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「イマーシブ・フォート東京」はディズニーランドを超える新たな能動的体験を引き出せるか

山口有次桜美林大学ビジネスマネジメント学群教授
画像提供:イマーシブ・フォート東京 「江戸花魁奇譚」

新しいテーマパークの楽しみ方を提示

 世界初の本格的イマーシブ・テーマパーク「イマーシブ・フォート東京」が3月1日、東京お台場に開業した。イマーシブ(没入型)シアターは、演劇の発展形としてイギリスで誕生し、ロンドンやニューヨーク、ラスベガスを中心に、演劇を好む層をメインに広がっている。日本でも、演劇の文脈でイマーシブシアターが上演されてきたが、今回12種類のイマーシブ体験アトラクションを組み込み、新たなテーマパークの形を提示した。これにより、多くの人に長期的にイマーシブ体験が提供されるようになった。

 この新テーマパークがディズニーテーマパークを超えるような魅力的な体験を提供し続けていけるのか、テーマパークに詳しいフリーライターの林田周也さんに考察していただいた。

受動的・能動的の両面からアトラクション参加を組み込む 

 親子でも気軽に参加できるライトなアトラクションは入場料のみで体験でき、本格的なイマーシブ体験は追加料金が必要な時間指定の公演として設定されており、段階を経て濃密な体験に入っていけるよう作られている。

 目玉アトラクション「ザ・シャーロック ベイカー街連続殺人事件」は約3,000平方メートルもの空間で一度に最大180人が体験できる大規模な演目で、1日最大6回、約1,000人の大きなキャパシティを誇る。

 ライト層向けの「スパイ・アクション!」は、観客の中から選ばれてショーに入り込むイマーシブ体験を用意している。登場するマフィア役が観客を指名して尋問しようとしたり、アイテムの受け渡しをさせたりすることで、観客も物語の登場人物になった感覚となる。観客が選ばれステージに立つショー自体は、既存のテーマパークでも演出の一環として存在するが、このショーではマフィアが人質という形で観客を指名し、さらにシーンごとに人質を変えていくため、多くの観客がショーに参加でき、かつ、指名された本人が異なる体験ができるよう工夫されている。

 入場料だけで観られるショーは、観客を指名し半ば強制的にイマーシブとは何かを体験させる、受動的でも成立するものだとすれば、有料アトラクションはより上級者向けで、観客自らが物語に没入しようとする能動性が求められる。

画像提供:イマーシブ・フォート東京 「スパイ・アクション!」は指名されて参加する半ば強制的なイマーシブ体験
画像提供:イマーシブ・フォート東京 「スパイ・アクション!」は指名されて参加する半ば強制的なイマーシブ体験

 「東京リベンジャーズ イマーシブ・エスケープ」は、「東京リベンジャーズ」の世界観を活かした脱出ゲームをベースとしており、参加者自身が謎を解いていく中で行動を起こしたりキャラクターと会話したりするなど、演目に入り込みやすい仕掛けが施されている。

 「ザ・シャーロック」は、シャーロック・ホームズやレストレード警部など50人近いキャラクターが広大な空間を動き回り、あちこちの部屋で会話が繰り広げられる。参加者は自由に歩き回れるが、同時進行で進んでいく物語の全てを見ることはできず、自らが選択した場所で出会った物語のみを知ることになる。それでも、物語の根幹をなすシャーロックが推理する連続殺人事件として、公演中に各所で殺人が起き、きっちり物語を追いかけていない人でも、偶然どこかで起きる事件の重要場面に出くわすよう物語が設定されている。

画像提供:イマーシブ・フォート東京「ザ・シャーロック」SHERLOCK HOLMES, DR. WATSON, and are trademarks of Conan Doyle Estate Ltd
画像提供:イマーシブ・フォート東京「ザ・シャーロック」SHERLOCK HOLMES, DR. WATSON, and are trademarks of Conan Doyle Estate Ltd

リピートにつなげられる能動的な楽しみ方を伝えていけるか

 イマーシブ・フォート東京は、ヴィーナスフォートの跡地をほぼ居抜きで活用し、初期投資額を抑えることで投資回収しやすいよう作られている。それでも、テーマパークとして運営を継続させるためには、オープン時の話題性で1巡目のゲストを集めた後、いかにリピーターを獲得するかが極めて重要である。その点、イマーシブシアターは、作品のファンになると、通常の脱出ゲームや謎解き、推理ゲームなどに比べて何度もリピートしやすい。

 「ザ・シャーロック」は、1度に全ての展開を見ることができない分、次はこのキャラクターを追いかけてみようなどと、何度もリピートすることで、物語の全体像を自らつかめるようになっている。これは昨今ドラマなどの「考察」の人気がある時流にもマッチしている。

 イマーシブ・フォート東京で最も高額なアトラクションである「江戸花魁奇譚(えどおいらんきたん)」は、演者と参加者が会話するだけでなく、R18指定ならではといえる演者が参加者に触れる場面がある。参加者に物語の登場人物になる積極的姿勢が求められる分、濃密な体験ができ、これはやや上級者向けといえる。作品内の体験は固定ではなく、参加者それぞれ異なる体験ができるのが売りである。物語は100パターン以上になり、行動次第で物語の結末すら変わることがある。複数回体験して初めて真価がわかるとすら言えるアトラクションで、ハマった人は何度訪れても満足度が落ちにくい。

画像提供:イマーシブ・フォート東京 「江戸花魁奇譚」は参加者に能動的な姿勢が求められる
画像提供:イマーシブ・フォート東京 「江戸花魁奇譚」は参加者に能動的な姿勢が求められる

 一方、ライト層は入場料だけで体験できるアトラクションを選びがちであるが、ライトなアトラクションの中には他のテーマパークと体験が大きく異なるとは言い難いものもある。有料のアトラクションのセット券があり、そちらを選ぶ方が体験価値は高いが、「ザ・シャーロック」や「東京リベンジャーズ」がセットになったチケットは9,800円と、東京ディズニーリゾートやユニバーサル・スタジオ・ジャパンのワンデーパスポートに匹敵する価格である。演劇として見れば妥当な価格と言うこともできるが、テーマパークとしては強気の値付けに見え、値段の割にアトラクションが少ない印象を抱く人もいるだろう。

 テーマパークという形式を選んだおかげで多くの人を呼び込めるイマーシブ体験の場を作ることができた。将来的に国内外で同形式のテーマパークを展開することを考えているという。しかし、テーマパーク感覚で訪れる来場者は、費用対効果や受動的でも楽しめる体験だけなら他のパークと比較してしまうだろう。そのため、テーマパークの利点を活かしつつ、従来のテーマパークと異なる新たなイマーシブ体験の魅力をゲストにどう伝え、より能動的な参加を促していけるかが大きく問われる。

桜美林大学ビジネスマネジメント学群教授

早稲田大学大学院博士課程修了。博士(工学)。2006年より桜美林大学ビジネスマネジメント学群助教授、准教授を経て、2009年より現職。専門分野は、レジャー産業、レジャー施設、レジャー活動。1990年から『レジャー白書』の執筆に携わる。近年はアジア諸国のレジャー活動状況調査を実施し発表。単著『新 ディズニーランドの空間科学 夢と魔法の王国のつくり方』『観光・レジャー施設の集客戦略 利用者行動からみた“人を呼ぶ魅力的な空間づくり”』、共著『「おもてなし」を考える 余暇学と観光学による多面的検討』『観光経営学』『観光学全集 観光行動論』等。レジャー施設に関する論文多数。

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