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新型コロナウイルス蔓延で危機的状況の岡山!危機感を覚えにくい原因は?医療現場の実際は?

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
(写真:アフロ)

岡山県の新型コロナウイルス感染者数が増え続け、ついに直近1週間における10万人あたりの感染者数が、大阪、兵庫、福岡に次いで全国4位になりました(5月9日現在)。

(NHK特設サイト: https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/#latest-weeks-card

大型連休前には患者の増加傾向を感じ取っており、このまま行くと連休明けに大変なことになると思っていました。県からは当院へもコロナ病床増床依頼が来て、今増床しておかねば間に合わないと考え、酸素の配管工事などを行い、連休前に体制構築をし直していたところです。結果、連休中にその病床は埋まりました。1週間で様相は激変しました。直近の情報を共有し、突如危機的状況に見舞われた背景、これからの行動についてまとめます。

現状の共有

岡山県では、必ずしも酸素が必要のない軽症患者さんが療養するためのホテルを早期に用意していました。看護師が常駐し、必要があれば医師が遠隔診療を行い、種々の訴えに対応したり、症状が悪化した場合には入院につなげたりということを行ってきました。病床についても、一年前と比較すれば5倍になっており、第3波までは危機的状況に追い込まれることはありませんでした。よく言われる一年間何をしていたのかという質問への回答はこのようになります。入院が必要ない人まで入院させているから医療が逼迫するのだという批判を目にしますが、そうではないということです。

しかし、現状すでにホテルは一杯になりつつあり、入院病床も限界が見え始めています。自宅療養を余儀なくされている方も数100名に及びます。重症病床も救命救急センター中心に用意してくれていましたが、一杯一杯の状況です。中等症までの対応をしている病院で、重症化して人工呼吸が必要になると転院が必要になりますが、待ちが発生しているのです。端的にいうと、コロナにかかって低酸素状態になっても入院できない、人工呼吸が必要な状況になっても対応ができないという状況になっています。

危機感の共有が難しい

いきなりこのような状況になってしまった背景には、COVID-19という感染症の、危機感の覚えにくさという側面が影響していると考えています。COVID-19と診断されたら、基本的には隔離を行います。入院病室は隔離され、一般の方が患者さんと接することは決してありません。集中治療室で治療を受ける人はなおさらです。また、疑われる人においても、発熱外来などを設けて、時間的もしくは空間的に分けて診察するので、普通に生活していると、「世間ではコロナコロナ言ってるけど、実際のところコロナ患者なんか見たことねーし、重症者なんか存在しないのではないか」という感覚になってしまうのでしょう。外来診療をしていて、たまに患者さんからも聞かれます。コロナ患者さんているんですか?と。

Twitterでは、コロナ対応をしている病院に突撃して、一般外来の写真を撮り、「こんなに閑散としているのにコロナで大変なのか?」というようなことを訴えている人たちがいました。しかし、目の届かない所で闘っているから、そんな人も安全でいられるのです。一般の方が立ち入ることがないところでコロナ患者さんは病と闘い、医療従事者はそれを支えています。ニュースで数字は伝えられますが、実際に生活のすぐそばまで迫っている実感が湧きにくいのだということを、ぜひ知っておいて欲しいと思います。

危機感なさゆえに

一年前、街はとてつもない危機感で溢れていました。マスクが買えなくなるほど感染対策に注力し、外出もしないので病気にも怪我にも見舞われず、救急搬送も減少していました。ところが、徐々にその危機感は薄れていきます。何回か波が訪れましたが、岡山県においては患者数が急増することはなく、諸外国の状況や、国内で危機的状況となっている大阪などの状況を、別世界の出来事のように思っていた人もいたでしょう。飲み会をしても感染が広がることはなく、比較的通常通りの生活が送れていました。そこにウイルスが入り込んできたので、防御が間に合わなかったという部分が大きいのかと思います。改めて、飛沫感染を起こさないような努力が必要であると考えます。

空気感染を危ぶむ声

先日、米国CDC(疾病対策予防センター:Centers for Disease Control and Prevention)が新型コロナウイルスの感染経路について、新たな見解を公表しました。エアロゾルを吸入することによる感染を表に出してきた感じです。

CDCが5月7日時点で提示した感染経路は次の3つです。

①感染性ウイルスを含む非常に微細な飛沫やエアロゾル粒子を含む空気を吸い込む

②呼気中の飛沫や粒子に含まれるウイルスが、露出した粘膜に沈着する(咳を浴びたり)

③ウイルスを含む呼吸器系の呼気液で汚れた手で粘膜に触れたり、ウイルスに汚染された無生物の表面に触れたりする

(CDCのHP: https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/science/science-briefs/sars-cov-2-transmission.html

①の感染経路は、感染リスクは感染源から1-2m以内で最も高くなるとされるものの、言っていることはほぼ空気感染です。どこで感染するかわからないし、どうにもこうにも立ち向かえないという絶望感も持った人もいるかもしれません。

ただ、これにより我々がすることはほぼ変わりません。飛沫を出さないように、浴びないように、大勢で密に集まらないようにという対策をしていれば、そのまま予防になります。当然やっているけれど、感染者が増え続けており、本当にやっていることに効果があるのかという疑念もよく聞きます。ですが、これらハイリスクな環境に身を置いてしまう人たちがまだいます。

ここのところ私が関わった患者さんについては、感染経路となるリスク行為を特定できることがほとんどです。個々を特定できるような情報はお知らせできませんが、例えば、友人と何人かで遊んだ、友人と鍋をした、カラオケパーティをした、ダンス会に参加した、遠方から来た家族や親族と食事をした、などです。そして、家庭に持ち込んで、家族みんなでコロナに感染してしまうのです。さらに感染した高齢の家族が施設のショートステイを利用すれば、施設に広めることになります。

飲食店でのクラスタが発生していないから、飲食は原因になっていないのではないかとか、カラオケクラスタが発生していないからカラオケはそこまでリスクにならないのではという懐疑的な声も聞かれ始めています。しかし、これまで同様に飛沫を交わす行為はハイリスクです。家庭内感染が主たる感染経路だから、対策のやりようがないということもよく言われるのですが、持ち込むに至るハイリスクな行為を家族の誰かがやらない限り、家庭内に持ち込まれることはないです。ウイルスは自然発生するものではないので。

正念場でやるべきこと

岡山には緊急事態宣言は出ていません。出してほしいという街の声があるようですが、宣言が出されても出されなくてもやることは同じです。年末に、今日からできることとして、皆様に安全に過ごすためのお願いをしました(https://news.yahoo.co.jp/byline/yakushijihiromasa/20201228-00213501/)。改めて共有させてください。

この危機的状況を乗り切るために

・無防備な状態での多人数への接触を避けて過ごす

・いつも会わない誰かと会った場合、潜伏期間である数日〜14日程度は、自分は感染者であると思って過ごす

・リスキーな行為に関わった場合、家の中でもマスクと手洗いを徹底する様に心がける

個食や黙飲黙食が推奨されていますが、こうしたことを徹底して感染した人というのはまだ少数派です。飲食店の時短要請をしても、アルコールの提供を禁止しても、飛沫を交わさないという根本的な目標を達成しないことには、飲食店をスケープゴートにして、何か対策をした気になってしまうだけになります。ハイリスクな行為をする人が少しでも減れば、ずっと強固な感染対策を取り続けている人も報われます。どうか、みんなの命をみんなで守っていければと思います。できる範囲の医療を提供するしかない立場ですが、今以上に事態が悪化しないことを切に願っております。

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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