退職代行を使わずに会社を簡単に辞める方法

退職したいのに辞められない人は沢山いる

 最近、改めて、労働者が辞めさせてくれない会社を辞める方法について注目が集まっています。従前から、いわゆるブラック企業では「人手が足りない」「代わりを見つけて引き継ぎするまで退職は認めない」など、様々な理由を付けて退職を妨害してくる事例があり、社会問題になっています。しかし、労働者は事業所の経営に責任を持つ必要がないので、人手不足は、退職を引き留める理由にはなりません。そして、なかなか辞めさせてくれない事業所に対して、インターネット上では「退職代行」なるサービスも流行っているようですね。

退職代行業は違法の可能性

 しかし、労働者が勤め先を退職することについて、弁護士以外の人や業者が有償で依頼を受けて交渉するのは、原則として弁護士法違反の犯罪になります。弁護士ではない代行業者は、勤め先と示談交渉をしない建前なのでしょうが、労働者が不本意な形で退職を余儀なくされる場合、勤め先との間では、法律や話し合いで解決すべき事項が沢山あるのが普通なので、業者が勤め先と交渉をできないのであれば、業者を入れて退職する意味がありません。

一方的に辞めるなら100円できる

 そういう弁護士ではない退職代行業者に万単位のお金を支払ってできるレベルのことであれば、100円で簡単にできます。退職届は、社長などに実際に面談して提出する必要はないからです。日本の多くの事業所はFAX機を備えているので、退職届をコンビニエンスストアのFAXで事業所に送れば良いのです。その際、「送信レポート」を残す設定にすると、相手方に届いたことの証明になります。送信レポートで到達を証明できるのは最初の1ページ目だけなので、退職届は1ページにする必要があります。

 なお、退職届は、FAXで提出する必要すらなく、電子メールやフェイスブックのメッセンジャーやLINEでも全く問題ありません。内容証明郵便を出す必要はありません。SNSで退職届を出した後、社長や上司などからゴチャゴチャと言われても、読まなくても、既読スルーでもそれ自体に責任は生じません。

 逆に、一度、退職届を提出してしまうと、事情が変わって勤め先にとどまりたくなっても、とどまれない可能性が高くなります。仮に、退職自体は既定路線だとしても、作戦上、今提出してよいのか、その前に証拠保全などのために専門の弁護士に相談しなくてよいのかは、熟慮した方がよいでしょう。

 退職届は何週間前に出すとか、法律の細かい点を指摘しようと思えばできますが、とりあえず、当日辞めるつもりで提出してよいです。事業所の就業規則に「3ヶ月前」とか書いてあっても、奴隷ではないので、意に反して強制労働させられることはありません。即退職したゆえに責任が生じることも、相当極端な事例を除いてありません。その点がどうしても心配なら、やはり、専門の弁護士に相談することをご検討下さい。

 また、退職届について、特定の書式で提出することを強制し、書式を交付しない事業所や、退職届自体で労働者に不利な約束をさせる事業所もありますが、書式は無視して自分で書いたFAXやLINEで提出してよいです。法的な効果は一緒です。

退職届の記載の留意点

 筆者が長時間労働やパワハラの法律相談を受けた場合、例えば、下記のような退職届を出すように言います。

○○株式会社 御中

○年○月○日

甲野太郎 印

 残業代が支払われていない長時間の違法残業(社長○○氏の度重なる暴言)に耐えかねますので、有給休暇を全て使用した後、貴社を退職いたします。そこで、残有休休暇数、退職日をお教え下さい。

 また、未払い残業代を含む未払賃金を全てお支払頂きますよう、本書面をもって請求いたします。また、それに伴い、就業規則、賃金規定、過去2年分のタイムカードを開示して頂きますよう請求いたします。

 不払い残業やパワハラ、セクハラなど、事業所側の違法行為が退職理由の場合は、退職理由に「一身上の理由で」などと書かずに、事業所を批判する形で、退職する理由を率直に書いた方がよいです。場合によっては、これでいわゆる「会社都合」の退職の扱いになり、失業給付の条件がよくなる場合があるからです。事業所を批判する形で角が立つなら、単に「退職します。」だけ書いて、理由は書かなくてよいです。離職の理由が会社都合か、本人都合かは、会社が離職証明書に「自己都合」などと記入しても、最終的にはハローワークが決定するものです。サービス残業の根拠となる給与明細書やタイムカードを証拠として提出して、ハローワークに掛け合いましょう。

 残業代請求については、期間を区切らず、「全て」という形で特定した方がよいです。残業代(賃金)の消滅時効は2年で、請求書を送ることで、時効が6カ月間ストップするのですが、残業代の支給は、基本給等の固定給とは一ヶ月ずれていることも多く、過小に請求範囲を特定すると勿体ないことになります。

 有休手当、退職後に支払われるべき賃金、残業代など請求した賃金が支払われない場合は、やはり専門の弁護士に相談する方がよいと思います。

嫌がらせに対する対抗措置

 急な退職に対して事業所が取ってくる嫌がらせで多いのは、(1)離職票発行に関連して離職に伴う社会保険関係の手続を取らないこと、(2)賃金を支払わないこと、です。どちらも違法行為なので毅然と対応しましょう。事業所が退職の手続をとらないことについては、事業所を管轄する地域のハローワークに相談しましょう。賃金の不払いは労働基準監督署に相談する手もありますが、弁護士に相談した方が結局良い結果になる事もあります。

弁護士への相談を選択肢に

 以上をまとめると、単に辞めるだけなら100円ででき業者は不要で、退職について特に金銭絡みで勤め先と交渉すべき事項がある場合は、退職代行業者では対応できず、専門の弁護士に相談した方がよい、ということになります。弁護士の費用は、それぞれで決まっていますが、退職代行業者が提示している額と同等程度の金額で、数段は質の高いサービスが受けられる可能性が高いと思います。

 専門の弁護士は、色々あるでしょうが、日本労働弁護団に所属している弁護士に相談することを、強くお奨めいたします。弁護士に相談することにどうしても抵抗があるなら、各地の労働組合に相談するのも選択肢になります。

日本労働弁護団:各地の労働相談窓口