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弾劾ばかりではない。トランプに「お前はクビだ!」と言ういくつかの方法

山田順作家、ジャーナリスト
政権発足後の初めての「歴史的」閣議にご満悦の大統領(写真:ロイター/アフロ)

第46代アメリカ大統領ドナルド・トランプ氏の「一発芸」と言えば、「ユーアー・ファイアード!」(You're fired!:お前はクビだ!)だが、その言葉が自分に向かって言われるときが近づいている。

ただ、その辞めさせ方だが、これまで言われているように「弾劾」だけではないので、ここでは、それをまとめておきたい。

ただその前に、直近の「おバカ」エピソードを振り返っておきたい。ご承知のように、“オレさまは偉いんだ”というナルシスト大統領が大好きなのが、「忠誠心」(loyalty:ロヤルティ)だ。

解任したFBI前長官のジェームズ・コミー氏に何度もこれを要求したというのだから、本当に大好きなようだ。しかも、それを長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏が、「FOXニュース」に出て、ペラペラしゃべっている。「父は部下には誰にでも忠誠心を求めるので、司法妨害のような深刻なものではありません」と言うのだ。しかし、そうならば、コミー氏に忠誠心を求めたことを肯定してしまうことになる。しかも、ドナルド・ジュニアは政治には関与しない方針を表明したはずではなかったのか?

この長男と次男のエリック氏は、「パパが大好き」なようで、メディアに出てはパパを擁護しては墓穴を掘っている。

「Comey testimony: Donald Trump Jr. decries 'one big witch hunt'」(Fox News)]

忠誠心と言えば、トランプは13日に、なんと「初閣議」にこぎつけ、その席で出席閣僚たちに口々に自分を賞賛させた。まさに、忠誠心の「踏み絵」をさせたわけで、公開された映像は見ていて、あまりの“素晴らしさ”に絶句するほかなかった。

これは私が言っているのではなく、民主党の上院院内総務のチャック・シューマー氏が言っていることだ。彼は、次のようにツイートした。

「世界史史上最高のスタッフによる偉大なるミーティングだ!!!」(GREAT meeting today with the best staff in the history of the world!!!)。もちろん、皮肉爆発だ。

https://twitter.com/SenSchumer?ref_src=twsrc%5Etfw&ref_url=https%3A%2F%2Fwww.cnn.co.jp%2Fusa%2F35102645.html

トランプの宿敵「CNN」は、コメンテーターのクリス・シリザが、ストレートに「史上最も醜悪な閣議」と言ってしまった。あまりのことに、皮肉まで頭がまわらなかったのだろう。

閣僚で、もっとも“素晴らしかった”のは、ゴリゴリの保守タカ派でイスラム、黒人大嫌い、LGBTには人権などないと思っていて、もちろんプロライフのジェフ・セッションズ司法長官までが、トランプを賞賛したことだ。

日本のワンマン会社の会議は、オベンチャラ発言が相次ぐが、この閣議は明らかにそれを超越していた。

ところでアメリカ人は、じつは「忠誠」が大好きだ。子供のころから学校で、毎朝、星条旗に向かって「忠誠の誓い」(Pledge of Allegiance)を言わされてきたからだろう。しかし、誓うのは「自由と正義」(liberty and justice )に対してであって、個人(大統領)に対してではない。

ただ、トランプは昔から自分に忠誠を誓ってもらうことが“至福の喜び”だった。たとえば、マイアミのパームビーチの別荘「マー・ア・ラゴ」に到着したとき、「Hail To The Chief」(「大統領に敬礼」:大統領が出席する公式行事で演奏される曲)という曲が流れると、いっぺんにご満悦になった。これは別荘のバトラー、アンソニー・セネカル氏が証言している。

大統領になるはるか前から、「大統領に敬礼」が大好きだったという“トンデモ過去”を持っているのだ。

というわけで、本題のどうやって辞めていただくかだが、日本のメディアでいちばんに紹介されてきたのが、「弾劾裁判」である。

(1)弾劾裁判

おそらく、このままいくと、コミーFBI前長官の解任が引き金になって、いわゆるロシアゲートの捜査を妨害したこと(司法妨害)で、弾劾される可能性がいちばん高い。トランプはロシアゲートを「でっちあげ」、コミー証言を「うそっぱちだ」と言っているが、もう一つ決め手になりそうな事実が飛び出せば、下院は弾劾手続きに入るだろう。

大統領の弾劾は、下院で過半数の賛成により発議され、上院で3分2の賛成を持って可決される。現在、下院(435議席)は共和240、民主193、欠員2だから、共和党議員のうち25人が賛成に回れば弾劾決議案は通過する。

となると、下院で約30議席を持つ保守強硬派の「フリーダム・コーカス」が鍵を握る。トランプは、この4月、オバマケアの見直し法案を通過させようとしたとき、彼らを見くびって大失敗している。

ティーパーティやフリーダム・コーカスは保守系ロビー団体の「ヘリテージ財団」の姉妹団体「ヘリテージ・アクション・フォー・アメリカ」(AFA)と「アメリカン・フォー・プロスペリティ」(AFP)などが支援し、そのバックには大富豪のコーク兄弟がいる。

また、ヘッジファンド「ルネッサンス・テクノロジーズ」のCEOロバート・マーサーとその娘のレベッカの財団「マーサー・ファミリー財団」は、スティーブン・バノンとケリーアン・コンウェイを政権に送り込み、資金面でもトランプを支えてきた。

つまり、彼らがトランプを見限れば、弾劾法案は通過する。コーク兄弟もロバート・マーサーもトランプにはあきれているという。

上院(100議席)では67議席が必要だが、現在、共和53で、民主48のため、ここでは共和党議員のうち19人が賛成に回らなければならない。これはちょっときつそうだが、アメリカの政党には党議拘束がないし、「トランプでは中間選挙に勝てない」というムードが高まれば、可決される可能性は高い。

仮にトランプ大統領が弾劾罷免されると、継承順位1位のマイク・ペンス副大統領が大統領になる。ただし、罷免理由が政権の司法への介入になった場合、継承順位2位のポール・ライアン下院議長が大統領になる可能性もある。

(2)副大統領と閣僚による罷免

合衆国憲法の修正第25条(Amendment XXV)では、大統領の罷免手続きを定めている。

その第4節(Section 4)はこうなっている。

「副大統領および行政各部の長官の過半数、または連邦議会が法律で定める他の機関の長の過半数が上院の臨時議長および下院議長に対して、大統領がその職務上の権限と義務を遂行できないという文書による申し立てをしたときは、副大統領が直ちに大統領代理として大統領権限と義務を遂行する」

(Whenever the Vice President and a majority of either the principal officers of the executive departments or of such other body as Congress may by law provide, transmit to the President pro tempore of the Senate and the Speaker of the House of Representatives their written declaration that the President is unable to discharge the powers and duties of his office, the Vice President shall immediately assume the powers and duties of the office as Acting President.)

つまり、副大統領と閣僚の過半数が大統領の罷免に賛成すれば、大統領を辞めさせることができる。すでに、アメリカのメディアは1カ月前から、この「修正第25条を使ったトランプ罷免」について報道している。

その急先鋒は、やはり「NYタイムズ」だ。

「The 25th Amendment Solution for Removing Trump」

しかし、この修正第25条はいままで1度も発動されたことがない。なにしろ、閣僚の半数以上が「こんな大統領とはやっていてられない」(要するにトランプは裸の王様)と言わなければならないからだ。穏健なエバンジェリストのペンス副大統領に、それができるだろうか?

(3)裁判による追放

6月12日、ワシントンDCとメリーランド州の司法長官が、トランプが不動産業を通じて外国政府などから得た報酬は合衆国憲法に違反するとしてメリーランドの連邦地裁に提訴した。いわゆる「報酬条項(第1章第9条第8項)」(議会の承認なしに外国政府から金銭を受け取ることを禁止)違反だ。

続いて、14日、今度は民主党議員196人が同じく報酬条項違反で大統領を提訴した。

トランプは「利益相反」に当たるとして自身が経営する会社の経営権を息子2人に譲っている。しかし、ワシントンの「トランプ・インターナショナル・ホテル」などは引き続き所有しているので、利益を得ているというのである。

この提訴は、裁判になれば、なんとか有罪にまで持ち込めそうだが、じつはハードルが高い。それは、大統領には免責特権があるからだ。大統領がいちいち訴訟に巻き込まれていては、本来の仕事ができないとして、個人の訴訟に関して裁判所は訴訟を却下できることになっている。

ただし、「不適切情事」の常習犯クリントン元大統領は、アーカンソー知事時代の州職員ポーラ・ジョーンズからセクハラ訴訟を起こされて、地裁では免責特権で却下されたが、連邦控訴審では受理された。そのため、和解金として85万ドルを払い、事実上敗訴している。

したがって、トランプの場合、提訴が受理される可能性はありえる。

というわけで、以上が「さよならトランプ」の3パターンだが、どうなるかは神のみぞ知るだ。それにしても、これほど“歴史的に偉大な”大統領はいないので、いざ「さよなら」となると、非常に惜しい気がする。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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