自民党の18歳選挙権パンフはなにがマズイのか

右は投票に行くように勧める自民党パンフ。左は選挙運動禁止を強調する政府のパンフ

自民党が18歳選挙権について解説したパンフレットを発表しました。

これについては、批判的な論調でコメントする記事がいくつか見られます。

ハフィントンポスト:「国に届け」自民党18歳選挙の漫画パンフに「女の子をバカにしているのか」の声も

毎日新聞:「自民党 選挙向け漫画が変 「軽いノリじゃダメですか?」」

いきなり投票の話になる違和感

いきなり投票の話になる
いきなり投票の話になる

しかし、筆者には、この論評のいずれも、このパンフが国民をバカにしているように見える本質を突いていないように思えます。

この漫画の何が国民をバカにしているのか。それは、国民と政治との関わりを投票の一点に集約している点だと思います。

実際には、国民には請願権(憲法16条)があり、政府機関や、国会や、国会議員に頻繁に請願(陳情)をしています。選挙と選挙の間で、国の政治の流れを決めるのはこのような請願です。例えば、筆者の周辺で言えば、過労死した労働者の遺族の方々が団体を結成して、弁護士や学者を巻き込んで超党派の議員に働きかけ、過労死防止基本法の制定に漕ぎつけました。経営者団体である日本経団連も頻繁に政府や与党と接触し、提言もしていますね。もちろん、政治献金もしています。そういう運動を通じて、政府の審議会に委員を送り込み、派遣法改正や残業代ゼロ法案の法制化を推進し、今でもしています(拙稿「パソナ竹中平蔵氏肝いりの労働者派遣法の規制緩和を許していいのか」参照)。労働組合もやり方は違いますが同じようなことをしています。誤解のないように言っておきますが、筆者は本稿でこれらの動きが悪い、といっているのではなく、それが議会制民主主義の下での政治だ、と言っているのです。

また、2012年の大飯原発再稼働を巡る国会包囲行動や、2015年の安保法制を巡る国会包囲デモは、その後の政治に大きな影響を与えています(追記 これは憲法21条で保障された表現の自由を行使して政治にアクセスする方法です)。若狭湾だけですでに3基の原発の廃炉が決まり、今現在、若狭湾で稼動している原発は一基もありません。政府が原発推進の姿勢を明確にしているのに、このようなことが起こるのは、2012年以降の脱原発運動の盛り上がり抜きには考えられない現状でしょう。

自民党のパンフには、そういう政治の現実と、高校生も主権者(投票権がなくても政治には参加できます)としてその輪に加わってよいのだ、というメッセージが決定的に欠落しているのです。実は、議会制民主主義の社会では、投票をするだけのバラバラの個人は、烏合の衆であり、民主主義の主要なプレイヤーにはなれないのです。選挙の度に無党派層の波がうごくのに、選挙後に大概裏切られるのも、政府、政党、政治家を継続的に監視し、後押しする継続性がないからなのです。

政治の現実を教えない

この点、もうちょっと掘り下げてみましょう。「隊友会」という公益社団法人があります。「国民と自衛隊とのかけ橋として、相互の理解を深めるとともに、防衛意識の普及高揚に努め、国の防衛及び防災施策、慰霊顕彰事業並びに地域社会の健全な発展に貢献することにより、我が国の平和と安全に寄与し、併せて自衛隊退職者の福祉を増進すること」を目的とする団体です。この団体にはOBのみならず、賛助会員として20万5千人の現役の自衛隊員が所属しているそうです。

1面に宇都議員の署名記事
1面に宇都議員の署名記事

この団体は公益社団法人なので、もちろん、それとして選挙運動はできません。しかし、実際には自衛隊出身の自民党の参議院議員である佐藤正久氏(今回は非改選)、同じく自衛隊出身の自民党の参議院議員である宇都隆史氏(2016年改選)が会の顧問になっており、2016年の参院選で改選組である宇都議員が今年の新年号の機関紙で挨拶をし、その後、2月号、3月号では1面で顔写真入りで「政界スクランブル!」という連載を持ち、給与・退職金を含む自衛隊予算の増額を政策として打ち出し(2月15日号)、選挙に臨む決意を語るわけです(3月15日号)。このほかにも、会が自民党に呼ばれて政策提言したり、佐藤議員や宇都議員を講師に招いた学習企画や、都道府県単位の会の支部と議員の後援会が交流している様子も見てとれます。

このような宇都議員の献身ぶりをみて、自衛隊員の皆さんが宇都議員に投票したくなるのは、自然な感情でしょう。ここでも注意しておきますが、筆者はこの論考でこのような選挙のあり方がマズイと断定しているのではなく、このような中間団体を介して「束」になった国民の要求を国会に届けるのが、日本に限らず、民主主義における政治の現実だ、ということを言いたいのです。分かりやすいので隊友会の例を取り上げましたが、おなじことを、各党が背負っている支援組織(経営者の団体であったり、中小業者の団体であったり、医師会のような団体であったり、労働組合であったり、宗教団体であったりするわけです。実際には組織の構成員で別途つくる政治団体であることも多いです。例えば宗教法人である神社本庁と繋がりの深い「神道政治連盟」というのがありますね。)がやっています。

ちなみに、このような団体と政党の関係がいつでも良好なわけではなく、TPPの交渉を巡り、農協関係の団体と自民党の間には緊張関係が走り、自民党は、JA全中の権限を弱める法改正をしたりしています。また、自民党は、参院選を前にして、教職員の政治活動一般に罰則を導入するような議論をしており(最高裁判例からすれば憲法違反になる可能性が高いですが)、もともと、教員が地位を利用した政治活動は禁止されているので、さらに政治活動一般に規制をかけると牽制することで、他党との関わりが深い教職員組合の動きを足止めしようとする狙いがある訳です。

総務・文科省のパンフ。これをみて政治に参加したいと思う高校生はいるのか
総務・文科省のパンフ。これをみて政治に参加したいと思う高校生はいるのか

普段(不断)の政治過程への参加を呼びかけない

自民党のパンフは、何の組織もない、知識もない高校生たちが、このような政治のプレイヤーとして、いきなり放り出される現実を捨象し、ただ、投票に行け、とだけ言います。ひと言で言えば「そんな装備で大丈夫か?」なのであり、これでは、高校生たちが未来を託した一票が、実際には様々な団体の要求を押し上げるエンパワーメントにはなっても、高校生たち自身の要求を国会に届けることには必ずしもならないのです。政党の側から見れば「キミたち、投票して、我々がやる政治の礎になりなさい。そして、黙ってなさい。」というのが、このパンフレットの隠れた主題なのです(そういえば無党派層に寝ていて欲しい、と言った首相も過去にいましたね)。

実は総務省・文科省のもその類

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実は、総務省・文科省が高校生向けに作った18歳選挙権のパンフレットも同様の問題があります。投票所に行けば誰でも分かる投票の仕組みの解説を延々とした後、選挙運動をするな、するな、のオンパレードな訳です。隊友会が現実にやっているように、法の規制にかからないように政治にアクセする方法を、決して教えてくれないのです。

一方、私の所属する自由法曹団京都支部では、新しい有権者(だけでなく選挙権のない高校生も)がどうやったら政治にアクセスできるのか、何ができるのか、を主題にしたパンフレットを作りました。興味のある方はこういうものもご参照下さい。