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「モグラたたき」と言われても〜楽しく安全な豆まきのために〜

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:アフロ)

 「最強寒波」が猛威を振るい、全国的に厳しい寒さの日が続いているが、季節は確実に移っている。もうすぐ立春だ。今年の立春は2月4日なので、節分はその前日、2月3日である。この日は保育・教育施設や各家庭で「豆まき」の行事が行われるだろう。子どもたちにとって楽しい行事である豆まきだが、乳幼児が豆をそのまま食べることは危険だ。2020年2月3日、保育施設で行われた節分の豆まきの豆で4歳児が窒息死した。保育の場でも、家庭でも、豆そのものを食べるのは6歳になってからにしてほしい。

 以前から豆の危険性を指摘してきたし、内閣府等から出ているガイドラインでも危険性が指摘されているが、今回もまた、豆や大粒のぶどう、ミニトマト等の危険性について指摘したい。

ぶどうについての投稿

 私が理事長を務めているNPO法人 Safe Kids Japanでは、ホームページに「聞かせてください」という投稿欄を設け、お子さんがケガをした、またはケガをしそうになった際に、その内容を送っていただいている。この「聞かせてください」に、先日下記の投稿があった。

現在、3歳の子どもが幼稚園の年少クラスに通っています。この幼稚園では週に2回給食がありますが、昨秋のこと、給食にピオーネという大粒のぶどうが出されました。しかも4つに切った状態ではなく、丸のままの状態で出されたのです。そのことを後から知り、担任の先生に「大粒のぶどうをそのまま食べさせるのは危険ではないでしょうか?消費者庁から大粒のぶどうやミニトマトは切って出すよう注意喚起されていますし、内閣府のガイドラインにもそのように書かれていると思います。ぶどうを食べさせる際は4つに切ってから出していただけませんか?」と伝えました。ところが先生は「私たちが見守っているので大丈夫です」「3歳になれば噛み砕けます」とおっしゃるのです。

先輩ママに聞くと、今はコロナ禍なので実施していないけれど、数年前までは野菜や果物の収穫体験が行われていたそうです。ぶどうの収穫もあったし、ミニトマトもあったということでした。あり得ないと思います。

子どもは幼稚園が大好きなので今後も通わせたいのですが、給食での食品の取り扱いを変えていただくために、園にどのように伝えていけばいいでしょうか?

 この投稿を読んで、5年前に出ているガイドラインが、いまだ現場には伝わっていないことに愕然とした。2016年3月に出たガイドラインの3ページには「過去に、誤嚥、窒息などの事故が起きた食材(例:白玉風のだんご、丸のままのミニトマト等)は、誤嚥を引き起こす可能性について保護者に説明し、使用しないことが望ましい。」と書かれており、21ページには、「参考例」として「給食での使用を避ける食材」の表があり、食材として「プチトマト」や「ぶどう」も記載されている。さらに、備考欄には「四等分すれば提供可であるが、保育園では他のものに代替え」と記されている。

「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」より 筆者抜粋
「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」より 筆者抜粋

 一方、いいニュースもあった。こちらも昨秋の話だが、知人の子どもが通っている保育所からの芋ほりイベントの前に配布されたお手紙の内容を教えてもらった。

「遠足に向けて、下記の持ち物をご準備いただきますよう、よろしくお願いいたします。

【持ち物】お弁当(食べきれる量でお願いします。ぶどう・ミニトマトなどは1/4にカットしてください)」

保育管理下の危険に関する調査

 2018年11月、総務省行政評価局による子育て支援に関する行政評価・監視において、「対策の重要性の認識不足や実施方法に関する情報不足などを理由に、一部の施設においてこれらの対策が実施されていない状況がみられる」と指摘があり、勧告が出た。

 これを受け、全国の教育・保育施設等、約55,000施設を対象に、2022年1月18日から2月13日にアンケート調査が行われた。15,980件(約30%)の回答が得られ、「令和3年度 子ども・子育て支援調査研究事業 教育・保育施設等における重大事故防止対策に係る調査研究 報告書」が公開されている。

 この調査で、節分行事の「豆まき」、「乾いた豆の提供」についてたずねたところ、豆まきをしている施設は80.4%で、そのうち、「豆まきの実施」、「乾いた豆の提供」のどちらも実施した施設は5.1%、「豆まきをして、豆は提供せず、豆まきは豆つぶのまままいた」施設は16.9%であった。豆を提供しなくても、豆つぶのまままけば、子どもが豆を拾って口に入れる可能性があり、この場合も危険である。これら二つを合わせると22%であった。

 豆の危険性はもう少し認知されていると思っていたが、この数値には驚いた。全国に換算すると、約12,000か所の施設は危険であるということになる。この調査結果が発表されたのは2022年3月で、現時点ではこれが最新の調査結果である。このデータから、今年の節分についても、機会あるごとに、繰り返し豆の危険性を訴える必要があると考えている。

 その他、節分行事でまいた豆で窒息死した事故について「知らなかった」と回答したのは3.9%、「何となく聞いた記憶がある」は8.1%であった。

 監査時に、節分行事での「豆まき」、「乾いた豆の提供」に関する指摘・助言が「あった」のは13.7%、「なかった」のは75.3%、「施設の開設以降、監査を受けたことがない」のが5.1%、「覚えていない」が6.0%であった。監査時に指摘がないのは、監査する時期による可能性もある。節分に近い時期であれば助言が行われるのかもしれないが、7月の監査時に節分の豆の話をする必要はないかもしれない。

 この調査では、「園庭でミニトマトの栽培を行っているか」についてもたずねており、「行っている」と回答した園は41.6%となっていた。園庭で遊んでいる子どもが、ミニトマトを口に入れる状況は十分あり得る。実際に、園庭のミニトマトを摘んで口に入れ、窒息死した例も報告されている。ミニトマトではなく、誤嚥や窒息の可能性の低い野菜や果物の栽培に切り替える必要がある。よく「注意して見ているから大丈夫」という人がいるが、いったん子どもの口の中に入ったら、外からは何もすることはできない。

「令和3年度 子ども・子育て支援調査研究事業 教育・保育施設等における重大事故防止対策に係る調査研究」(保育職員のための学びのツール)より 筆者抜粋
「令和3年度 子ども・子育て支援調査研究事業 教育・保育施設等における重大事故防止対策に係る調査研究」(保育職員のための学びのツール)より 筆者抜粋

「令和3年度 子ども・子育て支援調査研究事業 教育・保育施設等における重大事故防止対策に係る調査研究」(保育職員のための学びのツール)より 筆者抜粋
「令和3年度 子ども・子育て支援調査研究事業 教育・保育施設等における重大事故防止対策に係る調査研究」(保育職員のための学びのツール)より 筆者抜粋

国家試験問題に出るようになった

 かつて保育士養成課程の中に、子どもの事故に関する履修項目はなかったと聞いたことがある。最近では、以下のように国家試験の問題として提出されるようになった。

一般社団法人 全国保育士養成協議会のホームページに、過去に実施された保育士試験の過去問題が掲載されている。令和4年保育士試験(前期)には下記のような問題が出された。

一般社団法人 全国保育士養成協議会のホームページより 筆者抜粋
一般社団法人 全国保育士養成協議会のホームページより 筆者抜粋

 医師国家試験には「地雷問題」があると言われている。他の問題はすべて正答であっても、その問題の回答が誤っていると不合格になるのである。「ミニトマトはそのまま出して、よく噛むよう指導をし、近くで見守る」という選択肢に〇をしたら、他がすべて正答であっても不合格となるようにしてもいい。それくらい重大な問題なのである。

これからやるべきことは

 前述のとおり、5年以上前に出されたガイドラインがいまだ周知されていない。この課題を解決するためには、

・国は、定期的に、少なくとも1年に1回、ガイドラインを要約した通知を全国の施設に出す。

・保育士や栄養士の研修会で、必ずガイドラインの内容を伝える。

・数年に1回、2022年に行った調査と同じ内容の調査を行い、ガイドラインの周知度を確認する。

 まるでモグラ叩きのようだが、「節分で豆そのものをまくのは、絶対にやめて!」「ミニトマトや大粒のぶどうは4つに切って食べさせて!」と今後も言い続ける。これが私の仕事である。

参考記事など

豆まきの豆による窒息を予防する-あらためて考える「放送ガイドライン」

豆類の誤嚥による窒息を予防する - 業界への要望とアンケート結果

「5歳以下の子どもには、豆まきの豆を食べさせないで!」そのニュース、響いてますか?

Safe Kidsニュース

豆は6つになってから

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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