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孫社長「Arm売却中止」で逃した利益は数兆円?

山口健太ITジャーナリスト
決算説明会に登壇した孫正義会長兼社長(SBGのライブ配信より)

2月8日、ソフトバンクグループ(SBG)が決算説明会を開催。アリババなど保有する株式の価値が下がり、SBG自体の株価も低迷する中、「Arm再上場」に夢をつなぐ形になりました。

前回は説明会中に自社株買いを発表するというサプライズも相まって、今回もライブ配信は最大8500人超が視聴。ハイテク株の暴落などを背景にSBGの株価も1月末に5000円を割り込む場面があり、その対策を期待している人も多かったと思われるものの、孫社長がメインテーマに掲げたのは「Arm」でした。

Armは2016年にSBGが買収後、2020年9月にはNVIDIAに売却することを発表していました。孫社長は楽観的な見方を示していた時期もありましたが、2月8日には中止を発表。主な理由としてはGAFAや各国の規制当局からの反対があったためと説明しています。

実際のところ、SBGはどれくらいの利益を逃したのでしょうか。Armの買収額3兆円強に対して、NVIDIAと合意した売却額は4兆円強、差し引き約1兆円の利益があるはずでした。

しかもその3分の1は現金、3分の2はNVIDIA株とのこと。NVIDIAの株価は当時の約130ドルから2021年11月には約330ドルに値上がりしており、孫社長によれば今日現在でも合計で800億ドル(約9.2兆円)を超えていたといいます。もし売却が成立していれば、3兆円の元手で6兆円の利益を得ていた計算になります。

その多くは含み益とはいえ、SBGはNVIDIA株の約6.7〜8.1%を保有する筆頭株主になり、今後も「メタバース」や「Web3」といったテックトレンドの中心で、孫社長が影響力を行使し続ける可能性がありました。その合計価値は測定不能といえるでしょう。

普通に生きていれば数兆円を取り逃すという経験はなかなかないだけに、その心中は察するに余りあるところです。

Arm再上場で夢をつないだか

NVIDIAへの売却はできなかったものの、孫社長が気持ちを切り替えて熱弁したのがArm再上場の可能性です。「半導体業界史上最大の上場」を目指し、2022年度中に米NASDAQなどへの上場を想定しているといいます。

Armはプロセッサーの設計図をライセンス販売している会社で、iPhoneやAndroidなどのスマホはもちろん、最近話題のアップル「M1」やグーグル独自の「Tensor」もArmのIPを使っています。同様の仕組みでクラウドやEVにも採用が進むことで、さらなる成長を見込めるというのが孫社長の見立てです。

気になるのは2022年に入って株式市場の空気が変わっている点です。コロナ禍での株高を支えた金融緩和は縮小に向かい、米国では急速なインフレを利上げでどう抑え込むかが議論される中、IPOを含め、ハイテク株は厳しい状況に陥っています。

果たしてNVIDIAに売却するよりも高い値が付くのでしょうか。孫社長は「市場が決める」と語っており、懐疑的な見方もありそうですが、ハイテク株の中でもしっかりと利益を出し、成長余地が大きい銘柄は評価される傾向にあります。ここに夢をつなげるか、今後の注目ポイントになるでしょう。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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