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「5歳以下の子どもには、豆まきの豆を食べさせないで!」そのニュース、響いてますか?

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:アフロ)

 2021年の立春は2月3日で、節分は2月2日である。節分を前に、1月20日、消費者庁は「食品による子どもの窒息・誤嚥(ごえん)事故に注意!―気管支炎や肺炎を起こすおそれも、硬い豆やナッツ類等は5歳以下の子どもには食べさせないで―」という発表をし、このことについて報じる3件のニュースを見た。

節分の豆まき、誤嚥に注意 5歳以下は窒息死の恐れ(共同通信)

節分の豆「5歳以下」は注意 死亡事故 6年間で73人(FNN プライムオンライン)

節分前に…「豆の飲み込み注意」 誤嚥で死亡事故も(テレ朝news)

このニュースが出た理由は?

 2020年の節分の日に、松江市の保育施設の豆まきで4歳児が豆をのどに詰まらせ死亡した。豆による誤嚥・窒息の危険性は以前からよく知られており、医療関係者は豆まきの豆は乳幼児には食べさせないよう何度も指摘していた。2016年3月に出された「教育・保育施設等における事故防止のためのガイドライン」でも、豆は保育の場で使用を避ける食材の一つとして指摘されている。それにもかかわらず、また死亡例が発生したことから、「5歳以下の子どもには、豆を食べさせないように」との発表があったと思われる。

響かないニュース

 3つのニュースを読んで、私は、何年も前から同じことを言っているだけだと思った。「昨年の保育施設での窒息死と同じことを、今年は絶対に発生させてはならない!」という強い思いは感じられなかった。いまだに豆まきの豆で窒息死が起こっているということは、「乳幼児には、乾燥した豆をそのまま食べさせないこと」が周知されていないということだ。それを周知することが必要なのだ。この「食べさせないで!」というメッセージこそが重要なのだ。豆まきの豆によって誤嚥・窒息が多発することがわかっている日に向けて、「豆のまま食べさせない」というメッセージを、保育の場だけでなく、一般家庭の保護者にも伝えなければならないのだ。

 これまでの誤嚥や窒息の発生数は述べなくてもいい。豆以外の食品についての危険性も述べなくていい。消費者庁の担当者が、窒息が起こった時の対処法について実演した写真がニュースに掲載されていたが、それもなくていい。一言、「5歳以下は食べさせないで!」でいいのだ。

私が記事を書くとしたら・・・

 節分が間近に迫り、消費者庁から豆による子どもの誤嚥・窒息の予防のための発表があった。2020年の節分の日に、保育施設で4歳児が豆をのどに詰まらせて死亡したことを重く見て、「5歳以下の子どもには、豆のまま食べさせないで」と訴えている。乳幼児では、乾いた豆は気管に入りやすいことが知られている。いったん気管に入ってしまうと、入院して取り出す処置が必要で、そのまま放置すると肺炎になって死亡したり、時には窒息して死亡することもある。

 保育の場では、豆の入った袋ごと撒く、豆の代わりに新聞紙を丸めたものを撒くという豆まきを行っている保育施設もある。一般家庭でも、乳幼児がいる場合は同じような対応をすることが望ましい。最近、一部の食品会社が販売している豆の袋には「4歳未満のお子様には食べさせないでください」と赤い字で表記され、「誤って気管に入り窒息する危険があります。お子様が泣いている時には食べさせないでください」と書かれているものもある。(参照:4歳になるまでは食べさせないで 〜ピーナッツ入りの袋に表示された!)「保育の場だけでなく、家庭でも、安全で楽しい豆まきをするために必ず守ってほしい」と担当者は訴えている。

 テレビの映像としては、2020年2月3日の窒息死に関するニュースや豆が気管に詰まってしまう動画を使って誤嚥・窒息の発生状況をわかりやすく示し、最後に、豆の袋の表記を映すとよいと思う。

 豆まきの日を前にして、豆による窒息を予防するために「5歳以下には食べさせないで!」というメッセージを一つだけ出せば、インパクトがあるのではないかと私は考えている。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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