どれだけ速く事故は起こるのか ~Safe Kids Japan活動報告会 その2~

Safe Kids Japanの活動報告会で(筆者撮影)

 10月5日に、「Safe Kids Japan活動報告会(1)~子どもの傷害予防活動とメディア ~」としてこの欄に記事を投稿した。

 この活動報告会では、私以外に、Safe Kids Japan理事で、産業技術総合研究所 人工知能研究センター 首席研究員の西田 佳史さんと、同じくSafe Kids Japan理事で、産業技術総合研究所 人工知能研究センター 研究員の大野 美喜子さんも発表した。今回は西田 佳史さんの「どれだけ速く事故は起こるのか」という報告を紹介したい。

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どれだけ速く事故は起こるのか

 今日は、これまでわれわれがいろいろ実験してきたことをもとに、「どれだけ短い時間で事故は起きるのか」ということについてお話ししたいと思います。エビデンスやデータがないのに、予防策として「見守りましょう」と言われ続けています。今日は、今の時点でエビデンスがあることについてお話ししたいと思います。

 ここにある保険会社の皆さんと一緒に作った絵があります。家庭内でどのような事故が起こるのかという絵で、ウォーターサーバーによるやけど、ブラインドの紐に引っかかる、テレビが転倒するといった最近起きている事故がイラスト化されています。

 これまで、このような物理現象が、どれくらいの時間で起きるのかということは不明確でしたが、今までいくつか実験したことがあり、それをご紹介したいと思います。

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 まず、子どもが転倒するのに、どれくらいの時間がかかるのかという実験をしました。人工知能時代なので、室内にカメラをたくさん付けて、そこにお子さんが来て、どんどん転んでくれるので、どれくらいの時間がかかるのかを分析したものです。

 元々は永大産業という床材のメーカーと一緒に安全な床を作るために研究したものです。19人の子どもたちが104回転びました。それを画像処理で分析しました。転びはじめから、手、足、膝、お尻が床に着くまでに何秒かかるか、それをカウントしました。横軸がかかった時間、縦軸は頻度です。いちばん高いところを見ていただけるとおわかりのように、0.5秒ぐらいです。0.5秒で転んで、頭をぶつけて裂傷になるとか、歯ブラシが喉に刺さるとか、そういうことはだいたい0.5秒ぐらいで起きることがわかりました。この実験を行って、初めて「あっという間」の時間がわかりました。これまで、時間を測ってみないで「見守ってください」と言われていました。しかし、後ほどお話ししますが、0.5秒というのは「見守って防ぐ」ことが難しい時間です。

 たとえば、すべり台などの遊具で子どもたちが遊んでいる時に、お母さんたちが脇でおしゃべりをしている。よくある状況ですが、子どもが落ち出したとすると、3メートルの高さからは0.78秒で落ちてしまいますので、実は救うことができません。

 もう少し遅い現象をみてみると、電気ポットとか電気ケトル。これも倒れるとお湯がドーッと漏れ出します。倒れると、バーッとお湯が広がる。お湯に絵の具で色を付けて、電気ケトルをひっくり返して、その広がるスピードを画像処理で測ってみました。

 これは横軸が経過時間、縦軸がどれだけお湯が広がったかを表しています。電気ケトルは7種類を実験してみたのですが、ほとんど漏れないものもありました。きちんと対策をされているのは日本のメーカーのもので、数滴ぐらいしか漏れない。そういうものもありますが、5秒~10秒ぐらいで入院が必要とか、皮膚移植が必要なレベルまでお湯が広がってしまうものもあることがわかりました。市販されている電気ケトルの中には、5~10秒で大やけどになるものもあります。先ほどの転倒、転落よりは遅いですが、5~10秒の間、子どもから目を離さないというのは結構難しいのではないでしょうか。それくらいの時間、目を離すことはよくあると思います。しかし、その5~10秒で重大な傷害につながる事故は起きてしまうということです。

 次はベランダです。子どもがベランダから転落する。東京都だけで、5年で100人以上も発生していますが、ベランダの柵を登る時間も測りました。子ども達にはベランダとわからないよう遊具のような形にして、そこに子どもたちに登ってもらう。2、4、6歳にわけて測りましたが、かなり登れます。腕力が強いし、足も柵にペタペタと上手に付けて登って行くので、かなり早く登れます。測定すると、4歳で11秒、5歳だと7秒ぐらいで登れます。登れるということは、ベランダから落ちるということです。ベランダに出て、その気になると、11秒とか7秒で柵に登れてしまうことを意味しています。ベランダの柵に登って転落するのにかかる時間は、実は7秒から11秒ということです。

 もっと早い現象もあります。実は学校のスポーツ外傷でいちばん多いのは、野球の事故です。その中でも野球の自打球が一番多い。バントなどを失敗して、自分の顔に球が飛んで来る。どのくらい速い現象かというのを測ってみました。これも画像処理を使って測ります。何とこれは0.05秒でした。バットに当たってから、目まで飛んで来るのにたった0.05秒しかかからないということで、ものすごく速い。これを根性でよけろというのは無理です。非常に難しい。今、野球をやっている子どもたちが目のけがをしないのは、単なる運、本当に運がいいだけなのです。

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 それから、サッカーゴールにブラブラぶら下がって倒すのに何秒ぐらいかかるか。やってみてわかったのですが、ある角度までは復元する、戻るんです。あるところ、臨界点を超えるとガーンと倒れるんですが、その臨界点を超えて地面に挟まれるまでの時間がどれくらいかを測ってみると、だいたい1秒ぐらいです。あ、まずい!と思っても、1秒でゴールと地面の間に挟まれてしまう。実際、死亡例の多くは頭部打撲や内臓の破裂で亡くなっています。海外でも日本でも何例もあります。ゴールは1秒で倒れるということがわかりました。

 物理現象としてこのようなことがわかりましたが、それでは「人の能力」の方はどうか。つまり、「人の見守り力」の方はどうなっているのか。これは文献に載っている話ですけれども、どれだけ早く気付けるか。それから、どれだけ早く動けるかということを考えると、だいたい人の目の情報処理というのは、気付くまでに0.2秒くらいかかると言われています。先ほど「転倒するまでにかかるのは0.5秒」という話をしたんですけれども、それを救おう、転倒して歯ブラシがのどに刺さるのを阻止しようとすると、0.5秒マイナス0.2秒なので、0.3秒で何かしなきゃいけない。仮に1メートルのところで見守っていても、実際、時速20キロまで加速しないと1メートルの瞬間移動ができないので、何かすることは難しい。実は、こういう早い現象、転倒とか、今日ご紹介したもののほとんどのことに関しては、見守り力だけ、すなわち人の気付く力と動く力だけで救うことは、物理的にも人間工学的にも非常に難しいということがわかりました。

 ということで、環境をできるだけ整備することが非常に大事なのだと思います。そういうところにSafe Kids Japanの役割があるのではないかと思っています。

プール監視

 ここから新しいことをお話ししたいと思います。0.2秒で気付くという話をしましたが、それはどういうことか。その1点だけを見つめて、何か起こったらボタンを押すという実験をすると0.2秒なんですが、実際にはそんなシチュエーションはないですね。たとえばこの部屋の中で子どもを見守っていなさいというと、かなり広いですね。そういう状況が現実で、実際には広さという係数が入ってくると思います。

 それがよく当てはまるのがプールじゃないかと思います。これは、私がアメリカに行った時に撮影したもので、ディズニーのホテルのプールの監視員です。2人いて、プールの両端からしっかり見ています。浮き輪、棒状の浮き輪ですけれども、それを脇に抱えて、溺れたらすぐに救いますという体制で、かなり厳重な監視をしています。恐らく、そのホテルで溺れが起きるとブランドも傷つくので、本当に真剣にやっている、そういう印象です。

 同じ2人ですけれども、これは私が娘と行ったことがあるプールの監視員、どこにいるか、おわかりになりますか。2人いるんです。実は、ここにおりまして(注:涼しそうな木陰)、日なたは暑いので、ここで友人としゃべって見ているんです。多分、このプールで死亡事故が起きると、ニュースでは「監視員は2人いた」と出ると思いますが、明らかにアメリカの監視員とこの監視員は違いますよね、やる気もスキルも全然違う。こういう違いはニュースからはわかりません。現状は、日本ではこういう監視が多くのプールで今も行われているのではないかと思っています。

 最近、見守りの範囲に関して研究しようということで、プールの中で何か異変が起きた時に、どれくらいの時間で気付くことができるかという実験をしました。3×3メートルという非常に狭い範囲を見守る場合と、9×9メートルという広い範囲の2種類です。9倍差があるので、どれくらい気付く時間が変わるのかを実験で調べました。

 スイミングセンターの協力で実験のためのプールをお借りすることができました。プールの底に四角形のパネルを置き、そのパネルの色を変える。どこの場所が変わったかに気付いたら、パッと手を挙げるというやり方です。ランダムに変えるので、どこが変わるかわからない。シチュエーションとしては、子どもが底に沈んでいるのを発見することなのですが、どこで起こるかわからない。それを発見してくださいということです。これはそのビデオです。これからどこかで色が一つ変わります。わかりましたか?この左下の辺り、色が変わったと思います。ここに人が沈んでいると見つけられる。パネルはいろんなところに置いてありまして、ランダムに一つずつ色を変えて見つけてもらい、その時間を測りました。

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 その結果はこちらです。まず3×3メートル、比較的小さいプール、保育園の小さいプールぐらいです。これですと、15人の監視員が気付く時間を測ったところ、気付くのに平均1.9秒かかっています。最大では4.3秒かかっています。先ほど0.2秒と言ったのですが、実際には0.2秒なんかで見つけられない。どこか変わるかわからないというシチュエーションだと、ずっと遅い。2秒ぐらい、最大では4秒かかります。

 これが9倍の面積になるとずっと広く、発見時間が3.3秒になります。先ほどは1.9秒だったけれど、3.3秒になるんです。とても0.2秒なんかでは見つけられない。最大では10秒。これは真剣にやっている状況で、先ほどの日本のプールみたいにボーッとやっているんじゃなくて、真剣にやっている状況でこの時間です。だから、本当はもっと遅いのだと思います。

環境をデザインする力

 以上述べてきましたように、人の見守り能力というのは、非常に不安定だし、時間がかかるものだということがわかりました。実際、沈んでいた人を見つけるのは監視員ではありません。ニュースを見ると、お兄ちゃんが見つけた、泳いでいる人が見つけたというケースが多いのです。監視員以外が見つけています。プールの監視は、現実には非常に難しいのかなと思います。

 まとめてみますと、冒頭の実験でもわかるように、ほとんどの事故は、1秒以下で起きています。電気ケトルの転倒とか、ベランダからの転落に関しては10秒台というのもありますけれど、それでも一瞬だと思います。それくらいの時間、目を離すことはよくあります。

 こういう現実では、「目を離すな」と言っても非常に難しいですね。人が気付く時間の理論値で最高のスペックは0.2秒ですけれど、それは無理な値で、実際には10秒以上かかっている。そうすると、大半の現象は救うことができないということになるんです。見守りだけだと、やはり非常に難しい。

 ここからが重要ですが、環境をデザインする力を人類は持っています。環境をデザインして目が離せる環境こそが大切です。これに関しては、いろいろな資料が出ています。Safe Kids Japanとしては、こういう資料や先ほどのエビデンスなどを使って予防につなげていくのが大事だと思います。

 野球であれば、目を覆うゴーグル状のもの。これはまだ普及していませんけれど、これから普及させたいと思っています。サッカーゴールの転倒は度々起きていますね。私は小学校に行く度にサッカーゴールを見ていますけれど、倒してあるのは見かけますが、おもりを置いていません。この前の台風みたいな風で飛ばされることもしょっちゅう起きています。これからも起きると思うので、何とかしなきゃいけないなと思っています。

 家庭内でのいろいろな事故に関しては、実はいいグッズが売られており、対策は開発されているので、それを推奨していくことが大事です。それに、われわれSafe Kids Japanも役立ちたいと思っています。

 これは、東京都と一緒に作った冊子です。この中に、具体的にどういうグッズを使ったらいいのかということが書いてあるので、こういうものを使いながら、環境とかグッズの力を借りながら予防していくのが大事だと思います。

 今日は「どれだけ短い時間で事故が起きるのか」ということをまとめてみました。

※写真はすべて筆者撮影。

 西田さんの報告は以上である。次回は大野 美喜子さんの報告を紹介したい。