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G7をぶち壊したトランプ大統領に「ノーベル平和破壊賞」を!

山田順作家、ジャーナリスト
トランプにとってトルドーはただの「小僧」にすぎないのか?(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領がカナダで行われていたG7をぶち壊し、シンガポールへ向かった。この大統領は「Make America Great Again」(アメリカを再び偉大に)と言いながら、アメリカの力を衰えさせ、世界から嫌われる「単なるわがまま大国」にしてしまっている。

 トランプの言う「アメリカ第一主義」は、「アメリカ利己主義(エゴイズム)」にすぎない。

 このまま、6月12日の米朝首脳会談で、金正恩の言うことを聞いて、平和条約を結ぶなどと言いだせば、世界は一気にダークサイドに落ちてしまうだろう。

 驚くのは、トランプがG7会談後に、カナダ首相トルドー氏の態度をツイッターで、「会談中は従順だったのに、私がいなくなった後、記者会見で『侮辱的だ』と言った。とんでもなく不誠実で弱虫(very dishonest & weak)だ」と非難したことだ。

 なんと、 「very dishonest & weak」である。これでは、金正恩を「sick puppy」(病気の子犬)と呼んだのと同じではないか。

 しかも、 合意文書を承認しないよう指示した(I have instructed our U.S. Reps not to endorse the Communique as we look at Tariffs on automobiles flooding the U.S. Market!)のだから、国際会議をなめている。いくら、本人は“早退”したとはいえ、いったんは合意した文書ではないのか?

 そんななか、Justify(ジャスティファイ)がベルモントステークスに勝って、シアトルスルー以来の無敗の3冠馬となった。スタンドもアナウンサーも熱狂のゴール。なんと、スタートから先頭に立つと、そのまま2400メートルを逃げ切った。4コーナー手前から、Vino Rosso (ヴィーノロッソ)がまくりにいったが捉えられず、直線では内から追い上げてきた欧州移籍馬、ポリトラック4戦無敗というGronkowski (グロンコウスキー)が2着、 Hofburg (ホフバーグ)が3着に入った。

 

 ジャスティファイはこれで偉大なアメリカ3冠馬となったが、トランプは、偉大なアメリカの破壊者のままだ。パリ協定から離脱し、気候変動など知ったことではない。TPPから抜けて、中国の拡張主義は包囲しない。ロシアのクリミア併合を許してG7に呼び戻す。自由貿易なんかバカがやること。おまけに、北朝鮮の非核化は「ゆっくりでいい」では、世界はどうなるというのか?

 トランプがもしかしたら本当にモノを知らないのではと思うのは、アメリカ経済がなんで成り立っているか理解できていないのでは疑わざるをえなくなることだ。

 アメリカが自由貿易を主導してきたのは、自国市場をほとんど無関税で開放し、そうすることで対米輸出の黒字を得た国々は、そのドルでアメリカ国債を買い込む。そうすると、ドルはアメリカに還流するので、アメリカがいくら赤字でも、ドルによる経済覇権は維持される。こういうメカニズムを、トランプは本当に理解しているのだろうか? 単なる会社の社長として、赤字を減らすことがいいことだと考えているだけではないのか。

 アメリカの貿易赤字というのは、会社の赤字とはまったく違うものだ。しかも、世界貿易のほとんどがドル決済なのだから、アメリカの貿易赤字は他国の貿易赤字とは性質が違う。なぜなら、アメリカにとって、自国通貨ドルでの貿易は国内取引と同じだからだ。つまり、アメリカにとって、ある国とほかの国を2つに分け、その国とのおカネの流れを計算して、赤字だ、黒字だと言うこと自体、ほとんど意味がない。

 このままではトランプにつけるクスリはない。

 米朝首脳会談次第だが、もし、これがアメリカの譲歩となったら、トランプには「ノーベル平和破壊賞」を与えるほかないだろう。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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