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打倒トランプ!2020年女性大統領候補(3)共和党女性議員もトランプが大嫌い

山田順作家、ジャーナリスト
実はトランプは嫌い、ニッキー・ヘイリー国連大使(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領の女性の対する考えがもっとも表れているのが、大統領選挙戦中に暴露されたある映像だ。これは、2005年の米NBC番組収録前に司会者と交わした会話を録画したもので、ここでは言いたい放題を言っている。

「相手がスターなら、女はやらせる。なんだってできる。プッシー(女性器)をまさぐってな」「友人の妻とやるのがいいんだ」などと、欲望丸出しで、女性を欲望の対象としか見ていない。

 また、この大統領は、女性を容貌とスタイルでしか評価しない。共和党で大統領選の指名を争った元ヒューレット・パッカードCEOのカーリー・フィオリーナ氏について、「あの顔を見てみろ。誰が投票するだろうか。あれが次期大統領の顔だなんて想像できるか?女性をけなすべきではないと言っても、まさか、冗談だろ?」と言ってのけた。

 大統領選の本選を争った民主党候補ヒラリー・クリントン氏に対しては、「ヒラリーは見た目が大統領らしくないぞ。国民には大統領らしい外見が必要だ」と、これもまた容貌をけなした。

 さらに、MSNBCの情報番組『モーニングショー』の司会者ミカ・ブレジンスキー氏から批判されたときは、ツイッターに、「昔会ったとき、低IQのクレイジーなミカは、フェイスリフト(顔のしわやたるみを取る手術)でひどく血が出ていた」と投稿した。

 これでは、女性に嫌われて当然だ。身内の共和党の女性議員もほとんどがトランプを嫌っている。そこで、今回は保守系の大統領候補を紹介してみたい。

カーリー・フィオリーナ(Cara Carleton "Carly" Fiorina、64歳):2016年共和党大統領候補

 2020年には66歳になるため、出馬の可能性は少ないが、ないとは言い切れない。前回選挙では立候補を表明して半年ほどで撤退、テッド・クルーズ候補への支持に回った。それを受けて、クルーズは自身が共和党大統領候補に選出された場合、フィオリーナを副大統領候補とすることを表明した。

 フィオリーナは、アメリカ人なら誰もが知っているビジネス・ウーマンのトップ。元ヒューレット・パッカードのCEOである。2008年の大統領選挙でジョン・マケイン上院議員の経済顧問となったことで、政界を目指し、2012年のカリフォルニア州の上院議員選挙に出馬したが、民主党のバーバラ・ボクサー氏に敗れた。

 スタンフォード大学でBA(学士)、MIT(マサチューセッツ工科大)でMS(修士)と優秀で、受付嬢からキャリアをスタートさせてトップまで上りつめたというストーリーは有名だ。

 彼女は「闘争型の女性」と言われ、常に上を目指していくというポジティブな姿勢が共感を呼んできた。上院議員選挙時は、ガンで闘病した経験を引き合いに出し、「現職のボクサー議員は怖かったけれど、自分がガンのキモセラピー(理学療法)をやってからは怖くなくなった」と発言している。

 政治的なポジションは、共和党穏健派の本流。

ニッキー・ヘイリー(Nimrata Nikki Randhawa Haley、46歳):共和党、国連大使

 ニッキー・ヘイリーは、サウスカロライナ州史上初の女性知事であり、任期中は全米50州で最年少の知事だった。その知名度と実績で、トランプが国連大使に任命し、現在、その職責を忠実に果たしている。

 しかし、彼女は、大統領選挙中にはトランプの移民政策には反対の立場を取り、「トランプ氏は大統領にふさわしくない」と批判していた。だから、心の中ではトランプを嫌っているはずだ。

 ヘイリーが注目されたのは、2016年のオバマ前大統領の一般教書演説に対する共和党の反対演説。ここで、彼女の弁舌の巧さが知れ渡り、一躍、共和党の女性議員のトップと目されるようになった。大統領選では、共和党候補指名争いで敗れたテッド・クルーズ上院議員、マルコ・ルビオ上院議員を支持していたが、トランプに国連大使を要請されると、素直に受け入れた。

 国連でのヘイリーは、アメリカの国益を第一にした強硬路線を取ってきた。北朝鮮問題では、外交的解決を可能にするには、最強の制裁措置が必要だと主張し、「アメリカはけっして戦争を望んだりしないし、いまも望んでいないが、われわれの忍耐力は無限ではない」と、北朝鮮に警告した。

 また、安保理の演説では、イランを標的にし、「中東の平和と安全に対する脅威の背後には常にイランがいる」と、イランを非難した。

 ヘイリーが知事時代に注目されたのは、南軍旗の撤去問題だった。これは、サウスカロライナ州の議会議事堂に掲げられていた南軍旗をめぐって、2015年6月に教会で白人男性が9人の黒人を射殺する事件が起きたことをきっかけに、ヘイリーが撤去を命じたという事件だ。このことが報道されると、全米で大論争が巻き起こった。結局、州議会が承認して旗は撤去されたが、ヘイリーの知名度は一気に上がった。

 ヘイリーの父母は、インドからの移民で、彼女は移住後に生まれた。クレムゾン大学で会計学を専攻、卒業後はキャリアを積み重ね、2004年に州の下院議員選挙に出て当選し、その後に州知事となった。

 大学時代に知り合ったマイケル・ヘイリー氏と1996年に結婚。夫は州兵として勤務。10代の子供2人の母親だ。

ケリー・エイヨット(Kelly Ann Ayotte、50歳):共和党、ニューハンプシャー州上院議員

 現在、最年少の女性上院議員として知られるエイヨット議員は、安全保障の第一人者と目されている。日本にとっては恩人とも言え、尖閣問題に関して、日本の施政権を守る書簡に署名した8人の議員のうちの1人である。

 ペンシルベニア州立大学でBA(学士)、ヴィラノヴァ大学でJD(法務博士)を修得し、ニューハンプシャーの法曹界でキャリアを積んで、2004年に州の司法長官に就任した。その後、2010年に上院議員選挙に立候補して当選した。

 メディアは彼女を「a conservative Republican」(保守的共和党員)と呼んでいる。妊娠中絶には断固として反対の立場(Pro-Life:プロライフ)を貫いてきており、これまでに2度、中絶支援を行う 「PPFA」(Planned Parenthood Planned Parenthood Federation:米国家族計画連盟)を起訴し、同性婚にも反対している。

 ただし、トランプ大統領の誕生には苦悩し、支持するかしないかで揺れ動いた。しかし、最終的には、民主党の全国党大会で、勲功で表彰されながらも2004年にイラクで戦死したイスラム系アメリカ兵の両親が登壇し、トランプを強く非難したことをきっかけに、共和党員なのにトランプ不支持に転じた。

 というのは、トランプはこの両親をツイッターで徹底的に攻撃したからだ。エイヨットはこれが許せず、戦死した兵士の両親を侮辱するなどとんでもないと発言した。 

 エイヨットの夫は軍人であり、2人の子供がいる。しかし、トランプはエイヨットの批判に「おまえは弱い」と、ツイッターで返したのだった。

スーザン・コリンズ(Susan Margaret Collins、65歳):共和党、メイン州上院議員

 スーザン・コリンズ議員は、2006年に上院議員に初当選。以後、国土安全保障・政府問題委員会の幹部を務めている。東部出身者には珍しいカトリック教徒で、政治的なポジションは、「Rockefeller Republican」(ロックフェラー・リパブリカン:共和党穏健派)と評されている。共和党にあっても、かなりリベラルな姿勢を見せている。

 彼女は、オバマ大統領の医療保険改革には反対票を投じた。しかし、「DADT法案」(同性愛者の軍勤務を禁ずる法律)の撤廃には支持を表明した。こうした彼女のリベラルな姿勢に、「NARAL」(National Abortion Rights Action League:妊娠中絶権擁護連盟)は、彼女を「Pro-Choice」(プロチョイス:中絶賛成派)の議員と位置付けている。

 オバマ前大統領が推進した「DoddーFrank Wall Street Reform and Consumer Protection Act」(ドッド・フランク・金融規制改革と消費者保護法案)には、共和党からスコット・ブラウン議員などと共に賛成に回った。

 コリンズは、セントローレンス大学を卒業後、ウィリアム・コーエン下院議員のスタッフとなり、その後、政治的なキャリアを積んで、1996年、コーエンが引退・不出馬を決めたことから、後継として連邦上院議員選挙に出馬して当選した。上院議員としては、共和党と民主党をつなぐ役目を果たしており、政策は民主党寄りである。

 たとえば、LGBTコミュニティと関わりがあり、そのため、共和党の政治家でありながらLGBTの人権団体「Human Rights Campaign」(ヒューマン・ライツ・キャンペーン)から支持を受けている。

 同性愛・同性婚に否定的な立場を取る政治家・党員が多い共和党のなかにあって、彼女の存在は異色と言える。

デボラ・フィッシャー(Debra Strobel Fischer 、66歳):共和党、ネブラスカ州上院議員

 フィッシャー議員は、共和党の保守強硬派( conservative hardliners)を代表する女性議員だろう。

 2012年の上院議員選挙では、サラ・ペイリン氏(アラスカ州知事、2012年の大統領選の共和党副大統領候補)とハーマン・ケイン氏(2012年の大統領選の共和党候補の1人で実業家)からの支持を受けて、自身が保守の立場であることを常に鮮明にして戦った。妊娠中絶と同性婚には強硬に反対し、オバマケアには異を唱え、銃の所持には支持を表明して「NRA」(全米ライフル協会)から支持を得ている。

 移民政策もトランプに近く、不法入国者が公立大学へ入学することに反対している。もちろん、「ドリームアクト」( DREAM Act:不法移民救済法)には反対で、不法移民を追放すべきだと訴えている。

 ネブラスカ州バレンタインで、夫と子供3人で「家族牧場」を経営している。

 以上が現在、メディアで保守系の女性大統領候補として名前が挙がっている女性たちだが、最後に1人、忘れてはいけない女性がいる。

 それは、トランプが溺愛する娘のイヴァンカ・トランプ(37歳)だ。トランプの暴露本とされるジャーナリスト・マイケル・ウルフ氏の著書『Fire and Fury: Inside Trump White House』によると、イヴァンカは「初の女性大統領になりたい」という希望を抱いているという。

 しかし、もし彼女が大統領選に出馬したとしても、「パパのトランプが一緒に付いてくる」のは確実である。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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