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公立小学校の先生を減らしちゃダメです

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)

昨日、財務省が公立小学校1・2年生に導入されている35人学級制度について、40人学級制に戻して予算をケチろうとしているニュースが出ました。

公立の小学校で導入されている35人学級について財務省は、いじめや不登校などで目立った改善が認められないとして、40人学級へ戻すよう見直しを求める方針です。

出典:NHK

この財務省の方針について、すでに各方面から批判が噴出していますが、教員の労働問題の観点から検討したいと思います。

教員は残業代が支給されない

意外と知られていない事実ですが、公立の小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、幼稚園の先生は残業時間に比例した残業代が払われない「ホワイトカラーエグゼンプション」の職場です。「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」という長ったらしい法律で、給料の4%の教職調整手当の支給と引き替えに、一切の残業代が支払われないこととなっているのです。

本当はその代わり、管理職は校外実習、修学旅行、職員会議、非常事態の4項目(超勤4項目といいます。文科省の解説はコチラ)以外は教員に対して残業を命じてはいけないことになっているのですが、実際の教育現場は多忙を極め、部活動の引率、テストの採点、成績処理、保護者対応、各種会議、教育委員会から次々と降ってくる事務処理、研修などで、教員全体が慢性的な長時間残業に陥っています。先頃、始業式より自分の子どもの入学式を優先した教員がバッシングされる事件もありましたが、教員に対して「もっと、もっと」と期待をかける保護者や地域の目もあります。

長時間残業

教員の残業時間がどれくらいあるかというと、OECDの調査によると、日本の教員は週平均約54時間働いて、加盟国トップです。公立学校の勤務時間は週37.5時間なので、それとの関係で16.5時間、労基法の週40時間制との関係でも14時間もの残業をしていることになります。月あたり56~60時間の残業になります。そして、日本の特徴は教育自体に掛けている時間は平均以下で、その他の仕事に割かれる時間がダントツにトップなのです。

A TeAchers' GUIDE To TALIs 2013 - OECD
A TeAchers' GUIDE To TALIs 2013 - OECD

全日本教職員組合(全教)が2012年に行った勤務実態調査(概要はコチラ)ではさらに深刻な数値が出ており、残業は週37.5時間制との関係で月平均72時間56分、持ち帰り残業時間は22時間36分で、合計すると95時間32分にも上ります。学校の先生は、職場で仕事が終わらずに持ち帰り家で仕事をするのです。筆者が担当した学校の先生の過労死事件でも、自宅で資料作成中に亡くなられた例がありました(やや我田引水ですがこの事件について筆者が書いた報告はコチラ)。

学校の先生のメンタル疾患は過去20年ほどで急増しており、過労死・過労自死も後を絶ちません。筆者は 過労死弁護団全国連絡会議にも所属していますが、各地の弁護士が報告する過労死事件の中でも教員の過労死は職種としては最も多いのではないかと思います。

残業代が支払われず、過労死に至るような長時間労働の下、子どもたちに対する質の高い教育をするよう求められるブラックな職場。それが今の公立学校なのです。

財務省はブラック企業か?

このように国は本来支払うべき賃金(残業代)を法律まで作って支払い拒絶し、現場で違法な残業が横行しているのも、教員の過労死が多発しているのも、おそらく知っています。知らなければそれ自体が問題。そうなのに「ゴメン、何とかするわ」ではなく、さらに教員をこき使おうというのです。35人学級の導入は、もちろん子どもに対する教育の質の向上のために行うものですが、教員の労働環境の改善をする意味もあります。というか両者は一体のものですよね。教員が時間的余裕を持って教育に臨めてこそ、質の高い教育が生まれるのではないでしょうか。

他の先進国に比べて、ただでさえ遅れている教育環境の向上を遅らせるどころか逆戻りさせ、教員をさらなる長時間労働に追い込もうとする財務省は、ブラック企業の鑑かもしれませんね。そうなのに、これで削れる国のお金、たった86億円だそうですからね。例えば法人税の引き下げを止めるとか、法人税の引き下げを止めるとか、法人税の引き下げを止めるとか、他にやることはいくらでもあるでしょう。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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