派遣法改悪の歴史が示す残業代ゼロ制度の未来

今、厚生労働省の労働政策審議会で、「新しい労働時間制度」(残業代ゼロ=過労死促進法案)の検討がなされています。これについてはYahoo!個人ページでもすでに様々な反論がされていますね。佐々木亮さんのQ&Aは取っつきやすくて読みやすいですよ。

嶋崎量「簡単!残業代ゼロ法が成果主義賃金とは無関係である理由」

佐々木亮「<残業代ゼロ・過労死促進法案>他人事ではない!~年収1075万円は絶対に下げられる5つの理由」

今野晴貴「新聞各社の誤報について 「残業代ゼロ」」

佐々木亮「政府が提案する「残業代ゼロ制度」(『定額¥働かせ放題』制度)についてのQ&A」

しかし、労政審での議論は大詰めを迎えており、労働者側代表は抵抗を試みているものの、労政審で建議が定まり、法案が国会に提出されることはすでに既定路線化しています。

NHK 新労働制度で報告書案も議論まとまらず

派遣法改悪の歴史

この「残業代ゼロ」制度ですが、「年収1075万円以上のみが対象」「時間ではなく成果で賃金を図る制度」「プロフェッショナルの制度」などと様々な宣伝文句が政府筋から出てくる訳ですが、これは労働問題に関わっている界隈の人間には、すでに見覚えのある風景です。

労働者派遣法という法律があります。労基法ではもともと労働者保護のために「直接雇用の原則」(6条)がありますが、労働者の立場が弱くなるから禁止されていたはずの間接雇用を派遣法で解禁してしまったのです。実際、派遣労働者は一部を除き劣悪な労働条件、低賃金に置かれており、地位も安定しません。

この労働者派遣法ができたのは1985年のことです。このときの政府(中曽根政権)の言い分がまさに「派遣期間の限定があり正規雇用の例外だから大丈夫」「派遣が解禁されるのは労働者に市場競争力がある専門性の高い職種だから大丈夫」だったのです。しかし、一度できてしまった派遣法は以下のようにどんどん適用範囲が拡大されます(法律改正年ベース)。

1985年 専門13業種のみ派遣可。派遣期間原則1年。最大3年。

1986年 専門3業種追加。

1996年 専門10業種追加。専門26業種となる。

1999年 禁止業務以外のすべての業種で派遣解禁。

2003年 製造業で派遣解禁。ただし期間は1年。専門26業種は期間制限撤廃。

2007年 製造業派遣期間最大3年に緩和。

2012年 ちょっとだけ規制強化。違法派遣に直接雇用みなし(施行は2015年10月)。

2015年 全業種で一定手続を条件に派遣期間を全廃する法案出すぞ!←イマココ

2007年と2012年の間の2008年にリーマンショック、2009年に年越し派遣村があり、2009年の民主党政権誕生に繋がっています。そう、派遣法改悪は、社会不安を呼び起こし、政権交代の背景事情の一つともなったのです。政権についた民主党が不十分ながら一応派遣法の規制強化に乗り出したのは必然性があります。

もし、今国会に提出されると言われる派遣法改悪が成立すれば、「生涯派遣」の働き方が当たり前になり、労基法が掲げる直接雇用の原則は有名無実化するでしょう。労働者の地位は不安定になり、さらに低賃金化します。

派遣法改悪の歴史が残業代ゼロの未来を暗示する

もし、今国会に提出される「残業代ゼロ」法案が成立すれば、その後に適用範囲がどんどん拡大することは、派遣法改悪の歴史が証明しているといえるでしょう。実際、政府は「1075万円以上」の宣伝の陰で、同時に、半ば残業代ゼロ制度である「裁量労働制」を営業職や品質管理などに拡大しようとしており、こちらは年収要件がないので、労働現場では(もちろん違法ですが)年収300万円とか400万円の営業マンがみんな残業代ゼロ、という事態になりかねません。やがて、アメリカのように、年収300万円程度の月給労働者は全部残業代ゼロ、みたいなことになるでしょう(アメリカでは現在は制度の見直しが行われています)。今でさえ多い過労死がさらに多発することが懸念されます。

何回も潰している実績

しかし、改悪は必然ではありません。2007年に第一次安倍政権が国会に提出したホワイトカラーエグゼンプション制度は、審議すらできず廃案になりました。上記労働者派遣法の改悪も昨年2度国会に提出され、2度廃案になっています。与党が巨大でも、国民世論を全く無視した政治はできないのです。残業代ゼロにせよ、派遣法改悪にせよ、国会の監視を強め、地元の国会議員などに「反対、反対」と言い続けるのが大事だと思います。