせて子どもの身体をチェックする権限を児童相談所は持っていますが、そんなことをしたら親と敵対関係になり、今後一切子どもの様子を見ることが出来なくなるリスクがあります。ですので、初回の面談だったという点では、やむを得ないと言えます。

救えたポイントは?

 璃愛来ちゃんを救えたタイミングは、薩摩川内市で、徘徊で警察に通報が入った時、と言えます。幼児さんが1人で徘徊している、ということは異常事態です。それが何度も繰り返されるということは、虐待を疑わなくてはなりません。親がきちんと面倒をみていないネグレクトの可能性や、家にいたくなくて家を出ている可能性を考えなくてはならないのです。

 警察は児童相談所に2回通告しており、一時保護の必要性も伝えています。児童相談所はこの時点で一時保護すべきでした。

 警察からの通告は「書類通告」と言われるもので、児童相談所の指導や一時保護の必要性を書類で児童相談所に送る、というものです。

 ただ、警察が一時保護が必要、と判断し、子どもを児童相談所に連れて行って、即保護を依頼することも出来ます。これは警察からの「身柄通告」というものです。つまり、警察が一時保護することも出来た、ということです。

児童相談所の警察の情報共有と役割分担の課題

 しかしながら、警察は、親とも連絡が取れたので、子どもを親に帰したのだろうと思いますし、児童虐待の疑いで一時保護するのは児童相談所の役割、と考えたのだと思います。確かに、親と連絡が取れたのに、警察が児童相談所に一時保護を依頼するのは難しいと言えます。ですので、児童相談所は警察からの通告を受けた時点で

「では、次にこのお子さんが徘徊していたら、児童相談所が保護するので、連れて来て下さい。」

とお願いしておくべきだったのです。児童相談所からの依頼があれば、警察は必ず保護してくれます。逆に言えば児童虐待の疑いで、警察だけの判断で一時保護は難しいのです。だからこそ、児童相談所が警察に依頼しておくべきだったのです。情報共有だけでなく、役割分担を明確にする。この点が、警察と児童相談所の情報共有、役割分担の今後の課題と言えるでしょう。

 子どもを救うために誰が何をすべきなのか。警察と児童相談所は連携を強化しなくてはなりません。その中で、役割分担の明確化は必須と言えます。

 

元東京都児童相談所児童心理司 家族問題・心理カウンセラー

都内児童相談所に19年間勤務。現在山脇 由貴子心理オフィス代表

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