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新しい製品、新しいサービスと「こどものケガ」について考える〜ニューボーンフォト、肩車キャリアなど〜

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(提供:イメージマート)

 子育ての現場には、次々と新しい製品やサービスが登場する。子育ての負担を軽減する製品や利便性の向上につながるサービス、そしてこどもの成長過程における貴重な瞬間を切り取るサービスなど、実にさまざまだ。

 しかし、新しい製品やサービスが登場すると、それに伴うケガが発生することがある。今回は、NPO法人Safe Kids Japanの「聞かせてください」、およびSafe Kids Japanが運営する「こどものケガを減らすためにみんなをつなぐプラットフォーム Safe Kids」の「みんなの声」に寄せられた事例を紹介し、予防策について考えてみたい。

■ニューボーンフォト

 乳児の姿態を撮影する「ニューボーンフォト」というサービスがある。これは、乳児期早期の赤ちゃんの写真を撮るサービスで、SNSを見ると、乳児が頬杖をついているポーズや、みのむしのようなポーズなど、赤ちゃんの時期に自らとることはない姿態をとらせて撮影した写真もある。大人の目から見た「かわいらしさ」を強調するためと思われるが、このような姿態をとらせることは危険ではないかという指摘がSafe Kids Japanの「聞かせてください」欄に寄せられた。それを受けて、株式会社ベネッセコーポレーションに協力を要請し、2022年12月9日〜13日の5日間、インターネット上でアンケートを行った。調査項目は、現在の子どもの月齢・年齢、ニューボーンフォトの認知度、撮影経験の有無、場所や撮影者、撮影時の様子、乳児への負担、安全性などで、さらに「ニューボーンフォト」について、自由に記載してもらった。

 ニューボーンフォトを知っていた人は、回答者数2,412人のうち1,947人(80.7%)、ニューボーンフォト撮影の経験がある人は、回答者数2,183人のうち581人(26.6%)であった。ニューボーンフォトの安全性について尋ねたところ、撮影を経験した人は「特に危険なことはなかったので安全性について気になることはない」という回答が約67%であった。一方、撮影を経験していない人は「安全性を疑問視する声があるのなら撮影はしない」と回答した人が727人、「安全性に問題があれば国や学会などがその旨を発表するはずだが、今のところそのような発表はないので問題ないのだと思う」「多くの人が撮影をしていて問題がないのだから、大丈夫だと思う」と回答した人が合わせて868人と、二分される結果となった。

 現時点では、重大なケガをした事例の報告はないが、乳児に不自然な姿勢をとらせる、普段の生活リズムを無視して無理に寝かせる、といったことは望ましくない。プロのフォトグラファーは撮影時に乳児に不自然な姿勢をとらせることはなく、写真を加工していると聞くが、一般の人にはその違いがわからないので、真似をする人もいるだろう。その結果、乳児がケガをする可能性がないとは言い切れない。

■肩車キャリアを見たが・・・

 こちらも「聞かせてください」に寄せられた情報である。あるテーマパークで父親が肩車用と思われるキャリアの中にこどもを乗せて歩いているところを見た、北欧のデザインでカッコいいが、こどもの頭の位置が高すぎて危険ではないだろうか、という内容であった。

 この肩車キャリアについても、今のところ重大なケガをしたという報告はない。製品の紹介ページには、長身の父親が背負ったキャリアの中にこどもを乗せている写真が掲載されている。この写真を見る限り、こどもの頭部の位置は地面から180〜190cmのあたりにあると思われる。

 一般に、HIC値(頭部傷害基準値)が1000を超えると中程度の頭部損傷(頭蓋骨の骨折、意識喪失を伴う顔の骨折、深い切り傷など)が発生する確率が約90%となり、まれに死亡することもある。以前、いわゆるハイチェアから乳幼児が転落した場合、乳幼児の頭部が床面に接触した際に受ける衝撃の計測を行ったことがある。座面に乳幼児が座った際の頭部の高さは75cm以上であり、一般家庭で使用されている床材(フローリングの場合)でも、この75cmを超えるとHICが1000を超えることがわかった。肩車キャリアに乗せられたこどもの頭部の位置は少なくとも170cm以上であり、室内のハイチェアから転落した場合よりも強い衝撃が加わることは容易に想像できる。製品の説明書には、「保護者は転倒しないように」と書かれているが、絶対に転ばないということはないので、気になる製品である。

■絵本に描かれたミニトマト

 これは、「こどものケガを減らすためにみんなをつなぐプラットフォーム Safe Kids」の「みんなの声」に寄せられた情報である。保育園の園長をしているという人からの情報で、「こども向けの絵本に『おべんとう』をテーマにしたものがある。園児に人気があり、繰り返し読んでいるが、絵本の中にミニトマトやぶどうがカットされずにそのまま入っている絵や写真が掲載されている。幼稚園や保育園に対して出されている内閣府のガイドラインには、『ミニトマトやぶどうを給食の食材として使用する際は4等分する』よう書かれているが、お弁当に入っているミニトマトやぶどうも同様ではないだろうか。園児や保護者に与える影響が懸念される」という内容であった。実際にそれらの絵本の画像も送られてきたが、確かに複数の絵本で同じような状況が見られる。

 実はこれは絵本に限ったことではなく、外食の場でも似た状況が見受けられる。レストランやファストフード店が「キッズメニュー」「おこさまプレート」などと銘打って提供しているメニューの写真を見ると、ミニトマトがカットされずに入っていたり、枝豆がそのまま使われていたりする。中にはわざわざニンジンをうずらの卵のような形にして提供している例もある。

提供:イメージマート

■予防策を考えてみると

 今回挙げた3つの事例については、現在のところ、いずれも重大なケガが起きたという報告はみあたらない。したがって、これらの製品・サービスに関する予防のための積極的なアクションを起こす段階ではないと考えるが、まったく懸念がないとは言えないので、現在考え得る予防策や対応について述べてみたい。

①ニューボーンフォトについて

【フォトグラファー、フォトスタジオの対応】

無理な姿勢をとらせない

 言うまでもないが、乳児が頬杖をついたり、横向きに寝たりすることはない。撮影のためにこのようなポーズをとらせることのないようにしなければならない。

加工した旨を明記する

 あたかもかわいらしいポーズをとったかのように加工した写真には、加工した旨を明記し、一般の人がむやみに真似をしないよう警告を記載する。

【保護者の対応】

普段の生活リズムを崩さない

 撮影のためにミルクや睡眠の時間をずらすようなことはしない。

違和感をそのままにしない

 撮影中に何らかの違和感があれば、フォトグラファーに率直に伝え、無理に撮影を続けない。

保護者が撮影する場合は

 プロの真似をせず、乳児の自然な表情やポーズを撮影する。

②肩車キャリアについて

【メーカーや小売店の対応】

使い方をわかりやすく説明する

落下予防用のストラップなどを製造して付属品として付ける

幼児では、ヘルメットの着用を勧める

過去に落下や衝突など、こどもがケガをした事例があれば公表する

【保護者の対応】

事前に使い方を確認する

 こどもを乗せる前に、メーカーが提供している動画などを見て、使い方を把握しておく。

落下予防のためのストラップを使用する

 メーカーで落下予防のためのストラップ等を販売している場合は、それを使用する。

こどもの頭部を保護する

 幼児ではヘルメットをかぶせ、万が一落下した場合でも頭部への衝撃が軽くなるような対策をとる。

フリーマーケットやリサイクルに出したり、人にあげたりしない

 使用者も気づかない歪みや緩み、衝撃を受けた際の内部の破損などの可能性があるため、肩車キャリアだけでなく、こどもの安全に関わる製品は、オンラインを含むフリーマーケットに出品したり、リサイクル店に出したりしない。

③絵本について

【出版社の対応】

写真やイラストを差し替える

 内閣府のガイドラインの内容を確認し、その内容に沿った写真、イラスト、記述に改訂する。特に食材については未就学児にはさまざまな制約があることを把握し、ガイドラインから逸脱しないような内容にする。

【保育者の対応】

事前に絵本の内容を把握する

 すべてのページを確認することは難しいかもしれないが、今回のように、園児の重大なケガにつながるかもしれない写真やイラストがある場合は、その絵本を廃棄する。

保護者に伝える

 絵本を例に、ミニトマトやぶどうの危険性を伝える。

■おわりに

 最後に、消費者の皆さんにお願いしたいことがある。これは危険ではないか、こどものケガにつながるのではないか、と思ったら、それを自分の中で解決するのではなく、社会に向けて発信していただきたい。企業のカスタマーセンターに連絡してもいいし、全国にある消費生活センターに連絡してもよい。もちろんSafe Kids Japanの「聞かせてください」や、「こどものケガを減らすためにみんなをつなぐプラットフォーム Safe Kids」の「みんなの声」に投稿していただくことも大いに歓迎する。

 消費者からの声がなければ、製品やサービスを提供している企業は特に問題なく安全に使用されていると考え、改良や改善を検討することはない。あなたが「あぶない!」と思ったら、それをそのまま伝えてほしい。安全な社会を作るためには、行政や企業だけではなく、一人一人の消費者もまた重要な役割を担っている。そのことをぜひ知っていただき、実践していただきたい。

「#こどもをまもる」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の1つです。

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特集ページ「子どもの安全」(Yahoo!ニュース):https://news.yahoo.co.jp/pages/20221216

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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