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絶望の安倍政権、絶望のアベノミクス。すべて先送りのその先は?

山田順作家、ジャーナリスト
安倍内閣、アベノミクスは終わってしまうのか?(写真:ロイター/アフロ)

■主役の2人のうち1人がいない国会審査

 衆参両院の閉会中審査が、ほとんど進展がないまま終了した。野党の的を射ていない質問と、政府のはぐらかした答えの応酬を見聞するのはもううんざりという人も多いと思う。

 なにしろ、主役の2人のうち1人、加計孝太郎氏がいない。

 安倍首相が言うように、「彼が私の地位や立場を利用して、なにかを成し遂げようとしたことはただの一度もない」ということなら、ぜひとも加計孝太郎氏本人を呼んできてほしい。そして、「その通りです」と、証言してもらいたい。

 これほど、首相が窮地に追い込まれているのだから、親友なら自ら証言を買って出るべきだ。

 安倍首相も含めて大臣や官僚は、みな“確かな記憶”がないようなので、そうしない限り疑惑は晴れない。このままでは、野党の口癖「国民は納得しない」が続いていくだけだろう。

■もはや考えられなくなった「安倍長期政権」

 それにしても、「安倍一強」とまで言われたこの政権の凋落ぶりは目を覆うばかりだ。もはや、完全にレイムダック化してしまったと言っていい。

 ついこの間まで、安倍政権は2021年9月まで続き、史上最長の政権になると言われていた。

 今年の3月5日の自民党大会で、「総裁3選」を可能とする党則改正が決まり、来年(平成30年)9月の総裁選挙に勝てば、安倍首相はさらに3年間続投できることになった。つまり、2020年8月の東京五輪を、首相として迎えることができるはずだった。

 しかし、そういう未来は、いまや音を立てて崩れようとしている。

 となると、アベノミクスはいったいどうなってしまうのか? 日本経済、ひいては国民生活がどうなってしまうのか? こちらのほうが、加計学園問題より、よほど大きな問題ではなかろうか?

 そこで、現在ある材料をもとに、アベノミクスのこの4年半を振り返ってみたい。

■2020年度のプライマリーバランスは大赤字

 まず言及したいのが、7月18日の経済財政諮問会議で、2020年度のプライマリー・バランス(国+地方)が8.2兆円の赤字となる見通しが明らかにされたことだ。

 2020年度の黒字化は政府の公約でもあり、財政再建のための最低限の目標でもあった。それが達成できないのはすでに明白だったが、こうまであっさりと赤字と表明されてしまっていいのだろうか?

  しかも、赤字は8.2兆円ではすまない。なぜなら、政府は名目成長率を2.5〜3%と見積もっているからだ。

 

 アベノミクスの4年半ほどで、平均1%ほどしか成長できなかった日本経済が、どうして2.5〜3%も成長できるのか? 東京五輪の年の政府財政は大赤字と考えるのが、自然だろう。

■物価上昇2%達成時期を「2019年度」に先送り

 続いて言及したいのが、7月20日に行われた日銀の政策決定会合である。今回で安倍政権になってから6回目の会合だったが、またしても、目標は先送りされた。つまり、物価上昇2%達成時期を、前回までの「2018年度ごろ」から「2019年度ごろ」に“変更”したのである。

 目標を達成できず、それを先送りする。それを連続6回もすれば、普通は、これを「失敗」と言う。しかし、政府も日銀も口が裂けても「失敗」とは言わない。

 黒田東彦日銀総裁は、いつも強気だ。まるで、仕手師が株を買い続けるように、“黒田バズーカ砲”を発射し続けてきた。仕手師なら、やがて資金が尽きるが、日銀は資金が尽きることはない。お札を刷ればいいだけだからだ。日本政府も、国債を刷り続ければ、それでいい。

 黒田総裁の任期は2018年4月に切れる。それなのに、物価上昇2%達成時期を2019年度ごろに先送りしたということは、後任の総裁に「異次元緩和」を継続してほしいということなのだろうか?

■官邸HPは「成果、続々開花中!」と自画自賛

 異次元緩和と言えば、アベノミクスの「3本の矢」のうちの一つである。就職試験にも出題されたので、誰でも3本の矢がなにかは、思い出せるだろう。すなわち、「大胆な金融緩和」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の三つである。

 それでは、「新3本の矢」がなんだったか覚えている人はどれほどいるだろうか? 新3本の矢とは、「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」である。

 

 では、このような新旧の矢のち何本が目標に到達しただろうか? 残念ながら、全滅ではないだろうか?

 矢が何本あろうと、アベノミクスが目指したものは、一にも二にも「デフレ脱却」による景気回復と経済成長だったはずだ。

 そこで、ここで首相官邸のHPを見てみたい。

 ここでは、アベノミクスの成果が何項目にもわたって併記され、「成果、続々開花中!」という吹き出し付きで紹介されている。

http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seichosenryaku/sanbonnoya.html

 しかし、この成果は、経済数値の“いいところ取り”をしただけの「自画自賛」ではないだろうか?

 

■おカネは日銀に「ブタ積み」されただけ

 それでは、アベノミクスの「3本の矢」のうち、今日まで行われてきた「大胆な金融緩和」(異次元緩和)を、再度見てみたい。黒田バズーカ砲が放たれた結果、なにが起こっただろうか? 

 答は簡単。期待されたことはほぼなにも起こらなかったのだ。それは、以下の数字を見れば明らかだ。

           13年3月    17年6月

マネタリーベース   138兆円    468兆円(+330兆円)

日銀の国債保有残高  165兆円    501兆円(+336兆円)

日銀当座預金      47兆円    363兆円(+316兆円)

 まずマネタリーベースだが、これはアベノミクスのスタート当初から今年6月までに330兆円も増えている。なぜ増えたのだろうか?

 それは、日銀が異次元緩和の号令の下にせっせとお札を刷って、国債を民間の金融機関を通して購入しまくったからだ。そのため、日銀の国債保有残高が、マネタリーベースとほぼ同額の336兆円増えている。

 では、民間金融機関は国債売却で得たおカネをどうしただろうか? 日銀当座預金を見ればわかるように、これも316兆円も増えている。つまり、おカネは日銀のなかに溜まっただけで、市中に出ていかなかったのである。

 おカネは日銀内に「ブタ積み」されただけだったのだ。

■実際は、金融緩和など起こらなかった

 本来なら、民間金融機関は日銀当座預金からおカネを引き出して、企業や家計に流さなければならない。そうすれば企業は設備投資を増やし、家計は住宅ローンや車ローンを組んで家やクルマを買う。消費も上向く。

 つまり、これが金融緩和の効果であり、こうなれば景気は上向く。しかし、そうはならなかった。なぜなのだろうか?

 

 これも、答は簡単。少子高齢化、人口減社会では、民間に資金需要がないからだ。経済規模が縮小していくなかで、誰が国内で投資しようとするだろうか? デフレが続いて、モノの値段が下がるなかで、誰が家やクルマを買うだろうか?

 となれば、民間金融機関は、日銀当座預金のおカネを置いておいたほうがいい。なぜなら、日銀当座預金の超過準備分には付利0.1%がつくからだ。

 

 つまり、実際は、金融緩和など起こらなかった。異次元緩和は、見せかけだけに過ぎなかったのである。これでは、矢が全滅して当然だ。安倍内閣の将来が絶望的になったいま、アベノミクスも絶望的になったと言わざるをえない。

■異次元緩和は政府にとっては「大成功」

 しかし、じつは異次元緩和は「大成功」なのである。目標と言われた的は外し続けたが、もっと大きな目標にぶち当たった。それは、長期金利が0%付近に張り付いたままになったことだ。

 これは、政治家と官僚、つまり「政官連合体」の日本政府にとっては素晴らしいことである。目標とされた物価の2%上昇は起らず、デフレ脱却はならなくとも、そんなことは問題ではない。政府にとっては金利さえ上がらなければいいからだ。

 日本経済、国民生活から見れば、前記したように、アベノミクスは失敗である。しかし、見方を変えると、これは大成功なのである。なぜなら、長期金利を0%付近に抑え込んだことで、政府はこの先、まだ借金財政を続けられるからだ。

 もし、金利が急上昇するようなことがあればどうなっただろうか?

 国債利払い費がかさみ、その分、税収が吹き飛ぶ。場合によっては、予算が組めなくなり、役人の給料さえ払えなくなる。しかし、こうした事態は先送りされた。

 政治家と官僚にとって、景気を回復させる理由はなにもない。なぜなら、景気がいいと民間でおカネが回るから、国民は政府を頼らない。しかし、景気が悪いと国民は政府を頼り、政治家と官僚は権力を強化できるからだ。

■東京五輪を日本はどんな状況で迎えるのか?

 

 しかしである。安倍政権が弱体化したいま、こんなことがいつまで続けられるだろうか?

 すでに、欧米の中銀は、緩和政策の出口に向かって動いている。FRBは緩和を縮小し金利も引き上げた。さらに、今後も金利を上げると市場に約束している。こうなると、海外の長期金利が上がり、それを受けて日本も金利を上げざるをえなくなるときが来る。

 そのとき、日銀が買い溜めた国債を買い取るような金融機関が存在するだろうか?日銀に出口なしとなれば、国債暴落が起こりかねない。ここまでお札を刷りまくったのだから、一旦インフレに転じた場合、それが穏やかなインフレで済むという保証はない。

 2020年、東京五輪を日本はどんな状況で迎えるのか、皆目、わからなくなってきた。安倍政権に変わる「受け皿」はない。民進党ほかの野党側は、政府追及も下手なうえ、経済政策に関してもっと下手だ。

 日本経済の縮小に合わせて緊縮財政を取り、全体をダウンサイズさせても国民生活が成り立っていけるような政策提言が待たれる。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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