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きょうから「Go To」に東京追加 観光はどう変わる?

山口有次桜美林大学ビジネスマネジメント学群教授
10月1日から「Go To トラベル」キャンペーンに東京発着の旅行が追加された(提供:barks/イメージマート)

東京の「Go To トラベル」追加 安全・安心な旅のスタイル定着へ

 10月1日から「Go To トラベル」キャンペーンの対象に東京都内発着の旅行が追加された。東京都だけ除外され7月22日に始まった「Go To トラベル」は、失われた旅行需要の回復や旅行中における地域の観光関連消費の喚起をはかるとともに、withコロナの時代における安全・安心な「新しい旅のスタイル」を普及・定着させることを目的としている。

 旅行者が新型コロナに感染しない、感染させないよう十分に配慮しながら、安心して楽しい旅行を実現することで、新型コロナウイルス感染症の対策と経済対策を両立させようとするものである。

順調に伸びていた観光部門が一変 コロナで激変したレジャー産業

 『レジャー白書2020』(日本生産性本部)によると、2019年のレジャー産業の市場規模は72 兆2,940億円となり、前年比0.6%増加した。市場規模の突出して大きいパチンコ・パチスロの落ち込みが止まらず足を引っ張っているが、これを除くと前年比2.2%増加である。これで7年連続のプラスである。同時期の国内総生産(支出側)が前年比1.3%増加、民間最終消費支出が前年比0.4%増加であるのに対し、この伸びは大きい。

 だが、2020年に入り、新型コロナウイルス感染症により、とりわけレジャー産業を取り巻く環境は大きく変化した。コロナ禍の直前までは総じて好調であり、なかでも観光・行楽部門の伸びが大きく、インバウンド効果が続き、ホテルや航空・鉄道・バスといった輸送関連の好調が続いていた。

 レジャー産業4部門における観光市場の好調

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出所:日本生産性本部『レジャー白書2020』

 こうした2019年までの好調は、2020年に入ってからの新型コロナウイルス感染拡大で一気に吹き飛んだ。そして、その最も大きなダメージを受けたのが、2019年まで順調に伸びていた観光・行楽部門である。

 旅行業は1月時点で早くもマイナスとなり、4月には前年同月比6.4%、5月には3.4%まで低下した。これは需要が消え去ったといってよい状況である。国内航空は旅行業より若干ましだが、それでも5月は前年同月比6.6%まで落ちた。宿泊はそれを上回るが、5月は15.1%まで落ち込んだ。それに対して、鉄道の下限は4月の57.4%であり、5月も58.2%であった。ちなみに、外食の下限は4月の59.9%である。これらは、6月、7月と徐々に回復しているが、それでも旅行業、国内航空、宿泊のダメージは極めて大きいことがわかる。コロナ禍で人の移動が抑制され、特に県境をまたぐ移動が制限されたことは大きなダメージを与えた。

 2020年における観光関連指標の対前年同月比

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東京は日帰り観光へのインパクト大 都民の都内宿泊も重要な観光需要

 「Go To トラベル」は7月22日に始まったが、感染拡大の第二波が重なったことから、反発や心配の声が多く聞かれた。多くの人が感染拡大で保守的な行動をとり、結果としてその波及効果は限定的な印象となった。だが、キャンペーンの目的のとおり、失われた旅行需要の回復や旅行中における地域の観光関連消費の喚起をはかるためには、むしろ「新しい旅のスタイル」を普及・定着させながら、観光需要を刺激し、観光行動を促していく必要性は間違いなくあった。ただし、この時点で東京都がキャンペーン対象から除外された。

 観光庁「宿泊旅行統計調査」から都道府県別に2019年の延べ宿泊者数をみると、一番多い東京都のシェアは13.3%、二番の大阪府は8.0%であった。東京都の宿泊需要は、圧倒的に大きいというわけではない。だが、観光庁「共通基準による観光入込客統計」から、東京都の集計値が含まれた年間値のある2017年データをみると、東京都内発、東京都外発ともに、日帰り観光消費額が極めて大きいことがわかる。すなわち、宿泊もさることながら、日帰り観光へのインパクトが大きい。また、東京都民による都内での宿泊を伴う観光消費額単価(観光入込客1人あたりの平均消費額)は1人1回あたり4万円を超える高水準にある。都心部の高級ホテルに宿泊し、食事をするといった、東京都民による都内宿泊観光は、withコロナにおいても期待できる重要な観光需要といえる。

 東京発着の日本人観光客による観光消費額

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東京から全国・全国から東京へ 期待される「Go To」事業の相乗効果

 10月1日からの「Go To トラベル」東京都内発着旅行の追加は、特に東京都発着の日帰り観光の促進が大いに期待できる。東京都内発の宿泊需要も動きが活発化するだろう。そして、東京都における旅行消費の喚起もさることながら、これまで保守的に行動していた全国の人々が意識を変え、旅行需要が総じて増大していく効果も期待される。

 「Go To トラベル」の旅行者が観光先で「Go To イート」や「Go To イベント」、または各地域で導入されている観光関連の補助制度を使うことで、消費の相乗効果も発揮されるだろう。逆に、「Go To イベント」を目的に遠出するついでに「Go To トラベル」や「Go To イート」が活用されることも考えられる。このように「Go To」事業全体を通して日本全体の観光消費が回復に向かい、観光産業が再び活性化していくことが期待される。

少人数旅行や分散化が進むか withコロナ時代の新たな旅のスタイル

 こうしたwithコロナの時代の新たな旅のスタイルは、さまざまな変化を含む可能性がある。まず、三密をつくりにくい、コミュニケーションがとりやすい、万一の感染時も影響範囲が小さいよう、同行人数は小規模化し、個人化がさらに進むのではないか。混雑を避けるべく、場所・時期・時間を選択し、分散化も徐々に進行するだろう。事前の情報収集はこれまで以上に重要となり、予約もオンラインシフトが加速する。節約するところは削り、かけるところには大きく費用を向ける、支出のメリハリも進むのではないか。もちろん、電子決済の普及拡大にも一役買う。

 さらには、オンラインでのコミュニケーションが拡充していく一方で、対面でのコミュニケーションの見直しが進行し、そのことは結果として人的コミュニケーションの価値を上げることにつながるのではないか。それゆえに、これまで以上に、個人データに基づくオリジナルサービス提供が重要となり、人的関与のあり方の模索も進む。移動することに対する抵抗感をぬぐいさるためにも、移動時間における付加価値の付与がより一層求められるのではないか。

 ただし、人が集まる場所において、できるだけ会話を控えることが促されることは、旅行中に対人コミュニケーションを楽しむ上で大きな制約となる。マスク着用のうえでいかに会話を楽しめるようにするか工夫が必要である。なお、コロナ禍の前は、多くの場所が対人距離に無関心であり、快適な対人距離を考えることなく、さまざまな空間が設定されてきた。人と人の距離感に目が向くようになったことで改めて、快適な対人距離に配慮した空間設定を考えるよいタイミングといえるだろう。

 日本最大の観光地である東京から、withコロナ時代の新たな旅と行動変容が全国に波及して欲しい。

桜美林大学ビジネスマネジメント学群教授

早稲田大学大学院博士課程修了。博士(工学)。2006年より桜美林大学ビジネスマネジメント学群助教授、准教授を経て、2009年より現職。専門分野は、レジャー産業、レジャー施設、レジャー活動。1990年から『レジャー白書』の執筆に携わる。近年はアジア諸国のレジャー活動状況調査を実施し発表。単著『新 ディズニーランドの空間科学 夢と魔法の王国のつくり方』『観光・レジャー施設の集客戦略 利用者行動からみた“人を呼ぶ魅力的な空間づくり”』、共著『「おもてなし」を考える 余暇学と観光学による多面的検討』『観光経営学』『観光学全集 観光行動論』等。レジャー施設に関する論文多数。

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