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社会のスマホ「最適化」が進む、2023年を予想する

山口健太ITジャーナリスト
スマホと小物だけを持ち歩けるバッグ型の「スマホショルダー」(筆者撮影)

スマホの普及を背景に、世の中のさまざまな仕組みをスマホに「最適化」する動きが進んでいます。これが2023年にはどこまで進むのか、注目ポイントを予想してみます。

「スマホ最適化」で世の中が激変

日本のスマホ普及率は調査によって異なるものの、おおむね8〜9割に達しています。この高い普及率を背景に、スマホを持っていることを前提とした仕組み作りや、既存サービスの見直しが進んでいます。

これはすでに「デジタル」が活用されている分野も例外ではありません。スマホに取って代わられつつあるコンパクトデジカメや音楽プレイヤーは、いずれもデジタル機器といえるものです。

航空会社のANAは、「自動チェックイン機」で省力化を図ってきました。しかしスマホが普及したということは、誰もが自動チェックイン機を持ち歩いているようなものです。2023年4月以降、ANAはこうした端末を順次撤去していく方針です。

ただし、これは単なる「無人化」とは異なります。有人のカウンターでは事務作業が減ることで、支援を必要としている人により多くの時間を割けるようになります。デジタルはむしろ「人に優しい」というわけです。

ほかにも、世の中にはスマホがなかった時代に作られた非効率なモノやサービスで溢れかえっており、これらを見直していくDX(デジタルトランスフォーメーション)の機会は無限に広がっています。

たとえば、誰もが当たり前のように持っている「財布」は、現金やカードのデジタル化に伴って使用頻度が減っています。財布を作って売るビジネスは徐々に難しくなるでしょう。

その一方で、新しいビジネスも生まれています。財布を買うことが減った代わりに「スマホケース」を買う機会は増えています。スマホを肩から提げて持ち歩ける「スマホショルダー」は2022年のユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされました。

こうしたスマホ最適化は、モノやサービスのあり方を変えるだけでなく、人間の行動や考え方にも徐々に影響を及ぼしつつあるように思います。

デジカメや音楽プレイヤーを買う代わりに、最新のスマホや携帯キャリアの上位プランにお金をかけることで、「スマホ体験」を高めようという人は増えています。

オンラインでの自分の見せ方にこだわるなら、リアルの服やアクセサリーよりもゲーム内で「課金」したほうが効果的です。これは将来的な「メタバース」普及の下地になるでしょう。

スマホで得られる情報は多すぎるため、「分かりやすさ」や「シンプルさ」がより重要になります。余計なものに時間や手間をかけたくない、という最適化も進んでいるわけです。

携帯料金で面白いのは「povo2.0」です。基本料は0円で、そこに音声やデータを追加していくと、必ずしも月額料金が安くなるとは限りません。しかし余計なものにお金を払わずに済むことはたしかです。まさに携帯料金の最適化です。

若者の住居としては、日本経済新聞が「風呂なし物件」、米New York Timesが「3畳のアパート」を取り上げ、話題になりました。これに対してSNS上では「好き好んで住んでいるのではなく、経済的事情ではないか」との指摘が相次いでいます。

ただ、その根底には、スマホを中心に余計なものにコストをかけずに暮らしたいという「ライフスタイルの最適化」があると筆者は考えています。

より長期的な視点で人生を最適化する動きとしては、生活費を切り詰めて投資に回すことで早期リタイアを目指す「FIRE」がブームになりました。

SNSや動画が果たしている役割も大きいでしょう。新たな最適化手法を発信することで注目を集め、それに多くの人が影響を受ける、という循環が生まれているように思います。

2023年はマイナンバーカードや経済圏争いに注目

スマホ最適化という大きなトレンドが続く中で、2023年は「マイナンバーカード」との連携強化や、「経済圏争い」のさらなる激化を筆者は予想しています。

作るメリットがない、と言われがちなマイナンバーカードですが、徐々に機能が増えています。マイナ保険証は医療機関などでの対応が2023年4月までに原則義務化(経過措置として9月末まで)され、保険証のデジタル化が期待できます。

マイナンバーカードの証明書は2023年5月にAndroidスマホへの搭載が始まります。iPhone対応の遅れは気になるものの、これをきっかけに新たな活用が期待されます。

2023年も経済圏争いは引き続き激化するでしょう。物価高騰を背景に、節約やポイ活を求める動きはますます高まるものと考えています。

また、現金に代わる支払い手段として始まったスマホ決済は、金融サービスの拡充に向かっています。

その中で2023年春に解禁される「給与のデジタル払い」では、毎月まとまったお金が銀行に入る、というお金の流れが一部変わることで、スマホ決済やフィンテック事業者にとって大きな機会になりそうです。

2024年1月からの新NISAでは期限が撤廃されることで、生涯の資産形成に取り組むことが可能になります。一度始めたらなかなか動かないと思われるだけに、2023年のうちにどれだけ多くの人を囲い込めるか、勝負所といえそうです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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