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いつまで同じことが続くのか!? また起きた「園バス置き去り死亡事故」

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

また「園バス置き去り死亡事故」が起きた

 今回の事故は、昨年福岡県中間市で起きた、園バスに置き去りにされた園児が熱中症で死亡した例とまったく同じ事故であった。

 私はいつも「子どもの事故は、1件だけということはなく、必ず複数件起こる」と言っているが、「安全を最優先する」とされている保育の場で、昨年と同じ事故死が起こったことに愕然とした。場所と時間が変わっただけで、まったく同じ事故死だ。「また同じ事故死か!」「信じられない!」と思った人も多いと思う。今回の事故死が起こった園の園長も、昨年7月の園バス置き去り事故のニュースを聞いて、「信じられない」と思ったはずだ。福岡県の事故は大きなニュースとなり、その後、8月25日付けで、厚生労働省、文部科学省そして内閣府子ども・子育て本部から「保育所、幼稚園、認定こども園及び特別支援学校幼稚部における安全管理の徹底について」という事務連絡が出された。

 この「事務連絡」が国としての「対策」だとすれば、「対策」が取られたはずなのにまた同じ事故死が起こったということになる。つまり、昨年の「対策」は有効ではなかったという証拠だ。

 これまで、「保育士の自覚、意識が大切」、「マニュアルの整備が必要」、「安全最優先」などと言われ、「二度と同じ事故死が起こらないようにする」という決意表明もされてきたが、これらはすべて無効であることがまた証明された。

事故死発生後の動き

 9月5日の事故発生の翌日には、文科省等から「保育所、幼稚園、認定こども園及び特別支援学校幼稚部におけるバス送迎に当たっての安全管理の徹底について(再周知)」という事務連絡が発出された。

 その内容を見ると、

① 子どもの欠席連絡等の出欠状況に関する情報について、保護者への速やかな確認及び職員間における情報共有を徹底すること

② 登園時や散歩等の園外活動の前後等、場面の切り替わりにおける子どもの人数確認について、ダブルチェックの体制をとる等して徹底すること

③ 送迎バスを運行する場合においては、事故防止に努める観点から、

・ 運転を担当する職員の他に子どもの対応ができる職員の同乗を求めることが望ましいこと

・ 子どもの乗車時及び降車時に座席や人数の確認を実施し、その内容を職員間で共有すること等に留意いただくこと。

④ 各幼稚園等においては、「学校安全計画」「危機管理マニュアル」について、適宜見直し、必要に応じて改定すること。

とあり、昨年の通知とまったく同じで目新しいことは何もない。昨年の通知をコピーして出しただけか、昨年の通知を知らなかったかである。行政は、通知を出せば自分の責任を果たしたと勘違いしているが、今回、同じ事故死が起こったのであるから、昨年の通知には予防効果がなかったと認識する必要がある。昨年出した通知の各項目について、その実施率を調べ、実施率が低ければなぜできないのかを検討し、具体的な解決方法を示す必要がある。そういう評価をすることが行政の仕事であるはずである。

今後、どうすべきか

 昨年国が示した対策は、有効ではなかったことが証明されたので、今回は、事故死を検証するだけでなく、前回の事故死に対して対策と考えられていたものをリストアップし、それぞれが無効であったことを確認し、前回の対策として示した以外の対策を挙げる必要がある。具体的には、「出欠状況に関する情報共有の徹底」「ダブルチェック体制の徹底」「危機管理マニュアルの見直し・改定」などは予防策とはならないということだ。

 「人は誰でも間違える」と考えることが予防策を考える時の基本であり、また、事故を予防するためには、いろいろな職種の人が取り組む必要がある。

 現在では、人の生活を支援するさまざまな機器が開発され、昨年、福岡県で起こった園バスでの熱中症死の発生以後、このような置き去りを予防するためのセンサーが開発され始めた。

事例1)置き去りを検出するためのセンシングソリューション(三洋貿易株式会社)

事例2)置き去り検知システムの実証実験(株式会社サイバネテック)

 行政がすべきなのは、置き去り防止センサーの開発を支援し、園がセンサーを設置する場合には補助金を出すこと、さらに園バスや自動車へのセンサーの設置義務付けの検討を開始することである。

 議員は、行政の対策を監視し、園バスへのセンサーの設置の義務化など法的な予防策を推進する必要がある。

 メーカーは、容易に車に後付けできるセンサーの開発に取り組む必要がある。

 園では、センサーの取り付けにかかる費用と人件費を比較して、取り付けの検討を行う必要がある。

 保護者は、園バスの危険性を軽減するため、センサーの設置を国や園に要望するとよい。

園バスだけの問題ではない

 今回の事故死は、園バスだけの問題ではなく、自家用車に子どもを置き忘れて子どもが死亡する事故もまったく同じであり、対策もまた同じである。欧米の一部の国では、自動車への置き去り防止のセンサーの設置の義務付けが始まった。

 「ヒューマンエラー」は「センサー」を活用して防ぐ時代である。注意喚起やマニュアルだけでは予防はできない。テクノロジーを活用しなければ、必ずまた同じ事故が起こる。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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